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DeNAを救うのは「ゲーム事業」ではなく、球団経営が好調の「横浜ベイスターズ」か?

横山信弘経営コラムニスト
「まとめサイト」問題での謝罪会見(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

DeNAは何の会社なのか?

WELQに端を発した「キュレーション問題」でDeNAが謝罪会見を行いました。守安功社長のみならず、会長の南場智子氏も会見に臨み、謝罪と今後の対応について説明した。本コラムにおいては、会見内容も、問題の「キュレーションプラットフォーム事業」を深く掘り下げたりもせず、そもそもDeNAというIT企業は、どこに向かっているのか、今後どうしていくべきかの考察を書きます。

もともとDeNAは「ビッダーズ」と呼ばれる、「ヤフオク!」のようなネットオークションサイトを運営しており、その後「モバゲー」というゲームサイトで躍進。一般的には「ゲーム事業を柱とするIT企業」として認知されています。「モバゲー」後も多角化戦略の手を緩めず、ショッピングやポータルサイトを次々と起ち上げ、スクラップ&ビルドを繰り返しながら事業を拡大し、今日にいたっています。

今回の「キュレーション問題」は、ゲーム事業が低迷し、何としても現状を打破したいという企業の焦りから発生した可能性が高い。東芝の”不適切会計”問題も、三菱自動車の”燃費データ不正”問題も、出所は同じです。本業が低迷し、このままでは未来がないという焦燥感が理性を失わせるのです。

したがって、いつもこのような謝罪会見では「なぜこうなったのか?」「理解に苦しむ」「初心に戻って出直せ」という言葉を、多くの人が首脳陣に浴びせたくなるものです。

アンゾフの「製品・市場マトリックス」

多角化戦略をとるとき、一般的には「アンゾフの製品・市場マトリックス」で考えると整理がつきます。事業の成長を「製品」と「市場」の2軸で分類し、その2軸をさらに「既存」と「新規」に分けて表現したマトリックス図です。この際、成長戦略を考える順番は、

1)既存製品&既存市場

2)既存製品&新規市場

3)新規製品&既存市場

4)新規製品&新規市場

……こうなる。

すでにある商材を、すでに取引きのあるお客様に販売する。これが優先順位1位。次に、すでにある商材を、まだ取引のないお客様に販売する。これが2位。続いて、新しく開発した商材を、すでに取引のあるお役様に販売する。これが3位で、ラストが、新規の商材を、新規のお客様に販売する――である。

なぜこの順位になるかというと、新しい商品、新しい事業というのは、どんなに入念にマーケティングリサーチしても、当たるか当たらないかは「出たとこ勝負」だからです。今年は「ポケモンGO」や「君の名は。」が空前の大ヒットとなりましたが、誰がそのヒットを予想したでしょうか。ヒットしてから「後付けの理由」をつけることはできますが、事前に【ヒットの確率】を予想できたら、誰も苦労しません。

しかし、すでに成立している商材があるのなら、その商材を新しい市場に投入することで、ある程度の結果を出すことは予想できます。したがって優先順位2位は、「既存製品&新規市場」となるのです。

DeNAがとる多角化戦略の問題

先述した優先順位のとおり、新しい事業を立ち上げるとき、すでに取引のある既存のお客様が対象となるほうが事業リスクは低い。牛丼を販売しているお店が、豚丼や親子丼もメニューに加えるよりも前に、新しいエリアに牛丼のお店を出す、という事例です。建売住宅のメーカーが、注文住宅も手掛ける。リフォーム事業にも参入するというより先に、新しいエリアに建売住宅だけで勝負する営業所を作って拡大していく、という事例です。

しかしDeNAは、対象となるお客様を無視して、次々と新しい事業を立ち上げているように見えます。まさに優先順位が最も低い「新規製品&新規市場」の連続。「ビッターズ」から「モバゲー」の会社にうまく転身できたので、味をしめたのでしょうか。プロ野球球団「ベイスターズ」の買収もそうですし、自動運転バスの事業もそうです。

相互に関連が深くない事業を次々に立ち上げ、多角化戦略で成功しているIT企業といえばソフトバンクです。しかしソフトバンクは潤沢な資金力があるからできるわけで、「出たとこ勝負」で事業を立ち上げてもリスクをとることができます。その点、業績が下降線をたどるDeNAはソフトバンクの成長戦略をモデリングすることはできません。

球団経営が成功しつつある「横浜ベイスターズ」ですが、そもそも楽天やソフトバンクのようなIT企業がプロ野球球団を所有するのは、知名度アップのためだけ。固定費も変動費も少なくてよいIT企業は、ブランド価値を高めるうえで手っ取り早いマーケティング戦略なのです。

しかし楽天やソフトバンクと大きな違いは、DeNAの主力事業が浮き沈みの激しい「ゲーム事業」であったこと。群雄割拠のゲーム業界で、長期間業績を安定させることは至難の業です。これがわかっていたから、DeNAのベイスターズ買収時、楽天の三木谷社長だけが反対の票を投じました。

子どもたちに夢を与えるプロスポーツ事業ですから、クリーンな企業経営が求められます。

今後、新しいヒットゲームが生まれるのか、自動運転バス事業が当たるのか、ベイスターズが事業を支えるようになるのか、どのようなシナリオでDeNAが現在の低迷期を脱するかわかりませんが、すべての打ち手がギャンブル的であるため、たとえうまくいったとしても、この節操なく成長しようとする体質を変えない限り、長期において会社が持続するようには思えない。

コアコンピタンスとは異なる事業で、たまたま成功してしまうと副作用が大きいのです。どこかで企業体質を変えられるタイミングがあるといいのですが。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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