国産野菜と大差ない? 輸入冷凍野菜の栄養や安全性を考える
冷凍野菜の輸入量が年々増える傾向にあり、「2017年は初めて100万トンを超えた」という報道があった【※1】。
国産野菜の価格高騰を1つの理由としてあげてあるが、国産野菜の価格とはあまり関係なく、冷凍野菜輸入量は漸増している。【※2】
おそらく、景気の低迷(食料品にあまりお金をかけられない)や外食(低価格のチェーン店中心)の利用者の増加、あるいは家庭での調理にあまり手間ひまをかけたくない人たちの増加などによるところが大きいのではないか。
「家庭で調理をしなくなることはあまり好ましいことではない」という食文化上の視点、あるいは「輸入食品の増加は食料自給率を低下させてしまう」という食料安全保障上の論理があるようだが、それは別の機会に譲るとして、ここでは「輸入冷凍野菜の栄養価は劣るのか」そして「輸入冷凍野菜の安全性は大丈夫なのか」という2点に絞って、考えてみたい。
■栄養素量に大きな違いはない
まずは栄養素。
結論を先にいうと、輸入・国産を問わず、冷凍野菜と生鮮野菜の間に「健康に影響するような意味のある差」は見られない。
差がない、というわけではない。
公の機関が行った比較データはあまりないので、いささか古いものになるが、1998年に独立行政法人国民生活センターが、個別の商品(冷凍野菜)と当時の食品成分表(四訂日本食品標準成分表)との数値を比べたものがある。【※3】
これによると、たしかに栄養素によって差は出ているのだが、健康に影響を与えるほどの違いではない。
冷凍か生鮮かの違いよりも、むしろ、商品ごとの差のほうが大きい点が注意喚起されてある(国民生活センターの「商品テスト」に近いものなので、当然か・・・・)。
食品成分表は、国内では「最も信頼のおける栄養成分値データ」と考えてよいが、この中には、よく利用されている冷凍野菜については「生鮮品の栄養素データ」の他に「冷凍品の栄養素データ」も記載されてある。【※4】
たとえば、えだまめは(主な栄養成分を比べると)たんぱく質[生11.7g:冷凍13.0g]、食物繊維[生5.0g:冷凍7.3g]、カリウム[生590mg:冷凍650mg]、ベータカロテン[生260μg:冷凍180μg]、ビタミンC[生27mg:冷凍27mg]。
ほうれんそう(通年平均)の主な栄養成分は、食物繊維[生2.8g:冷凍3.1g]、カリウム[生690mg:冷凍240mg]、ベータカロテン[生4200μg:冷凍6000μg]、ビタミンC[生35mg:冷凍21mg]。
■1年中野菜を食べることの大切さ
詳細は(ネットで検索できるので)自分で調べてもらいたいのだが、「多いものもあれば少ないものもある」という数値である。
概して、水溶性の成分(水に溶ける成分)は「生」のほうが多く、それ以外の成分は「冷凍」のほうが多い、という傾向にある。
常識的に考えると「冷凍」のほうが「生」よりも栄養成分含量は少なくなると思いがちだが、けっしてそんなことはない。
「冷凍」のほうが成分値が高くなる理由としては、冷凍すると水分量が減るので、食品成分表に記載されてある「100g当たりの成分値」を算出すると、その分だけ(水分が減った分だけ)見かけの数値が高くなるという点が1つ。
もう1つの理由としては「冷凍品」は、大量にできる時期(いわゆる旬の時期)に収穫していちどきに冷凍加工するので、栄養価が高くなる、ということもあるようだ。
専門家の研究でも「冷凍技術が進歩しているので、野菜を冷凍して1年間保存しても、ミネラル類はほとんど変わらず、ビタミン類はやや減少する」という結果がある。【※5】
多くの研究結果を総合的に判断すると、「冷凍野菜だからといって栄養価が下がるわけではない」ということになりそう。
それよりも、年間を通じて適量の野菜を食べることのほうが大切。
■なぜ「輸入冷凍野菜」は嫌われるのか?
一方で、安全性のほうはどうだろうか。
食品の安全性は多方面から検討しなければならないのだが、「輸入冷凍野菜の安全性」ということに限ると、おそらく多くの人が懸念するのは、農薬のことだろうと推測する。
輸入冷凍野菜の「残留農薬」が大きな問題になった最初の出来事は(私の記憶では)、2002年に中国から輸入された冷凍ほうれんそうから、基準値を大きく超えた農薬(クロルピリホス)が検出され、新聞等で報道された事件(?)だ。
これ以来「輸入冷凍野菜は安全じゃない」という風評が広まった。
ご記憶の人も多かろう。
このとき、中国から輸入された冷凍ほうれんそうには「基準値の6倍」のクロルピリホスが含まれていた。【※6】
「6倍!」というショッキングな報道ではあったのだが、数値を見てみると「0.06ppm」である。
ほうれんそうに許されているクロルピリホスの基準値は0.01ppmなので、6倍であることには違いがない。
問題は「これは食べた人の健康を害する量なのかどうか」である。
クロルピリホスという農薬はほうれんそうにだけ使う農薬ではなく、他の野菜にも使い、それぞれの野菜ごとに「基準値」が決めてある。
たとえば、はくさいなら1ppmで、ほうれんそうに似た食べかたをすることが多いこまつなも1ppmだ。
こまつなに使われるクロルピリホスとほうれんそうに使われるクロルピリホスは(もちろん)同じ物質なので、毒性に変わりはない。
つまり、中国野菜から検出された0.06ppmのクロルピリホスが、食べた人の健康を害するというのであれば、はくさいやこまつなは安心して食べられない。
毎日、大量のほうれんそうを365日食べ続けているという人ででもなければ、輸入冷凍ほうれんそうを食べて健康を害する心配はない。
■「食べて健康を害する心配」はほとんどない!
では、現在、実際に輸入冷凍野菜の中にはどのくらいの農薬が残留しているのだろうか?
それは国産野菜の農薬残留量と比較して多いのか・少ないのか?
そして、その残留農薬は、輸入冷凍野菜を食べた人の健康を害するのかどうか、を調べてみよう。
厚生労働省が発表した「平成27年度食品中の残留農薬等検査結果について」を見ると、農産物の残留農薬における「いわゆる基準値超え」の割合は、国産農産物で「1,060,975点中の19点、率にして0.002%」であり、輸入農産物で「840,963点中の114点、率にして0.014%」であった。【※7】
国産農産物よりも輸入農産物のほうがわずかに多いが、いずれにしても「めったに口に入ることのない」程度の出現率だ。
厚生労働省も「まとめ」で「基準値超過の割合はいずれも低く、我が国で流通している食品における農薬等の残留レベルは十分に低いものと考えられる」としている。
また、日本の残留農薬の基準値は「十分に低く」設定されてあるので、基準値超えの野菜を、仮に1度や2度食べたからといって健康を害するものではない。
(ちなみに、2007年に中国産冷凍餃子にメタミドホスという農薬が入っており、それを食べた日本人が食中毒を起こすという事件があった。
あのときのメタミドホスの濃度は約500ppm~15000ppmであり、これは「残留農薬」の濃度ではない。明らかに意識的に投入した犯罪」である。犯罪と残留農薬を同一に議論してはいけない)
■ケースバイケースで使い分けよう
このところ増えている輸入冷凍野菜は、栄養面から見ても、食品の安全性から見ても、国産野菜と変わるところはほとんどない。
ただし、筆者は輸入冷凍野菜を「オススメ」しているわけではない。
生鮮野菜のシャキシャキとした歯ごたえ・豊かな香り・美しい色は、私たちの食卓をどれほど豊かにしてくれるか。
また「おいしさも」もちろん評価の対象になろう。
おいしさは個人の好みによるところが大きいので、おいしさに絶対的な評価を下すのは難しいが、採りたて野菜の味わいは格別である。
つまるところ、経済的状況・ライフスタイル・食べるシチュエーション等によって、「国産・輸入」「冷凍・生鮮」を使い分ければいいのではないか。
選択肢がたくさんあるということは、ありがたいことである。
【※1】
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180226-00010001-agrinews-bus_all
【※2】
https://www.reishokukyo.or.jp/statistic/consumption/
【※3】
http://www.kokusen.go.jp/news/data/a_W_NEWS_081.html
【※4】
http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365419.htm
【※5】
『野菜のビタミンとミネラル』(発行:女子栄養大学出版部・著者:辻村卓他)
【※6】
https://www.nichirei.co.jp/ir/pdf_file/inews/2002611b.pdf
【※7】
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000194453.pdf