日本代表は「生まれ月」でポーランドに勝てるか
サッカーでは遅生まれの選手のほうが概して活躍する傾向があるようだが、これまでの研究によれば生まれた時期と学業成績や運動能力に関係があるのではないかと考えられている。逆に考えれば、才能のある子も生まれ月のために年少期に脱落しているかもしれない。日本代表とポーランド代表はどうだろうか。
相対的年齢効果とは
多くの場合、学年の単位は1年だ。こうした学年の違いは、集団で初等教育を始めてから大きな影響を与える。こうした影響のことを相対的年齢効果(Relative Age Effect、RAE)という。
義務教育の学校年度の開始時期は各国で異なる。日本の場合、4月1日の時点で満6歳になっている子が小学校へ入学できる。その年の1月1日〜4月1日生まれの子は、4月2日〜12月31日までに生まれた子より1学年上で早生まれということになる。
子どもの生まれた時期と成績との関係についての研究は、以前から多く行われてきた(※1)。生まれた時期とサッカーとの関係ではドイツの研究者が1999年に発表した研究(※2)が有名だが、その後、個人スポーツやチームスポーツ、学業など様々なスポーツや成績、最終学歴などに関する研究が行われている(※3)。
日本の場合、いわゆる早生まれの生徒は、遅生まれの生徒に比べ、身体的な違いを含めてすでに1年間の差が出ていると考えられる。サッカーや野球のように年少期に始めるチームスポーツでは、生まれた時期による成長の差によって才能のある子が脱落すると危ぶまれてもいる。
ベルギーのルーヴェン・カトリック大学などの研究グループによる論文(※3)によれば、ヨーロッパ各国のプロサッカー選手の生まれ月を調べたところ、早生まれの選手が相対的に少ないことがわかったという。こうした傾向は2000年からの10年間、変化しなかったようだ。
生まれ月を1年で4等分して比べた選手の割合。2000年のシーズンから2010年のシーズンまで大きな変化はない。Via:Werner F. Helsen, et al., "The relative age effect in European professional soccer: did ten years of research make any difference?" Journal of Sports Sciences, 2012
W杯レベルの世界大会ではどうだろう。FIFA(国際サッカー連盟)U-17世界選手権(Under-17 World Championship、17歳以下のナショナルチームによる大会。2007年からU-17W杯と名称変更)の1997〜2007年(エジプト〜韓国)までの6回の大会に出場した各国選手を調べた研究(※4)によれば、1〜4月に生まれた選手が40%いたのに比べ、10〜12月生まれは16%だったという。こうした相対的年齢効果はアフリカ諸国の選手以外に顕著にみられた。
サッカーのU-17世界選手権に出場した選手の生まれた時期による違い。生まれ月により選手の割合が変化することがわかる。Via:J H. Williams, "Relative age effect in youth soccer: analysis of the FIFA U17 World Cup competition." Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 2010
日本代表とポーランド代表ではどうか
こうした研究から、今、開催されているW杯ロシア大会における日本代表をみてみると興味深い傾向がうかがえる。4月と5月生まれの選手の割合が多いが、1〜3月生まれの早生まれの選手もけっして少なくない。5月生まれが突出して多いが、6月7月になると極端に減ってしまう。
W杯ロシア大会に招集された当初の35人を生まれ月で分けた。早生まれの選手は少ないわけではない。グラフ作成:筆者
一方、グループリーグの最終戦であたるポーランド代表はどうだろう。ポーランドでは、その年の12月31日までに満7歳になる子が同じ年の9月1日に義務教育を始めるということなので、9〜12月生まれが早生まれとなる。代表選手の生まれ月でみると2月、4月、6月生まれが多いが突出しているわけではない。
W杯ロシア大会におけるポーランド代表23人の生まれ月。日本代表より10人以上少ない母数なので単純に比較できないが、少し異なった傾向がみてとれる。グラフ作成:筆者
生まれた時期とサッカー選手の能力には、本当に関係があるのだろうか。各国の代表的な選手の生まれ月を比べると、ブラジルのネイマール(Neymar)は2月で早生まれ、アルゼンチンのリオネル・メッシ(Lionel Messi)は6月で早生まれ、スペインのアンドレス・イニエスタ(Andres Iniesta)は5月で中間生まれ、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド(Cristiano Ronaldo)は2月で中間生まれだ(※5)。
まれにしか起きない事象を複数の要因で分析する統計手法を使い、世界のトップ1000選手とU-19の選手で調べた最近の研究によれば、バルセロナのようなエリートクラブの場合、年齢が低い時期に選別されるので相対的年齢効果の影響が出るが、各チームが取り合うようなトップ選手になればなるほど違いがなくなるという(※6)。この分析が正しければ、もし早生まれのハンディキャップによって選別されなければ、より多くの優秀な選手が出たはずだ。
セリエAの選手を年代別に分けて調べた論文(※7)でも同様の結果が出ている。年齢が上がり、経験を積むほど相対的年齢効果の影響が少なくなる傾向にあり、選手選別の段階で偏ったバイアスがあるのではないかという。
幼少期に始めることの多いサッカーや野球など、ポジション争いのあるチームスポーツでは、身体能力や体格などの点で早生まれの子には遅生まれの子に比べてどうしてもハンディキャップがあるだろう。
特に男子の場合に影響が大きいようだが、相対的年齢効果の研究者は論文の中で子のスポーツ指導者に対し、こうした点を考慮に入れつつ、その子の資質を適正に評価し、能力を伸ばしていくことを求めることも少なくない。
日本代表とポーランド代表の選手をみると必ずしも生まれ月に偏りがあるわけでもなく、相対的年齢効果は勝敗に影響しないと考えられる。生まれた時期によって過度な選別がなされてこなかったというわけだが、早生まれや4月と5月生まれがバランスよくまとまっている日本代表のほうがやや有利に思えるのは贔屓目だろうか。
※1:Mark G. Borg, et al., "Birth Date and Sex Effects on the Scholastic Attainment of Primary Schoolchildren: a cross‐sectional study." British Educational Research Journal, Vol.21, Issue1, 1995
※2:Jochen Musch, et al., "The Relative Age Effect in Soccer: Cross-Cultural Evidence for a Systematic Discrimination against Children Born Late in the Competition Year." Human Kinetics Journals, Vol.16, Issue1, 1999
※3:Werner F. Helsen, et al., "The relative age effect in European professional soccer: did ten years of research make any difference?" Journal of Sports Sciences, Vol.30(15), 1665-1671, 2012
※4:J H. Williams, "Relative age effect in youth soccer: analysis of the FIFA U17 World Cup competition." Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, Vol.20, 502-508, 2010
※5:外務省:諸外国・地域の学校情報(2018/06/27アクセス):ブラジルではその年の7月31日までに満6歳になる子はその年の2月9日に義務教育の第1学年に入学する。アルゼンチンはその年の6月30日までに満5歳に達する子から3月に入学する。スペインはその年の12月31日までに満6歳になる子はその年の9月第2週に義務教育の第1学年に入学する。ポルトガルはその年の8月31日までに満6歳になる子はその年の9月に小学部の第1学年に入学する
※6:John R. Doyle, et al., "Relative age effect in elite soccer: More early-born players, but no better valued, and no paragon clubs or countries." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0192209, 2018
※7:Paolo Riccardo Brustio, et al., "The relative age effect is larger in Italian soccer top-level youth categories and smaller in Serie A." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0196253, 2018