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今の除染はなぜだめなのか-京都精華大・山田教授に聞く

関口威人ジャーナリスト
福島県飯舘村で進む国の除染事業(8月24日、関口威人撮影)

福島の除染が進まない。作業自体の遅れや作業後も線量が下がらない状況を受け、国は今年度内の事業完了を断念するなど大幅に計画を見直す方針だ。現在の除染の何が問題なのか、代替の方法はあるのか。住民が主体となる「地域循環型除染」を提唱する京都精華大学の山田國廣教授に聞いた。

山田國廣(やまだ・くにひろ)

1943年、大阪市生まれ。京都工芸繊維大学、大阪大学工学部助手などを経て、97年から京都精華大学人文学部総合人文学科教授(環境デザイン・森林マネジメント)。70年代から水質汚染やゴルフ場の環境破壊などの研究に取り組み、『ゴルフ場亡国論』(藤原書店)など著書多数。原発事故後に『放射能除染の原理とマニュアル』(同)を出版、近著も準備中。

――現在の除染の状況をどう見ますか。

国のやり方は失敗、破綻している。原因は大きく分けて3つある。1つは高圧水洗浄や布の拭き取りなど、明らかに除染効果のない手法が採られている点だ。

「破綻」の3つの理由

屋根や壁、道路などの固い素材には、放射性物質が付着しているだけでなくかなり浸透している。これを高圧水で洗浄しても低減率は原理的にゼロ。逆に放射性物質を拡散、あるいは取りにくくしている。

高圧水洗浄の作業は目立つので「一生懸命やっている」というアリバイづくりとして利用された。ところが大して効果は上がらない。住民からは「除染なんてやってもしょうがない」と思われるようになった。思考停止して、そこからいい方法が考えられなかった。その罪は大きい。

京都精華大の山田國廣教授(関口威人撮影)
京都精華大の山田國廣教授(関口威人撮影)

2つめは土を大量に除去しているため膨大な除去物が発生してしまっていること。本来は表面から深さ2センチの土を取れば十分なところを、5センチ取る。深く取れば取るほど安心してしまい、歯止めがかからない。いわば麻薬のようになってしまった。

除去物を詰め込むフレコンバッグ(フレキシブルコンテナバッグ)も問題だ。放射線が遮へいされず、雨ざらしで放射性物質が流れ出てしまっている現場も見た。今後、長期間置きっぱなしにすれば耐用年数を過ぎてしまうだろう。

こうした膨大な除去物を置く場所や処分場が確保されていない。これが3点目の問題。最終処分地や中間貯蔵地の確保は難しい。住民が反対するからだが、それは当たり前。自分たちと関係のない、他の地域の除去物が大量に集まる恐れがあるからだ。

――どうしてここまで事態が悪化してしまったのでしょう。

除染ガイドラインは原子力研究開発機構から環境省が引き継いで、現場に指示が下ろされていった。排水の処理方法などで若干の改訂はされたが、根本的には変わっていない。上に行けば行くほど現場で起こっている矛盾が分からなくなる。一度決まったことに縛られ、変えられない構造ができてしまった。

除染は「日々改善」の世界だ。2年前に考えたことをやっていてはだめ。柔軟性をもってどんどん改良していかなければ。私も昨年言っていたことと今年言っていることとは違う。開き直るわけではないが、そういうものだと理解してもらわないと。

――現在、提案されている方法は。

できるだけ簡単な道具で、安く、住民自らができて効果の大きいやり方を探っている。

ホットスポットとなっている道路では、まず表面のごみなどを掃除機で吸引、クエン酸入りの界面活性剤を塗ってブラシで丁寧にこする。すると浸透していた放射性セシウムがキレート効果で泡と一緒に浮き出てくる。それをまた掃除機で吸引するだけでもかなりの効果が出る。さらに徹底するなら洗濯のり(PVA)で泡ごと固め、布をかぶせて乾燥後に剥がし取る。これで道路表面は線量が80%以上も落ちた。

クエン酸入り界面活性剤でブラッシングする除染実験(山田教授提供)
クエン酸入り界面活性剤でブラッシングする除染実験(山田教授提供)

ピカピカにして近場に

除去したごみや布などは、頑丈なプラスチックドラム容器に入れ、ツーバイフォーの形にした木の板で囲い、ふたをする。外側の表面線量は毎時0.2マイクロシーベルト以下になるので、とりあえずマンションの敷地境界などに置いておくことができる。

最終的にこれは東電に持って行ってもらう。福島第一原発はもう汚染水でいっぱいなので、私は第二原発の敷地に置くしかないと思っている。それまで、住民にはできるだけ「ピカピカにして近場に一時保管しよう」と呼び掛ける。

除染に使う道具(左)と除去物の保管容器(山田教授提供)
除染に使う道具(左)と除去物の保管容器(山田教授提供)

――住民がかかわることに不安や不満は出てこないでしょうか。

被害者がそこまでやらなければならないことは私も不合理だと思う。だけど仕方ない。待っていても誰もやってくれないから。

除染はあきらめて、いかに放射線と共存するか、気の持ちようだなどという声も広がっているが、それでいいのか。本当に安心して暮らすためには事故前の線量に戻すしかない。年間1ミリシーベルトは通過点。毎時0.06マイクロの世界に戻そう。がんばったらできる。そのための方法はあるということだ。

放っておいたらあかん

もう除染そのものが信用されていない。だから、ひたすら現場で成功例を見せて、住民に納得してもらうしかない。もちろん屋根の上や高線量の側溝など、危険なところは業者や行政が入る。住民全員がやるのではなく、ある程度の訓練を受けた一部の住民でいい。

当面は小面積のホットスポットの除染を確立する。大面積ならまたやり方が違うかもしれない。田畑や山林の除染も飯舘村で独自に実験を続けている。9月下旬には郡山市で町内会主体の除染が実現する。

私は原発事故の2カ月後に福島に入り、月2回ほどのペースで京都から通ってきた。もともと放射線の専門家ではなく、あくまでボランティアの立場だ。ただ、これを放っておくのはあかんやろ、何とかするのは大人の責任やろ、という思いで突き動かされている。私だけでは限界があるが、なかなか動いてくれる研究者がいない。もっと知恵を寄せて、提言する動きがあっていい。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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