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初めて女性最高裁判事が三人に。最高裁に風穴をあけてほしい。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

政府は18日の閣議で、東京弁護士会所属の鬼丸かおる弁護士を最高裁判事に任命する人事を決めたという。

http://www.asahi.com/national/update/0118/TKY201301180323.html

女性の最高裁判事は5人目となるが、同時期に最高裁に三人の女性判事がいるというのは史上初めてのことだ。また、弁護士出身の最高裁判事は多数いるのだが、これまで生粋の女性弁護士が最高裁判事になることはずっとなく(第三小法廷の岡部喜代子判事は判事⇒弁護士⇒学者というキャリア)、これはなんとかしなくてはと思っていただけにとても嬉しい。

女性が重要な意思決定に参加できるかを示すジェンダー・ギャップ指数で、日本は世界の100位周辺を低迷している。

法曹界の男女共同参画も本当に進んでいないが、なかでも最高裁は重要である。

言うまでもないことだが、司法は三権の一翼、最高裁は憲法の番人・人権の砦だ。1980年ころからか(もっと前からか)古色蒼然たる官僚司法の総本山のような機関になり、行政追認・検察追随の冷たい判断で人々を失望させてきた。

しかしとにもかくにも憲法判断という重要な判断を担うのであるから、そうした意思決定プロセスに女性が参加すべきば当然だし、そんな官僚司法に風穴を開ける力強い契機になる。

ところが、長らく、この重要な意思決定プロセスから女性は排除されていて、初めて女性の最高裁判事が就任したのはなんと1994年!

初代は労働省婦人少年局長だった高橋久子さんである。私は彼女の判断にとても注目していた。

長年司法界の人々を観察してきたが、司法界にどっぷりつかり、司法消極主義・司法反動、という時代を生き抜いてきた人は、正義や良識に基づく思い切った司法判断ということがなかなかできず、裁量の幅がものすごく狭いように思うことがある。

特に出世を意識する司法界の男性には、どこを切っても本音を見せないことを特技として数十年生き続け、ようやくポジションを得て自由になった年頃には何が本音かわからなくなっている、というような人もよく見かける(意味がない)。

その点、高橋裁判官は、司法界以外、そして女性という立場で、とても率直で正義感あふれる判断をされていたと思う

常に市民的な良識を最高裁に反映させようと努力されていたとご本人も言われていたし、実際にそうであった。。

実際私自身、高橋裁判官が主任をされていた「調布駅南口事件」という少年冤罪事件で、「そもそも起訴が違法」という画期的な判断を出していただき、そのシンプルだが良識にかなった判断に感動した。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/1997/1997_21.html

また政教分離の事案で違憲判決を出した際は、最高裁の主流が相対的分離説を採用しているので、リベラルと言われる弁護士出身の最高裁判事も相対的分離説に乗って違憲判断をしたのに対し、高橋裁判官はひとり絶対分離説による補足意見を書かれたということで、リベラルを自認する最高裁判事を反省させたという。

その流れは、同じ厚労省出身の桜井龍子現最高裁判事も引き継いでいらっしゃるようで、先日桜井判事にお会いした際には、初代の高橋裁判官の歩みを胸に刻まれて最高裁で奮闘されている様子をお話しいただいて、とても心強く思った。

最高裁判事は、キャリア裁判官だけでなく、省庁、弁護士会、学識経験者などが判事になるので、もともとキャリア裁判官による官僚司法に風穴を開けることのできる、市民参加に類するような性格がある。

最近では第三小法廷などで、刑事事件の有罪判決について、キャリア刑事裁判官の意見を他の裁判官が批判して、破棄して無罪を言い渡すような事件も出てきて、キャリア以外の裁判官がお飾りでない存在感を発揮しつつあり、この傾向が一層進むことを期待したい。鬼丸先生に是非がんばっていただきたい、と思う。

とはいえ、国民の半数は女性なのだから、三人で十分でないことはもちろんで、将来的には半々となるべきだ。

そして、次に女性弁護士から最高裁に入る機会があれば、是非とも、草の根レベルで女性の権利の問題に系統的に取り組んできた人になってほしい。日本の司法は未だにジェンダーバイアスに基づく判断も少なくないし、世には男女差別が充ち満ちて、女性の社会進出も進んでいない。そうした状況を最高裁から変えてほしい。

また、最も不思議なのは、いまだに女性裁判官から最高裁判事になった人がいないということである。裁判所にあれだけ女性裁判官が活躍してるというのに、一人の女性最高裁判事も輩出していないというのはいったいどういうことであろうか。このあたり、裁判所の人事における根強い男女差別を感じる。

今や日本には、高裁の長官や地裁の長官、最高裁上席調査官を務めている女性裁判官もいるのだから、一刻も早く最高裁に女性のキャリア裁判官が入ってほしいと思う。

アメリカでも、オバマ大統領がどんどん女性を最高裁判事に指名しているが、私は初の女性・米連邦最高裁判事のサンドラ・デイ・オコナー判事を尊敬していて、英語の伝記も買って読んでしまった。

彼女の判決は常に緻密で理路整然としていて、かつ良識にあふれ、リベラルとコンサバティブが拮抗する連邦最高裁において、彼女がキャスティング・ボードを常に握っていた。私が米国留学していた当時、対テロ戦争でアメリカの人権がとても危機にさらされていた時期だったが、彼女が主任裁判官となっていくつかの重要な最高裁判決が出され、アメリカ合衆国憲法のセーフガードの役割を毅然と果たしていた。ほかにも歴史の節目節目でアメリカの良識を形成する判断を下していて本当にまばゆい活躍であった。

連邦最高裁に臨む弁護士は、どんな理論なら彼女を説得することができるかに心を砕き、ロースクールでは「彼女はなぜこのような判断をしたのか」が議論になる。

日本でもそうした女性法曹が時代を切り開く時代が来ることに期待する。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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