“プロフェッショナル”クロちゃんの演じ手としての凄み
1月31日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS)は、松本人志が活動休止後、初めて収録された回。どうしても注目される、いわば“勝負の回”だ。
そこで行われたのが「クロちゃん宅でダマの『100万円を捜せ!』」
番組企画内で引っ越した経緯もあり、リビングなどに監視カメラがついていることでも有名な安田大サーカス・クロちゃんの自宅。そこに100万円をクロちゃんには告げずに隠し、100日以内に見つけることができたら賞金獲得という企画。ただし、1日経過するごとに1万円賞金が減っていくというルールだ。
いつ100万円が見つかるのかという興味で引っ張りつつ、クロちゃんの奇妙で不可解な日常が映し出される。
これまでは、SNSに実際の行動とは違うウソを書く面がクローズアップされることが多かったが、今回は、日々、SNSにあげる動画や写真を家にある様々なものを小道具に使って撮っているところなど、可笑しくも真面目な一面も暴かれる。
結局、97日目、友人の高橋みなみ指揮の元、年末の大掃除をしているときに見つけ、賞金4万円を獲得したのだ。
「緊急生放送」という仕掛け
しかし、これだけで終わらないのが『水曜日のダウンタウン』。
番組終了まで30分弱を残した段階で、「緊急生放送 クロちゃん宅でナマの『100万円を捜せ!』」という企画が始まる。
なんと、生放送で再びクロちゃんの自宅に100万円を隠し、放送終了まで10秒経過ごとに1万円減っていくという企画に切り替わったのだ。最初の「ダマの~」と「ナマの~」をかけているところが心憎い。
クロちゃんは放送の30分ほど前にこんな投稿をしている。
ワンワンニャンニャン菊地はよくクロちゃんドッキリに協力しているので、おそらく番組が、自宅から適度な距離のところにいさせるためにセッティングしたのではないか。だとしたらやはり周到だ。
そしてこの生放送企画が明かされると「青天の霹靂!!」「100万ちょうだい!!」「マジで!?すぐもどるしん!」「近くにいるけど信号捕まってる!早くつけ!!」「これ遠くにいたらアウトじゃん!どういうつもり。水曜日マジいかれてる」「もうつく!」などと自宅に戻る様子を自ら“実況”している。
そして残り615秒(この時点の賞金は62万円)の時点で自宅に到着。
ここから、クロちゃんの真骨頂が発揮される。
まず入ってくるなり「マジで!?マジで!?ホントなのこれ!?」と叫びながら、すぐにテレビをつける。
「え、これ映ってるの? 映ってるのね!」
「どこ?」
「ホントにもらうからね!」
「ちょっとおかしいじゃん!」
「俺遠くにいたらどうしてたの?」
「絶対に手に入れるから!」
「ここなんでしょ、どうせ!」
「みんな応援してね!」
というように、常に状況や心境を言葉にして伝えているのだ。
「カメラ付いてるじゃん、色んなところ!」
と、普段とは違うところにもカメラがあることも端的に伝え、きっとそれが映す場所にあるのだろうと視聴者の推理もリードする。
時折、カメラに向かって「ワワワワー」とギャグをしてみたり、ツッコミどころを与えるのも忘れないサービス精神。
大事な回にリスクある生放送のパートをクロちゃんひとりに任せるというのは、相当な決断だが、その信頼に応えるようなクロちゃんの“プロフェッショナル”な仕事だった。
コントを演じるクロちゃん
クロちゃんといえば、1月22日・29日深夜放送の『週間ダウ通信』(テレビ朝日)にもゲスト出演していた。
22日の放送では、「8番クロちゃん」という蓮見翔脚本のコントを演じた。
そのタイトルが示す通り、ネットゲーム「8番出口」のパロディ。
「8番出口」は、駅構内を歩き、“異変”を見つけたら引き返し、“異変”がなければそのまま進むというシンプルなルールながら、その多種多様な仕掛けが奥深く、そのゲーム実況動画が乱立するほど話題になったゲームだ。「8番クロちゃん」は、その設定を踏襲し、取材を終えて部屋を出たクロちゃんが、“異変”に気づかないと何度も同じ部屋に戻ってくるというもの。
このクロちゃんの演技が、ドッキリをかけられパニックを起こすクロちゃん自身を見事に演じているようで秀逸だった。
この本人が本人役を演じ、ダウ90000の面々と長尺コントをする企画は、オードリー春日、ロッチに続き3作目。
脚本を書いた蓮見は、これまでの2組とは勝手が違ったと翌週に放送されたコント振り返り回で明かした。
クロちゃんには台本通りではなく、自分が感じたとおりリアクションすることを求めたという。
まさにクロちゃんは「クロちゃんのプロ」。“24時間クロちゃん”なのだ。だから凄みすら感じる。
「(前にコントを)やったの10年じゃ済まないと思う。だってアイドルになろうと思ったらダマされて芸人になったわけだから」「今の俺のスタンスは基本的に長回しでハプニング待ちだから」「決まったコントなんてやったことないから」というクロちゃん。
だから、コントはできないと感じ、これまで頑なに断ってきたという。
クロちゃんにとってはコントも日常も、すべてはドッキリの一部なのだ。
なお、『水曜日のダウンタウン』の当該回は、TVerで2月7日まで配信。