【体操】芸術性で勝負できるニューフェース アジア大会で銅2つの中路紫帆
■18歳のニューフェース
芸術性で世界と勝負できる可憐なニューフェースが誕生した。インドネシアで開催されているアジア大会の体操女子団体と種目別ゆかで銅メダルを獲得した18歳の中路紫帆(なかじ・しほ、戸田市スポーツセンター)は、エレガントな表現力で勝負する新鋭だ。
自身にとって初の国際大会となったアジア大会では、個人総合で日本選手最高の6位になると、跳馬以外の3種目を任された団体決勝ではノーミスの演技で銅メダルに貢献。ゆかと平均台の2種目で決勝に進んだ種目別でも、ゆかで12・600点をマークして銅メダルを獲得した。
京都で生まれ育った少女は戸田SCでアトランタ五輪代表の豊島(旧姓菅原)リサ監督の指導を受けるため、単身で埼玉に移り住んだ根性娘。夢の東京五輪出場へ、ジャカルタから第一歩を踏み出した。
■団体とゆかで銅メダル
8月24日、ジャカルタ国際エキスポに設けられた体操会場。スタンドを埋め尽くす観客の視線を一身に浴びながら、中路は緊張の面持ちで種目別決勝ゆかの演技に入った。予選をトップで通過し、金メダルを狙っていた。
ゆったりとしたムーディーな音楽をもてあますところなく使いこなす、優雅な身のこなし。しかし、冒頭の見せ場だった足持ち2回ターンや中盤の4回ターンで回転軸がややズレた。会心の出来映えだった予選や団体決勝では見られなかったふらつきがわずかに出た。
実施の正確性を示すEスコアは7・800点。8点台のEスコアを出して予選をトップ通過し、金メダルを狙っていただけに、3位という結果に悔しさがこみ上げた。
「自分に足りないところがあった」
涙があふれ出た。だが、初のシニア国際大会出場で3位は立派だ。
■田中光監督「芸術性が優れている」
好成績の要因を、女子チームの田中光監督はこう説明した。
「中路さんは見ての通り、(身体の)線がきれいで、エレガントな体操をする。芸術性に優れていて、非常に評価が高い」
ここ4、5年の間、日本の女子はゆかで好成績を連発している。昨年の世界選手権種目別ゆかで金メダルを勝ち取った村上茉愛を筆頭に、15年世界選手権種目別ゆか4位で、村上とともにリオデジャネイロ五輪にも出場した宮川紗江もいる。
その村上と宮川がパワフルなアクロバットで高得点を叩き出すのに対し、中路は表現力が武器だ。現在、世界の潮流はシモーネ・バイルス(米国)や村上をはじめとする難度の高いタンブリングを武器とするタイプと、オランダ勢を筆頭とするエレガント系のタイプに二分されており、それぞれの特徴を持つ選手が覇を競っている。
田中監督は「女子のゆかは振り付けやターン、ジャンプの動きがシビアに採点されるようになっていて、芸術性の部分で差がつきやすい。アジア大会で中路さんが芸術性を高く評価されたことはすごくうれしい」と目を細めた。
■「“強くて美しい選手”になりえる素材」と称賛する豊島リサ・戸田SC監督
戸田SCで日頃から指導する林啓太コーチも、大会中の中路の成長を感じ取っていた。
「本当に金メダルを獲りたいのなら、少しくらいミスしても獲れるくらいのレベルになっていなければいけない。そのためには今の練習ままではダメだということが分かったことが大きいと思う」
自信を持っていた表現力は国際舞台でも十分に通用することが分かった。林コーチは「今やっているのは空中感覚を養うことと、強い身体をつくるための基礎練習とトレーニング」だと語る。今後の課題は、アクロバット系の強化である。
今回は日本から見守っていた戸田SCの豊島監督は「何年に1人かなというすごい素材。うちが掲げている『強くて美しい選手』になりえる逸材でスター性がある。なかなか出会えない選手なので、指導者として頑張らなくては」と語っていた。
■中路「これを第一歩に」
同学年の畠田瞳や梶田凪が10月にカタール・ドーハで開幕する世界選手権の代表候補に選ばれている中、一足早くアジア大会で海外の審判にアピールした。採点競技では世界に知られることが非常に重要だ。東京五輪まで2年を切った今、アジア大会で高い評価を受けた価値は大きい。
「緊張感の中で演技できたのは良い経験になった。これを第一歩として、次につなげていきたい。3位の悔しさを、帰国してからの練習に生かして、次は絶対金メダルを獲れるという自信を持って演技できるようにしたい」
ジャカルタでの収穫は意識改革だろう。ニューフェースの目に浮かんでいた涙は、いつの間にか乾いていた。