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スラムダンクの三井寿も顔負け。「諦めない男」パトリックの凄さとは

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
ガンバ大阪で過去4つのタイトルを手にしているパトリック。またこの笑顔がみたい(写真:アフロスポーツ)

 過去6シーズン、タイトルから遠ざかっているガンバ大阪では徐々に「勝者のメンタリティ」を知る選手が減りつつある。8年前の三冠メンバーは今や宇佐美貴史、東口順昭、倉田秋、藤春廣輝、そしてパトリックの5人のみ。ガンバ大阪が今、現実的に狙いうる唯一のタイトルは天皇杯であるが、その旗頭に立つのが「諦めたことがない男」パトリックである。

「諦めたことがない男」が真骨頂を発揮した2014年のナビスコカップ決勝戦

 スポ根漫画の名作「スラムダンク」の人気キャラクター、三井寿の名セリフにこんな言葉がある。

 「おう オレは三井。 あきらめの悪い男…」

 しかし、そんな三井もパトリックの諦めの悪さには、到底、敵わない。

長谷川健太監督が率いたガンバ大阪が第二の黄金期の扉を開けたのが2014年11月8日に行われたナビスコカップ(現ルヴァンカップ)の決勝戦。サンフレッチェ広島相手に前半35分までに2失点を許し、ガンバ大阪は絶体絶命の窮地に立たされていた。

 「(自分は)持ってねえな。厳しいゲームだなと思った」とは長谷川監督の率直な心境。そして宇佐美も「諦めかけました、正直。一瞬、終わったかと」と試合後に本音を口にした。

 しかし、パトリックは違っていた。

「全くネガティブなことは頭をよぎらなかったよ。まず同点に追いつくことだけを意識したね」

 この年の7月、ガンバ大阪に期限付きで加入した直後、パトリックに自身の強みをインタビューする機会があった。「力強さと気持ちの強さ」と自らのストロングポイントを明かした後、「もう一つ付け加えるならば、僕は絶対に諦めないメンタルを持っているということ。展開が難しい試合でも絶対に勝つことを諦めないのも自分の特長だね」とパトリックは言った。

 「Eu nunca desisto《エウ・ヌンカ・デジスト(僕は諦めたことがない、の意)》」

 その言葉通り、ナビスコカップ決勝では追撃の狼煙となるゴールと同点ゴールをゲット。決勝では史上初めてとなる2点差からの逆転優勝の立役者となったパトリックは試合後、「ガンバの歴史に名を刻めて嬉しい」と笑顔を見せた。

34歳になった今もガンバ大阪で欠かせない存在に

 あれから8年、一時、サンフレッチェ広島でもプレーした時期はあったが34歳の「諦めたことがない男」は今でもガンバ大阪に欠かせない存在である。

 6月1日の天皇杯2回戦ではJ3勢のFC岐阜に14分までに2点を許す苦しい展開だったが「14分までに0対2にされて、ひっくり返さないといけない状況を強いられた。誰もが驚いてちょっとパニックになりかけていた」とベンチから戦況を見ていたパトリックだが「自分もピッチに入ってスピリットを見せて、状況を変えたいという思いがあった」との言葉通り、後半から投入されると2対2の拮抗した状況にピリオドを打ち決勝ゴールをゲット。チームを勝利に導くと、6月22日の天皇杯3回戦でも、J2勢の大分トリニータ相手に後半2得点を奪って、3対1の逆転勝利に貢献した。

 お世辞にも足元が上手いとは言えない選手だけに、ガンバ大阪がシーズン序盤に目指したビルドアップからの崩しというスタイルにはピタリとハマる選手でないのは事実である。

参考記事:レアンドロがキレた2つの伏線。昌子源の指摘は正しいが、それでも(今は)レアンドロをFWの軸にすべき訳――なる拙稿を書いたのは、当時の攻撃を牽引し始めていた中村仁郎がレアンドロ・ペレイラとの相性の良さを口にしていたことが一番の理由であり、実際、つなぐサッカーをより重視し始めた4月23日のルヴァンカップ、セレッソ大阪戦では勝利が必要な状況にもかかわらず、パトリックはベンチ入りさえ果たしていない。

 「パト(パトリック)が悪いとか状態が良くないとかではないんですけど、やっぱり自分たちがじゃあ、どういう風に守備する、攻撃するというところでの対セレッソ戦というところで、パトの活かし方というところが少し、まだトレーニングを見ていてちょっと難しいかなというところの判断」と片野坂知宏監督は話していた。

 若い世代に受け継がせたい「勝者のメンタリティ」

 もっとも、いかなる起用法であろうと、パトリックのガンバ愛は揺るがない。グループステージ突破の可能性がわずかに残されていた「大阪ダービー」でメンバー外。ダービーには一際燃えるブラジル人だけに、面白いはずがないが、そうした不満を示さないのがパトリックの良さでもある。三冠自体にはヘッドコーチとしてパトリックに接していた片野坂監督も就任当初、「本当にパトは、ガンバへの思いが人一倍強い選手なので、僕もありがたいし、そういう選手は大事にしていきたい」と絶対的な信頼を寄せていた。

 天皇杯の岐阜戦を終え、3日間の短いオフを挟んで再始動したガンバ大阪だったが近年、体のケアを特に欠かさないパトリックは、オフの間にも体を動かし、夏場の連戦に向けたコンディション調整を心掛けたという。

 サイドに流れて相手DFを振りちぎる全盛時のスピードとパワーはもはや失われつつあるのは事実だが、ゴール前に限らず、ボールの競り合いには未だ絶対的な強さを持っている。東口順昭も言う。「天皇杯(大分戦)でも明らかに違いは見せてくれていたし、パトがいてくれると、ほぼボールを競り勝ってくれる。そこはこのチームの武器。天皇杯のような形でのクロスを入れればほぼ点にしてくれるので、このチームの強みだと思う」

 代表ウイークを終え、再開された6月18日の横浜F.マリノス戦では従来のボールをつなぐスタイルから一変、ハイプレスを繰り出し、素早く攻める戦い方を新たに志向するガンバ大阪。周囲と連動した守備や献身性ではレアンドロ・ペレイラを上回るパトリックだけに、再び定位置を奪い返した格好だが、その背中でチームを引っ張るつもりでいる。

 パトリックに問うてみた。

――以前のようなパワーやスピードはないかもしれないが、経験を重ねた今、どのようなプレーや姿勢でチームに貢献できるのか。

「今は以前見えなかったものが経験を積んで全体が見られるようになってきた。そういう経験を若い選手や周りにも伝えたいし、リーダーシップも取れる年齢になっているのでそこも見せたい」

 天皇杯の大分戦では試合中、若手に檄を飛ばしながら勝利への執念を示したパトリック。彼が今、意識するのはチームから失われつつある「勝者のメンタリティ」を新しい世代に受け継がせることでもある。

 ガンバ大阪で4つのタイトルを手にした「諦めたことがない男」は、本気で5つ目の栄冠を目指している。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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