Yahoo!ニュース

「学校の先生によゆうを!」を公約に掲げた〝政党〟が登場

前屋毅フリージャーナリスト
労働環境党のメンバーが発表した公約   撮影:筆者

 夏休みにはいったばかりの7月25日、全国から小学校1年生から6年生までの約100人が集まって「こども国会」(正式名:ワクワクワークプロジェクト夏休みこども国会スペシャル2022)が開催された。場所は、ほんものの国会議事堂と議員会館である。

| ほんとうの意味の主権者教育が行われた

「学校の先生によゆうを!」と公約を掲げたのは、6年生のグループのひとつだった。彼らの政党名を「労働環境党」という。

 この日の「こども国会」は、1部の国会議事堂見学にはじまり、2部では国会議員からの話を聞いての質疑応答が行われた。そして午後の3部は衆議院第一議員会館の大会議場で行われ、グループごとに与えられたテーマを話し合い、自分たちの政党名と選挙での公約を決める。それを発表して、参加者で選挙をやり、政党の当選・落選を決める。

 2016年6月19日施行の改正公職選挙法で、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた。高校生の一部も選挙権をもつことになり、そこで注目されたのが政治を自分の問題としてとらえる「主権者教育」である。

 しかし多くの高校が選挙前に実施した主権者教育とは、模擬選挙などで「投票の仕方」を教えるものでしかなかった。政治を自分の問題としてとらえる主権者教育とは、ほど遠い。現実の政治について学校内で語ることを避ける学校も少なくない。学校の政治アレルギーは、18歳が選挙権をもつようになっても変わらない。

 そんななかで、小学生に政治を身近に感じてもらおうというのが「こども国会」である。国会議事堂の見学くらいなら実施している学校もあるだろうが、政党としての公約をつくらせる授業をやっている学校は皆無に近いはずだ。

「こども国会」の3部では、学年ごとにテーマが決められてる。それを各グループで話し合い、「公約」にまとめていく。1年生から4年生までは紙の上で意見を出し合い、まとめていく。

 5年生と6年生はちょっと違っていて、「こども国会」に協賛している(株)ワコムが用意した同社の液晶ペンタブレットを利用して行う。それを司会者が説明すると、1~4年生からは「ずるい~」の声があちこちからあがった。学校での1人1台端末が実現している現在、低学年や中学年でも液晶ペンタブレットを使いたいし、使いこなす自信もあるのだろう。

5年生と6年生のグループはワコムの液晶ペンダブレットを使って話し合いの内容を効率よく整理していく   撮影:筆者      
5年生と6年生のグループはワコムの液晶ペンダブレットを使って話し合いの内容を効率よく整理していく   撮影:筆者      

 5年生と6年生に示されたテーマは、「はたらく」だった。どうすれば働きやすくなるのか、を考えていくのが趣旨だ。各グループの作業を見てまわっていると、ペン入力のできる液晶ペンタブレットで紙に書くように文字を入力しながら、効率よく整理していっている。最初は戸惑っている子もいたりしたが、すぐに慣れた様子で作業にくわわっていく。どのグループでも、液晶ペンタブレットをあいだに置いて、活発な話し合いが展開されていた。

 各グループごとにユニークな党名をつけているし、感心する公約がまとめられている。そのなかで、「労働環境党」を名乗るグループが公約の最初に「学校の先生によゆうを!」を掲げているのに目を惹かれた。そのグループの東京都内から参加しているという男の子に、「なぜ先生に余裕が必要なの?」と質問してみた。すると、「学校で先生たちを見ていると、すごく忙しくて、たいへんそうだから」との答が即座に戻ってきた。

 子どもたちの目にも、教員の忙しさは「たいへん」に映っている。そして、それを「改善すべきこと」として受け止めているのだ。

「こども国会」を主催・運営には「こども国会2022実行委員会」があたり、その中心になっていたのがCHEERS株式会社である。同社代表の白井智子さんは、「政治を身近に感じ、国を良くすることに楽しく取り組んでもらうためです」と開催意図を説明してくれた。模擬投票などより、ほんとうの意味での主権者教育である。

 この主権者教育を体験した子どもたちも、18歳になれば投票権をもち、すぐに選挙に立候補できるようにもなる。政治を身近な問題として、真剣に考える大人に成長していくことだろう。

 いつか「労働環境党」が現実の政党になれば、教員の働き方を大きく変えてくれるかもしれない。その期待もふくめて、学校にはほんとうの意味の主権者教育を実施してもらいたいとおもう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事