伝説の営業マンが語る「天丼は天ぷらの衣をはがして食べる」が炎上! 衣を外してもよいのか?
昔の本が話題に
少し前に、X(Twitter)で話題になっていた記事がありました。
・一流の営業マンは天ぷらの衣を剥がして食べる。なぜ?(新刊JP)
それは、単行本「プロフェッショナルセールスマン」(神谷竜太著、プレジデント社刊)を紹介した新刊JPの記事です。
本は2011年に刊行されており、記事は2017年に配信されました。どちらとも古いですが、なぜか2023年4月にバズっていて、大きな話題になっていたのです。
天丼は衣を外して食べる
この本では、伝説的な営業マンが遺した言葉を紹介しています。数ある名言の中でも、話題に上ったのが、次のところ。
この発言に対して大きな反響がありました。
「天ぷら屋へのマナー違反を堂々と語る人が、一流のビジネスマンとは思えない」「食べ物を粗末にする人間が、一流のビジネスマンなのか」「ビジネスマンとしては一流でも、人としては三流」「そもそも大事の前に天ぷらは食べない発想に至らないのか」といった厳しいものが大半ですが、「優秀な人なのに、珍妙な小噺だけが先行して広められて可哀想」という冷静な反応もあります。
油の健康被害
天丼の天ぷらから衣を外したのはなぜでしょうか。
それは、衣に含まれた油に対する警戒心からでした。
油=油脂などの脂質は、人間にとって重要な成分であり、主要なエネルギー源です。ただ、脂質を摂取しすぎると、肥満や心筋梗塞をはじめとする循環器疾患のリスクを高めたり、血液中のLDLコレステロールを増加させたりします。
再利用したり、開封してから時間が経過したりして、油が酸化すると、食味が悪くなるだけではなく、身体に悪影響を及ぼし、下痢や嘔吐、腹痛、頭痛などにつながることもあるのです。
したがって、“悪い油”に対して心配することは、間違っていないといえるでしょう。
油の種類
食用油には様々なものがあります。菜種油(キャノーラ油)や大豆油と菜種油をブレンドしたサラダ油、大豆油、コーン油、紅花油、綿実油、ひまわり油、亜麻仁油、荏胡麻油、落花生油、胡麻油、オリーブオイルなどがあり、どれも幅広い用途で使えます。
それぞれ風味に特徴があり、料理の仕上がりを左右する大きな要素です。天ぷらであれば、最も重要な素材は揚げ油といわれるだけあって、天ぷらを提供する飲食店はこだわりをもっています。
天ぷら専門店が、天ぷらを揚げるのに用いているのが、生の白胡麻を絞って精製した太白油や綿の種子を原料とした綿実油です。値段は高いですが、天ぷらにこだわるのであれば妥協できません。
衣の重要性
天ぷらの衣は重要な役割を担っています。
食材を包み込んで水分を保ち、揚げ油が直接ネタに浸透しないようにしているのです。さらには、食感をよくしたり、食材を加熱しすぎたりしないようにもしています。衣と揚げ油の温度差が大きいと、カラっと仕上がるのも特長です。
天ぷら以外の料理でも、衣は同じような役割を果たしています。天ぷらの衣とは違いますが、唐揚げやトンカツ、コロッケやエビフライなどは日本でも親しまれている衣揚げの料理であり、素材と衣の素晴らしい調和が感じとれるでしょう。
天ぷらはガストロノミー
天ぷらは、日本料理でひとつのジャンルとして確立されており、ミシュランガイドでも「天ぷら」という料理カテゴリーがあります。「ミシュランガイド東京 2023」では二つ星3店、一つ星11店、ビブグルマン4店が掲載されており、世界的に評価されているのは間違いありません。
天ぷらは、食材をそのまま揚げたシンプルな素揚げとは全く異なります。それぞれの店に衣と油にオリジナリティがあり、旬材と衣と油の三位一体が考慮されているのです。衣を外してしまえばこの完璧な調和が崩れてしまうので、飲食店からしても残念に感じられることでしょう。
食べ残し
平気で食べ残すことも問題です。
飲食店に入ってたまたまアレルギーの食材や嫌いな料理が提供されてしまったのであれば、まだ仕方ありません。しかし、自ら天丼を注文しているので、最初から天ぷらの衣を外す意図があったのは明白です。
SDGsが広まり、2019年に食品ロス削減推進法が施行されてから、食べ残しについて人々の意識が変わりました。当時はまだ食品ロスに関心がもたれていなかったので、ある程度は割り引いて考えた方がよいかもしれません。
ただ、食事中に衣を外してネタだけをほじくり出すような行為は、非常に無粋であることに変わりはありません。
他の選択肢
天ぷらの衣が気になるのであれば、そもそも、なぜ選択するのでしょうか。
定食屋であれば、天ぷら屋とは異なり、天丼以外の油で揚げていないメニューがあるはずです。胃腸の調子が心配であれば、胃腸に負担のないものを選んだり、昼を抜いたりするのが普通でしょう。
伝説的な営業マンであれば、一般的な営業マンと考え方が違うのかもしれません。しかし、食べ物を無駄にしたり、つくり手の気持ちを想像できなかったり、他人の目にどう映る行為であるかを考えられなかったりするのは残念です。
考え抜いた一品
料理人は考えに考え抜いて、ひとつひとつの要素全てが揃ってはじめて完璧になるように、一皿を創出しています。何かが加えられても、何かが欠けても完璧ではありません。
料理人が生み出した料理は、そのまま味わっていただけたら幸いです。