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“プロフェッショナル”クロちゃんの演じ手としての凄み

てれびのスキマライター。テレビっ子
安田大サーカス・クロちゃん(写真:渡辺誉史/アフロスポーツ/bj league 2005)

1月31日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS)は、松本人志が活動休止後、初めて収録された回。どうしても注目される、いわば“勝負の回”だ。

そこで行われたのが「クロちゃん宅でダマの『100万円を捜せ!』」

番組企画内で引っ越した経緯もあり、リビングなどに監視カメラがついていることでも有名な安田大サーカス・クロちゃんの自宅。そこに100万円をクロちゃんには告げずに隠し、100日以内に見つけることができたら賞金獲得という企画。ただし、1日経過するごとに1万円賞金が減っていくというルールだ。

いつ100万円が見つかるのかという興味で引っ張りつつ、クロちゃんの奇妙で不可解な日常が映し出される。

これまでは、SNSに実際の行動とは違うウソを書く面がクローズアップされることが多かったが、今回は、日々、SNSにあげる動画や写真を家にある様々なものを小道具に使って撮っているところなど、可笑しくも真面目な一面も暴かれる。

結局、97日目、友人の高橋みなみ指揮の元、年末の大掃除をしているときに見つけ、賞金4万円を獲得したのだ。

「緊急生放送」という仕掛け

しかし、これだけで終わらないのが『水曜日のダウンタウン』。

番組終了まで30分弱を残した段階で、「緊急生放送 クロちゃん宅でナマの『100万円を捜せ!』」という企画が始まる。

なんと、生放送で再びクロちゃんの自宅に100万円を隠し、放送終了まで10秒経過ごとに1万円減っていくという企画に切り替わったのだ。最初の「ダマの~」と「ナマの~」をかけているところが心憎い。

クロちゃんは放送の30分ほど前にこんな投稿をしている。

ワンワンニャンニャン菊地はよくクロちゃんドッキリに協力しているので、おそらく番組が、自宅から適度な距離のところにいさせるためにセッティングしたのではないか。だとしたらやはり周到だ。

そしてこの生放送企画が明かされると「青天の霹靂!!」「100万ちょうだい!!」「マジで!?すぐもどるしん!」「近くにいるけど信号捕まってる!早くつけ!!」「これ遠くにいたらアウトじゃん!どういうつもり。水曜日マジいかれてる」「もうつく!」などと自宅に戻る様子を自ら“実況”している。

そして残り615秒(この時点の賞金は62万円)の時点で自宅に到着。

ここから、クロちゃんの真骨頂が発揮される。

まず入ってくるなり「マジで!?マジで!?ホントなのこれ!?」と叫びながら、すぐにテレビをつける。

「え、これ映ってるの? 映ってるのね!」

「どこ?」

「ホントにもらうからね!」

「ちょっとおかしいじゃん!」

「俺遠くにいたらどうしてたの?」

「絶対に手に入れるから!」

「ここなんでしょ、どうせ!」

「みんな応援してね!」

というように、常に状況や心境を言葉にして伝えているのだ。

「カメラ付いてるじゃん、色んなところ!」

と、普段とは違うところにもカメラがあることも端的に伝え、きっとそれが映す場所にあるのだろうと視聴者の推理もリードする。

時折、カメラに向かって「ワワワワー」とギャグをしてみたり、ツッコミどころを与えるのも忘れないサービス精神。

大事な回にリスクある生放送のパートをクロちゃんひとりに任せるというのは、相当な決断だが、その信頼に応えるようなクロちゃんの“プロフェッショナル”な仕事だった。

コントを演じるクロちゃん

クロちゃんといえば、1月22日・29日深夜放送の『週間ダウ通信』(テレビ朝日)にもゲスト出演していた。

22日の放送では、「8番クロちゃん」という蓮見翔脚本のコントを演じた。

そのタイトルが示す通り、ネットゲーム「8番出口」のパロディ。

「8番出口」は、駅構内を歩き、“異変”を見つけたら引き返し、“異変”がなければそのまま進むというシンプルなルールながら、その多種多様な仕掛けが奥深く、そのゲーム実況動画が乱立するほど話題になったゲームだ。「8番クロちゃん」は、その設定を踏襲し、取材を終えて部屋を出たクロちゃんが、“異変”に気づかないと何度も同じ部屋に戻ってくるというもの。

このクロちゃんの演技が、ドッキリをかけられパニックを起こすクロちゃん自身を見事に演じているようで秀逸だった。

この本人が本人役を演じ、ダウ90000の面々と長尺コントをする企画は、オードリー春日、ロッチに続き3作目。

脚本を書いた蓮見は、これまでの2組とは勝手が違ったと翌週に放送されたコント振り返り回で明かした。

蓮見「本人役ってことはテレビに出ている人の裏のテンションでコントをやってもらいたいんですけど、クロちゃんのオフのイメージが全くつかなくて。しかも、オフで何かが起こるクロちゃんの映像って散々見てる。だから書き方がわからなかった。何をやったって普段のドッキリの映像に勝てないじゃないですか。だから極力フィクションにしなきゃってことでこういう形になった」

クロちゃんには台本通りではなく、自分が感じたとおりリアクションすることを求めたという。

クロちゃん「俺的には演技じゃないけど、やりながら自分がその時にそう思うだろうなっていうことばっかり言ってた気がする」
蓮見「そうですね。台本というよりは、その時の感じで喋ってくださいって」
クロちゃん「それ言ってくれたから俺、楽になった」
蓮見「ホント、失礼な話ですけど、じゃなきゃできないだろうなと思ったんで」
クロちゃん「え……待ってくださいね。うーん、今の失礼じゃなかった?(笑)」
蓮見「僕が台本で『黒川さん』って…」
クロちゃん「(遮って)本名で呼ばないで!」
蓮見「これが毎回出る、リハでも。表裏なんか、ねぇんだと思って」
クロちゃん「だから家にもカメラあるし外に出たらいろんな人たちが勝手に写真撮ってあげるからさ、どこにいても変わらないから!

まさにクロちゃんは「クロちゃんのプロ」。“24時間クロちゃん”なのだ。だから凄みすら感じる。

「(前にコントを)やったの10年じゃ済まないと思う。だってアイドルになろうと思ったらダマされて芸人になったわけだから」「今の俺のスタンスは基本的に長回しでハプニング待ちだから」「決まったコントなんてやったことないから」というクロちゃん。

クロちゃん「(安田大サーカスは)和歌山で農業やってる人(HIRO)と、自転車乗ってトライアスロンしてる人(団長)と、ドッキリかけられてる人(クロちゃん)。誰もきちんとしたお笑いやってないからね(笑)」

だから、コントはできないと感じ、これまで頑なに断ってきたという。

クロちゃん「始めからコントやるって聞いてたら俺、受けてないからね!」
蓮見「じゃあ、ドッキリだったんですね(笑)」
クロちゃん「そう!」

クロちゃんにとってはコントも日常も、すべてはドッキリの一部なのだ。

なお、『水曜日のダウンタウン』の当該回は、TVerで2月7日まで配信。

『週刊ダウ通信』はコント回振り返り回ともに、TVerで2月6日(5日深夜)まで配信。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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