中村ピアノ、魔法めいた歌謡ディスコポップに注目
近年、海外のコアな音楽ファンの間で日本の歌謡曲に注目が集まっている。人気のポイントはメロディーの力だ。リズムを軸にトラックが制作される欧米のポップ・ミュージックとは一線を画する魔法めいたストーリーテリング力。心を一瞬で鷲掴みする旋律のチカラが求められているのかもしれない。
中村ピアノ、鍵盤を弾きながら唄うシンガー・ソングライター。
彼女が生み出す、物語力の高い作品力に注目をしたい。パパ活やメンヘラなど、赤裸々に時代の闇をえぐっていく同時代性を持つポップセンス。すべてがサビのように心に響くキャッチーなメロディーと言葉の凄み。謎めいた彼女を音楽の道に向かわせたのはGLAYだったという。
「中学生の頃、ふと“自分は何もやりたいことがない”ことに気がついて。それで“このまま普通の人のままで終わりたくない”って思っちゃったんです。そんな時にたまたま観たGLAYのライブに行きまして何万人をも圧倒するパワーに“音楽ってこんなに力があるんだ”って感動して。わたしも音楽をやりたいって思いました。もともとピアノをやってたんですけど、発表会とか人前で弾くのが嫌ですぐ辞めちゃったんです。その後はギターに手を出したり……。楽器は苦手ですね(苦笑)。とにかく歌を歌いたかったんです。それで歌詞を書いてみたり。バンドを組んでみたり。曲もメンバーに作ってもらったりして。でも、進学や就職でメンバーが抜けてしまって“このまま一生音楽を続けるにはどうすればいいんだろう”って考えた時に“あ、自分で曲を作ればいいんだ”って気がついて。」
女性シンガー・ソングライターといえば、2019年の現在、あいみょん人気が高まっている。松任谷由実〜椎名林檎から継承される歌謡曲〜ニューミュージックの系譜を持つJ-POPの進化。中村ピアノによる、加速度を感じられるジェットコースターのように緩急の効いたポップ・ミュージックは、ネガティブな感情から生まれるという。
「性格がネガティブなんです。常に落ち込んでしまうタイプで。世の中とうまく関われない劣等感がすごくて。あまり人に言えないことを曲にして表現しています。“どうせ自分なんか”とか(苦笑)。でも、小学生の頃は正義感でいっぱいで運動もやるし、学級委員とかやるタイプだったんです。でも、中学生の頃に“逃げてもいいんだ”ってことを悟ってしまって、性格が真逆になっちゃいました(苦笑)。いまだに治ってないですね。それで、音楽もですけど、漫画を読んだりゲームをしたりイラストを書いてみたり。」
歌詞作りは、Twitterのタイムラインからの影響が大きいという。誰もが、SNSを通じてこれほどの文字量を読み書き&発表する時代が来るなんて、一体誰が予想できたことだろうか。
「松任谷由実さんが当時“ファミレスで耳をすまして会話を聞いている”なんて作詞のアイディアの源として話していたじゃないですか? それと近い感覚で、Twitterのおかげでいろんな人たちの心の声が覗けるんですよ。歌詞の表現において、言葉遣いや気持ちが手に取るようにみえるので面白いですよね。そこで得た気持ちを曲にすることもあります。創作にはTwitterが欠かせませんね。」
そんな、内に秘めた想いを作品にしたためる彼女が、2019年7月31日に2ndシングル『東京ディスコティック!!』をリリースした。本作リード曲「東京ディスコティック!!」で突き抜けた、初期衝動でいっぱいのキャッチーなディスコサウンドに注目したい。彼女が囚われていたネガティブといったアイデンティティーから解放され、新境地を開拓したポップアンセムの誕生だ。すでに、Spotifyなどストリーミングサービスでも聴くことができる。2019年下半期、激動のポップミュージック・シーン。ライブ評価も高い彼女の躍進に注目したい。
<中村ピアノ セルフライナートーク>
1:東京ディスコティック!!
「自分の殻を破れた曲ですね。いつも、暗い曲が多いんですけど、はじめて最初から最後まで前向きな曲を作れました。“元気出そうぜ”ってナンバーで。ふと出てきた曲なんです。自分の中で大事な曲になってますね。これは、お風呂上がりにリラックスしていたときに生まれたメロディーで、スマホのヴォイス・メモに録ったんです。いかに体を揺らせるかにこだわって勢いで一気に作りました。」
2:踊り子
「飽き性なので展開を複雑にしたくなるんです。いかにお客さんのテンションを上げ下げできるかにこだわりました。歌詞はパパ活や整形をテーマにしています。身近にもそんな友人や知り合いがいて、話を聞いていると半分自分のことのような気持ちになって落ち込んだりもするんです。ああ、じゃあ曲にしなきゃなって。最近、満たされてないというか。心に黒い穴を持っている子が多いですよね。」
3:アイスクリーム!!
「わたしの中でもチャレンジした曲ですね。Aメロに言葉をいっぱい詰め込んでぐちゃぐちゃにしてみたいなって思って。ネガティブなんだけど明るさも入れたくて、サビはキャッチーですね。アイスクリームのようにトロけていく感情を描いてます。」
4:とおり雨
「曲を作りたいんだけど、どうしたらいいのかわからなかった頃。ほんとに初期の頃に作った曲ですね。わたし、たくさん失恋をしてきたタイプで。それを書いたら作れるのかなって。懐メロや歌謡曲が好きで。そんな世界観から作ってみました。」