「大谷選手の回避は当然」上原浩治が考えるMLBホームランダービーの問題点と改善案
メジャーリーグのオールスターゲーム前日の恒例イベント、ホームランダービー(本塁打競争)で異変が起きている。日本時間7月5日現在、27本塁打とナ・リーグトップの大谷翔平選手、ア・リーグトップの32本塁打をマークするヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手がともにダービーへの出場を回避する見通しとなっている。
大谷選手はオフに右肘の手術を受け、回復とリハビリの必要性があるためとされ、ジャッジは一部メディアに「もう出ないというわけではないが、今年は必要ない。ニューヨーク開催になったら出るよ」などとコメントした。
報道によれば、大谷選手の決断には、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督も「彼はワールドシリーズで勝つためにドジャースに移籍してきた。とても責任感のある男だが、リハビリの過程にいる。彼だけがメジャーリーグを背負う必要はない」などと語っている。
私は現行ルールにも問題があると考え、大谷選手やジャッジ選手が回避するのは当然だと思っている。
メジャーのホームランダービーは2015年以降、打者8人が1対1のトーナメント方式で対戦し、延長戦もあった。勝ち上がると、準決勝は3分、決勝2分で「球数制限なし」で何発の柵越えを記録できるかを争う。スイング数や球数に制限がないレースでは、時間内にできるだけ多く打つことが求められる。出場した打者は体力を削られるタフな戦いを強いられ、せっかくシーズンが中断している期間に疲労が蓄積するリスクも生じる。また、制限時間内にできるだけ多くのスイングを繰り返すというのは、本来の打撃とは明らかに異なる。報道では、昨年の8選手は最初のトーナメントで平均43スイング以上していたという。普段の試合のルーティンなどと違うペースで柵越えを狙うスイングを繰り返すことで打撃フォームを崩すことを懸念する声もある。
今年はルールが少し変わり、打者8人の中で上位4人が準決勝に進む形式となった。準決勝までは40球、決勝は27球と球数にも制限がある。それでも、3分で40球だと4・5秒に1スイング、27球で2分だと4・44秒に1スイングすることになり、打者の負担軽減にそこまでつながったとは思えない。
ホームランは「野球の華」であり、同じようなファンが興奮するようなショーは、投手部門では見当たらない。ホームランダービーをファンが楽しみにしているのもわかるが、このイベントを継続するにはさらなる改善が必要になるだろう。
例えば、時間制限を撤廃し、球数だけを決めて、普段の打撃練習と同じ間合いで勝負してはどうだろうか。球数ももっと絞っていいと思う。あるいは、本塁打にならない打球が5球までカウントされるまでに何発の柵越えを打てるかなどはどうだろう。実際、2014年までは一定のアウト数(本塁打以外)に達するまでの本数を争っていた。
たくさんの打球がフェンスを越えていく光景は圧巻だが、選手が出場したいと思ってこそのイベントだということを忘れてはならない。ホームランの醍醐味を失わずに、選手にも大きな負担がかからない形式を考えていく必要があるだろう。
実は、球場に足を運ぶファンの人たちはご存じだと思うが、試合前の打撃練習も目を見張るものがある。現役時代のイチローさんは試合ではヒットを量産するスタイルだったが、試合前の打撃練習では、柵越えを連発していた。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で大谷選手が東京ドームで試合前に行っていた打撃練習でも強烈な打球が次々と外野席へ飛び込んでいくシーンを目の当たりにした人もいるのではないだろうか。こうした打撃練習は十分にお金が取れるほど、惚れ惚れする。ホームランダービーというイベントをうたわなくても、ファンは試合時間の少し前に球場へ行くことで、素晴らしい光景を目にすることができる。
それでも、オールスター前日のホームランダービーは楽しみだというファンも多い。そうであれば、選手たちが「ぜひ、出たい」と思えるシステムを作っていく必要があるだろう。リハビリ過程の大谷選手はともかく、各リーグのホームラン打者が顔を並べるような迫力あるイベントにならなければ、形式だけのダービーに終わってしまう。
皆さんはどんなホームランダービーが観たいですか。