「賞味期限切れ食品を販売することは法律的に問題ないの?」
賞味期限の切れた食品を破格の値段で販売する店が、少しずつ登場している。テレビ番組などにも取り上げられ、筆者も、食品ロス問題に詳しい者として、コメントを求められる。2019年4月5日放送の、日本テレビ系列の報道番組「news.every」に出演し、2019年4月8日放送の、日本テレビ系列の報道番組「Oha!4(おはよん)NEWS LIVE」でもコメントが取り上げられた。2019年4月9日の、ある民放番組でも取材内容が放送される予定だったが、紙幣刷新のニュースが急遽入ったため、10日以降に延期となった。
「賞味期限切れ食品を売るのは法律的に問題ないのか?」
この話題で、テレビ局の方からよく聞かれるのが「賞味期限の切れた食品を売ることは、法律的に問題ないのか?(違法ではないのか)」だ。
答えは、「販売そのものが法律に抵触するわけではない」。
食品衛生法などの法律に抵触するのは、人の健康を害する食品を販売する行為や、食中毒などの食品事故を起こした場合などだ。
賞味期限が切れたもの、イコール、健康に害を及ぼすもの、ではない。
では、改めて、賞味期限とは何かを見てみよう。
賞味期限と消費期限を多くの人が混同している現状
食品に表示される「期限表示」には、2019年4月現在、2種類ある。
一つが「賞味期限(しょうみきげん)」。
もう一つが「消費期限(しょうひきげん)」。
漢字で書けば、4文字中、2文字違うが、発音すると、1文字しか違わず、まぎらわしい。
賞味期限と消費期限はどう違うの?
「賞味期限」は、「おいしく食べられる期限」。
これに対し、「消費期限」は、「食べて安全な期限」。
消費期限は、日持ちしづらい食品、おおむね5日以内の食品に表示される。具体的には弁当、サンドウィッチ、おにぎり、生クリームのケーキ、総菜などだ。
それ以外の加工食品などは、賞味期限が表示されている。
下のグラフは、縦軸に品質、横軸に保存日数を示している。
赤で示した消費期限は、日にちが経つと、急激に下がっている(品質が劣化している)ことがわかる。
黄色で示した賞味期限は、決められた賞味期限を過ぎた後も、急激に下がることなく、緩やかに下がっていく(品質が劣化していく)。
農林水産省の「子どもの食育」のページにも、わかりやすく、噛み砕いて書いてある。
賞味期限はどうやって決めるの?
上記のグラフを見て頂ければ、食品の中でも、期限に気をつけて、出来るだけ早めに食べた方がいいのは「消費期限」表示のものであることがわかると思う。
賞味期限を設定する方法は、拙著(『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』)に詳しく書いたが、主に次の3つの検査をして算出される。
- 保存中に菌がどれくらい増えるか(微生物試験)
- 実際に食べてみてどうか(官能試験)
- 栄養成分やpHなど(理化学試験)
「おいしく食べられる期間」に、さらに1より小さい数字を掛けて設定される賞味期限
上記3つの試験で算出した賞味期限に、1より小さい「安全係数」を掛け算する。これは義務ではないが、多くの企業が使っている。
国(消費者庁)は、加工食品のガイドラインで、0.8以上を推奨している。
たとえば、3つの検査に基づいて、10ヶ月間おいしく食べられるカップ麺があったとする。企業が安全係数0.8を使えば、8ヶ月が賞味期間となり、その日付が印字される。
ただ、筆者が取材した限りでは、0.8を使っている企業ばかりではない。0.7や、0.6、3分の2(0.66)、0.5などがあった。過去には0.3を使っていた地方の食品企業もいた。農林水産省の過去の報告書にもこの旨が掲載され、あまりに短過ぎることが指摘され、適切な安全係数を使うようにと書かれている。
日持ちの短い「消費期限」の方でも、生菓子などは0.5の安全係数を使っているケースもあった。
製造工場を出荷する前までは、同じ状況下で品質管理ができるが、いったん、全国に出荷されていけば、その食品が置かれる状況はさまざまだ。そのリスクを考えて、安全係数を掛け算する。
企業自身が賞味期限を設定する場合もあるが、専門分析機関に依頼する場合もある。機関によっては、安全係数を0.7〜など、国の推奨より下げている。
以前から賞味期限の切れた食品を販売している店は存在している
ここ最近、テレビで取り上げられている「賞味期限の切れた食品を売る店」だが、実は以前からそのような店はあった。
2011年、筆者が食品メーカーを退職して独立し、NPOのフードバンクの広報責任者を3年ほど務めていた時にも、各テレビ局からの取材や撮影依頼を受けており、取材先としてよくご紹介していた、東京都内の「賞味期限切れ・消費期限切れをうたって売る店」があった。今は閉店しているが、他の地域には同様の店がある。
賞味期限の切れた食品は、通販(通信販売)でも売られている。自動販売機などで、賞味期限の接近したもの、もしくは過ぎたものを格安で売っている場合もある。
海外では賞味期限切れ食品専門スーパーも登場!
2016年2月22日にデンマークのコペンハーゲンにオープンしたのが、なんと「賞味期限切れ食品専門スーパー」だ。
ウィーフードは、他のスーパーや小売で販売できないものを無償で引き取り、安価に販売する、非営利事業だ。
食品ロスを減らすことに貢献しており、他の国にも広がって、注目を浴びている。
日本に広がるか?
法律問題を扱う弁護士ドットコムには、これまでにも、賞味期限切れ食品の販売について、質問が寄せられている。2018年6月28日付の「賞味期限切れ」を30円で販売する自販機…法的問題は?では、弁護士が
と回答している。
別の質問でも、弁護士が「賞味期限切れであることを明記して販売するように」と答えている。
では、これまでにも、ほんの少数存在していた「賞味期限切れ食品を売る店」は、今後、加速度的に広がるだろうか。
筆者は、年単位で賞味期限の長い食品(1年以上など)の多少過ぎたものは問題ないと思うし、食品ロスを出さないことは喜ばしいことだと思うが、「ゼロリスク」を求めようとする日本では、積極的に販売する事業者は少ないとみている。
飲食店の食べ残ししかり。海外では、ドギーバッグで持ち帰ることが当たり前になっている国もある一方、日本では、2017年に、国(4省庁)が連名で通知(「飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項」)を出して以降、持ち帰りが加速度的に増えたとも思えない。
やはり、事業者としては、何かあった時のリスクを回避する方が優先するのだろう。
それは、賞味期限の過ぎたものを売ることについても同様だと考える。
缶詰などは、製造してから3年間の賞味期間がある。賞味期限が1日過ぎた桃の缶詰を販売したら、問題だろうか?筆者はそうは思わないが、「NG」と判断されるのが、今の日本だ。
これだけ食料自給率が低く、これだけ頻繁に災害が起こっているのに、エネルギーと多額のコストを費やして輸入した食品を廃棄している。災害備蓄品を国の機関が廃棄しているという調査結果も発表されている。どこかから食品が湧いて出てくると思っているのだろう。
提言その1:欠品ペナルティの廃止(適量作り、適量売り、適量買う)
賞味期限の過ぎた食品の販売は、全国的に普及するのは難しいかもしれない。では、賞味期限の過ぎた食品の廃棄を減らすために、具体的にどうすればいいのだろう。
1つは、作り過ぎない、売り過ぎない、買い過ぎない、ということだと思う。
在庫があり過ぎるから、賞味期限が過ぎてしまう。
日本は、欠品を起こすと、メーカーは、小売に「取引停止」処分を受ける可能性があるから、欠品できない。したがって、取引を継続するためには多く製造せざるを得ない。
欠品に対するペナルティは、一般の消費者には知られていないことだが、結局は、間接的に、消費者が買う食料品価格に上乗せされることになる。朝から晩まで棚を一杯にし、欠品を防ぐコストは「半端ない」と、あるスーパーの店長が取材で話していた。
食品業界のルールは「欠品NG」だけではない。余れば余ったで、小売店からメーカーに返品されてくる場合もある。返品されても再度販売(再販)はできない。経済産業省などは、2017年、小売店からの不当な返品などを禁止する手引書を発行している。
欠品ペナルティと、余剰在庫の返品。一考すべき時機だと考える。
提言その2:賞味期限の年月表示化
もう1つは、今も食品業界で進行中の、賞味期限の年月表示化だ。
3ヶ月以上、賞味期間があるものは、日付は省略できる。ペットボトル飲料、レトルト食品、パスタなどの乾麺、シリアル、缶詰、などなど・・・
たとえば「2019年4月9日」と表示されていると、4月10日には、もうそれは「食品」ではなくなってしまう。
現行の決まりでは、賞味期限の年月日表示を年月表示に変えると、半端な日付は切り捨てて、前月表示となる。
たとえば「2019年4月9日」と表示されていたものは、9日間は切り捨てで、前月の「2019年3月」と表示されることになる。賞味期間が減ってしまう。
そこで、企業としては、安全係数の見直しや、容器包装・製法の改良などにより、賞味期間そのものを延ばす努力をしながら、並行して、賞味期限表示の年月表示化を進めることになる。
品質の期限ではなく、おいしさの目安である「賞味期限」が切れることを神経質なほど気にするのであれば、日付表示を省略できる食品(3ヶ月以上の賞味期間のある飲食品)については、現在の年月日表記から、年月表示化を進めていくことが必要だろう。
参考記事: