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個人備蓄は「一日我慢しろ」と言えないところに重点

饒村曜気象予報士
防災用品(写真:アフロ)

 台風15号が小笠原諸島付近でゆっくりとした動きでしたが、北上をしはじめ、関東の東海上を通って北海道に接近の見込みです(図)。

図 気象衛星「ひまわり」赤外画像(9月2日3時00分)
図 気象衛星「ひまわり」赤外画像(9月2日3時00分)

 9月は台風シーズンですし、地震はいつ発生するかわかりません。思い立ったら吉日、土日を利用して役立つ個人備蓄を考えてみませんか。

意外に役立たない個人備蓄

 防災の日(9月1日)の頃になると、防災用の備蓄を考える人が多くなります。

 また、大きな災害のニュースが流れると、防災グッズが飛ぶように売れます。

 備蓄を考えるといっても、完璧に備えるには、必要なお金も、備えたものを置いておく場所も、かなりのものが必要です。そして、イザという時に使えるようにしておくためのメンテナンスの手間もばかになりません。

 また、完璧な防災を目指したものの、費用や手間からあきらめて何もしないというのが最悪の結果になります。少しの備えでも、完璧な防災にはならなくても、何もしないよりは災害が軽減(減災)されます。

 ただ、大きな災害時に被災者から聞こえてくるのは、備蓄がなくて困った、用意しておけば良かったというタラレバ話です。これは、個人で全て揃えようとして、その人にとって本当に必要な物が抜けているからではないでしょうか。

本当に必要な個人備蓄

 公的機関や職場等でも備蓄がありますが、災害直後からしばらくの間を凌ぐためには、ある程度のものが必要です。また、近隣住民と協力しあって不足のものを補うとか、代替品をうまく利用する知恵の備蓄も必要です。

 保存期限のあるものは、例えば、ペットボトルの水をまとめて買い、古いものから使って少しづつ補給する生活をするなど、普段のリズムの中で備蓄ができていることが理想です。

そして、長続きする防災対策は、楽しみながらで効果がある「ついで防災」と思います。

 防災備蓄は、2つに分けられます。ひとつは、皆と同じように必要なものです。

 もうひとつは、個人的に必要なものですが、これが自分で用意しなければならない、本当に必要な個人備蓄です。

重点は「一日我慢しろ」といえないところ

 本当に必要な個人備蓄を考える時のキーワードは「一日我慢しろ」です。大災害時に、暖かい食事が食べられないとか、乏しい水を分けなければならなかったなどという報道が見受けられますが、多くの人の生命がかかっている被災地で、多くは一日我慢ができることではないでしょうか。

 「一日我慢しろ」といえないところが防災対策の重点で、本当に必要な個人備蓄です。

 たとえば、おなかがすいている赤ちゃんに我慢しろとはいえません。このため、乳児がいる家庭では、粉ミルクなどの用意が必須です。

 また、持病がある人にも我慢しろとはいえません。持病用の薬の用意も必須です。

 ただ、これは、一般的な話で、人によっては、一日我慢できないことが変わります。災害時の無理な我慢は、ほかの人に我慢を強制することになるので好ましくありません。

 我慢をしなくて済むように、日ごろから個人的に必要なものは個人で用意しておくことが重要です。

 ある幼稚園では、子供たちに災害時に持って逃げるものを自分の避難袋に詰めるという防災活動をしていると聞いたことがあります。小さな子供が考える、災害時に持って逃げる物とは、玩具であったり、お絵かきセットであったりと、大人から見れば防災用品とは言えないものがあると思いますが、「自分が災害時に大事なものを考えること」は、有効な防災教育と思います。

 防災用の備蓄については、単に売っているものを買ってくるだけでなく、家族で話し合い、自分たちにとって、一日我慢できないものを加えておくということをしてみませんか。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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