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「リクナビ問題」に揺れた2019年。2020年の就活キーワードは「省力化」?

酒井一樹就活SWOT代表
(写真:アフロ)

2019年、新卒採用市場で最も話題になったニュースは何かと言えば、満場一致で「リクナビ問題」だったと言えるだろう。採用市場の話に留まらず、個人情報保護やAI活用という観点から社会問題として議論される事件となった。

一方、問題が大きくなりすぎた事で当事者である就活生がどうするべきか、採用市場がどのように変化したかという視点での議論は相対的に少なくなってしまったようにも感じられる。

学生からは、「なんとなくリクナビが信用できないという事はわかったが、個人情報保護法の違反など難しい話になっていて話が掴みにくい」「問題になっているのはリクナビだが、他の就活サイトがそういう事をやっていない保証があるのかどうかわからない。就活で何を使えばいいかわからなくなった」という声も聞こえてくる。

今回は、改めて「採用」の観点からリクナビ問題以後の就活を考えてみたい。

【学生の行動はどう変わったか】

リクナビ問題が報じられた当初、「多少炎上したところで、学生はリクナビを使わざるを得ない」と予想する業界関係者も多かった。

しかし今回は当初の予想以上に大きな問題となり、日本経済新聞社が大学生を対象に実施したアンケート調査(サンプル400名)では、4割が「リクナビの使用を抑える」という回答をしたという。

また大学の就職課から大きな反発が噴出した。「リクナビを学生に薦めることはない」「大学の就職講座でリクナビ担当者は呼ばないことにした」と明言した大学もあり、それに影響された学生もいる。

リクナビDMPフォローの存在が明らかになる前から「ナビに頼らない」風潮はできつつあったが、その動きを加速させる一因になったと言えるだろう。

ただし、「就職課もそんなに役に立たない」と考える学生も多く、ナビサイトが信用できないからといっても学生が就職課を活用し始めたというわけでもないようだ。

リクナビDMPフォローに関しては、リクナビ本体だけでなく「外資就活ドットコム」や「楽天みん就」などからのデータ提供もあったと言われている。

「多かれ少なかれ他のサイトもそういう事をしているのでは」と訝しむ声、逆に「リクナビは今注目されているから逆に問題視されるような事はできないはず」と楽観視する声もある。

就活イベントに足を運んだり、リクルーターやインターンのつながりから就活する学生も以前よりは多くなっているが、明確な「ナビサイトの代替手段」を見つけられていない学生が多数派となっているようだ。

【2020年のトレンドは「省力化」?】

来年は2021卒(現在の大学3年生)が就活をする年になるが、来年は今まで以上に就活の「省力化」が進む1年であると予想する。これは就活をする学生側、採用をする企業側の双方の省力化を意味する。

これまでは、企業が出題するエントリーシート課題に学生が苦心して1つ1つ対応するのが当たり前とされてきた。

特に大手企業においては、志望度の低い学生を振るい落とすために独自のエントリー課題を課す事が一般的だった。

しかし学生の売り手市場になる中で、学生の負担を減らさなければエントリー者確保も困難な企業が増えてきている。この事を課題視している人事も多く、「エントリーシートなし」の選考も増えてきている。

また、まだリリースされていないため一般には騒がれていないものの、マイナビが2020年1月から導入する予定の「マイキャリア・ボックス」も注目の存在だ。

これは学生が提出するエントリーシートや履歴書などを、プラットフォームとして管理する機能であり、これを利用すれば学生は1社ごとにエントリーシートを作成する必要がなくなる。

※マイナビ公式の「マイキャリア・ボックス」紹介動画

採用市場に詳しい方であれば、「それってリクナビのOpenESと同じものではないか」と思うかもしれないが、その通りである。この機能についてはリクナビが先行しており、マイナビが後追いで導入する形になる。

リクナビがOpenESを導入したのが2013年で、そこから6年が経過した。OpenESの導入企業は実装直後が2000社程度だったが、2015年頃に5000社を超え、現在は6500社を超えている。6500社というのはリクナビ掲載企業の2割に相当する企業数だ。

実装当時のOpenESは「他者からの紹介文」入力機能が批判されるなど問題点も多かったが、現在ではOpenESをしっかり仕上げればそれで複数の企業にアプローチする事ができて効率的と見られる事が増えてきた。

リクナビにあってマイナビにはなかった機能の1つと言えるが、今回マイナビがマイキャリアボックスを実装することで、学生目線では「マイナビとリクナビのどちらを利用していてもエントリーシートの一元管理ができるようになる」という事だ。

2020卒就活の学生会員は、リクナビ80万人に対してマイナビ90万人。リクナビが業界のトップランナーというイメージを持たれているかもしれないが、会員数においては事件が起きる以前からマイナビ優位となっていた。マイキャリアボックス自体は目新しいサービスではないが、今やリクナビよりも多くの学生を囲い込んでいるマイナビがこの機能を実装するという点がポイントだ。

後発としてOpenESを追い上げたいマイナビにとっても、「リクナビ問題」は願ってもないタイミングでのチャンスになっただろう。

【面接も省力化の動き】

また2019年は、一部の先進的な企業で「動画面接」や「ウェブ面接」の導入が進み、実施した企業からは採用成功につながったという声が聞こえてきた。

動画面接・動画履歴書を作ろうという動き自体は10年以上前から存在していたが、学生がスマートフォンにより手軽に録画できるようになり敷居が下がった。

「導入前は、直接会わないと学生の人となりを判断できないのではないかと思ったが、実際やってみるとそうでもなかった」「動画の印象と実際に会った印象が大幅に違う学生はいなかった」「普通に一次面接を実施していた従来と比較して、候補者が内定に至る率は変わらなかった」と実施企業は手応えを感じる様子だ。

リアルタイムにやり取りする「ウェブ面接」になると動画面接よりもハードルが高くなる。しかしこちらも「ZOOM」など手軽にウェブ会議ができるアプリの普及により再度注目され始めている。

双方がアカウント取得する必要があるSkypeに比べ、Zoomはアカウント取得なしで使用できるため不特定多数の相手と面接する時に便利だと言える。

学生目線でも移動時間の短縮につながり、人事目線でも1人1人来社させて応対するよりも短時間で面接する事が可能だ。

今後は成功事例を見て同様の取り組みをスタートする企業も増え、人事・学生の双方に省力化の恩恵を生み出すのではないかと予想される。

人事側からは、「省力化できるところは省力化し、余裕ができた時間で学生と密ににコミュニケーションを取りたい」という声がよく聞かれる。特に優秀な学生を口説くために接点を増やしたいと考えている人事は多いようだ。

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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