救急車をタクシー代わりに呼んだ場合の法的責任は??弁護士が解説
以前から指摘されていた問題ですが、救急車の出動数が増え続ける中、本来的な救急車の用法ではない、タクシー代わりや軽い症状での利用も含まれているとみられることから、総務省消防庁が実態を調べる方針を固めました。
そもそも救急車の利用が予定されているのはどういう人?
救急車は、消防機関による救急業務に用いられる車両のことを言いますが、救急業務とは、一定の傷病者について、救急隊によって医療機関等に搬送することを言います。
そして、救急車の利用が予定されている傷病者とは、以下のとおり法律で規定されています(消防法第2条第9号、消防法施行令第42条)。
- 災害により生じた事故による傷病者
- 屋外・公衆の出入りする場所において生じた事故による傷病者
- 屋内において生じた事故による傷病者、または、生命に危険を及ぼすような状況にある疾病による傷病者で、かつ、これらの傷病者を医療機関等に迅速に搬送するための適切な手段がない傷病者
さらに、以上の1~3のいずれかに該当することに加えて、医療機関等に緊急に搬送する必要がある傷病者
とされています。
こういった法律上の決まりを厳格に知っている人はあまりいないと思いますが(私も、今回初めて勉強しました)、法的には、救急車を利用するためには、医療機関等に緊急に搬送する必要性がある場合と定められていますし、特に、屋内の事故等の場合には、救急車以外に適切な手段がないことも要件とされています。
では上記の要件に該当しない傷病者のために救急車を呼んでしまった場合の法的責任は?
そもそも専門家でもない一般人が、一定の緊急性を要する状況において、上記の難しい要件を理解した上で、救急車を呼ぶかどうかを判断することは難しく、基本的には何らかの法的責任に問われることはないでしょう。
ただし、これは救急車を呼んだ本人に、何ら悪質な意図がなかった場合であって、もし傷病者が救急車を呼ぶほどの状況ではないことがはっきりとわかっていたにもかかわらず、敢えてタクシー代わりに呼んだような場合には、以下の法的責任に問われる可能性があります。
1.消防法違反(消防法第44条第20号)
正当な理由がなく、傷病者の状況について虚偽の通報をした者には、30万円以下の罰金または拘留が科されます(拘留とは、1日以上30日未満の範囲で刑事施設に拘置する刑罰)。
2.軽犯罪法違反(軽犯罪法第1条第16号)
虚偽の災害の事実を公務員に申し出た者には、拘留または科料が科されます(科料とは、1000円以上1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰)。
3.偽計業務妨害罪(刑法第233条)
かなり悪質なケースであれば、消防機関の適正な業務を虚偽の通報により妨害するものとして、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
救急車の適正な利用のためにどうすれば良いか?
基本的には、悪質な意図がない限り、本来の救急車を呼ぶべき状況かどうかを考えずに呼ぶべきだと思います。
そうしないと、むしろ、素人から見ると一見緊急性がないように見えた傷病者が、実はかなり危険な状態にあり手遅れになってしまったり、また、本来は動かしてはいけない傷病者を下手に動かしてしまうこともあるかもしれません。
ちなみに、総務省消防庁が公表しているパンフレットでは、どういう場合に救急車を呼ぶべきかについて紹介されています。
このパンフレット内には、救急車を呼ぶべきかどうか迷った場合の相談窓口も紹介されていますので、救急車を呼ぶかどうか迷った場合には相談してみるのも手です。
(例えば、東京都であれば#7119)
以上、どのような場合に救急車を呼ぶべきかについて法律面から解説しましたが、基本的には、命・安全が第一ですから、あまり萎縮せずに救急車を呼ぶようにしつつ、あまり必要でなさそうだなと感じた場合には相談窓口に連絡してみるのがよろしいかと思います。
※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。