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「勝たないといけない」貴景勝が語る 賛否呼んだ「立ち合い変化」と大関の責任【インタビュー後編】

飯塚さきスポーツライター
賛否両論の立ち合い、大関の責任について貴景勝の持論は(写真:筆者撮影)

大関・貴景勝が、自身の9月場所を振り返るインタビュー後編。二桁勝利を挙げるも「大関にとって10勝はただの及第点。今場所も優勝できなかった。ただそれだけ」と淡々と語る。貴景勝にとって、大関の責任とは何か。持論を伺った。(前編はこちら

夢を追う貴景勝にとって「相撲は人生そのもの」

――12日目の北勝富士戦で勝ち越しを決めました。心境はいかがでしたか。

「今日はこの一番、と思って毎日やっているのと、8勝は別に目標ではないので、あの日に限って気負ったということはまったくないです」

――立ち合い変化によるはたき込みでの勝利でした。

「それもやっぱり、あんまり覚えていないんですよね。体が勝手に動いた感じです」

――逆に翌日の若隆景戦では、立ち合い変化を食らいました。頭にはありませんでしたか。

「そこは自分の弱さです。本来であれば、頭になくても対応できるくらいの体を作っていないといけない。何事も頭に入れて臨むんですが、それでも予想外の出来事ってやっぱり起こるんです。相手も考えてくるので、そこは自分にとっさの判断能力、対応力がなかったからかかってしまったっていうだけですね」

――大関の立ち合い変化に、ファンから賛否の声がありました。

「どう言われたのか、自分はまったく見ないからわからないんですけど、まず相撲は人のためではなく自分のためにやっていますからね。自分のためにやっていることを人に応援してもらうのが一番の喜びであり、力にはなるんですが、自分の夢のためにやっているので、それを否定されようが肯定されようが、自分の思うようにやるだけです。考え方は人それぞれ。自分の夢に向かって、何をどうすべきか、何が最善の選択なのかしか考えていないので、人の意見に流されることはありません。自分が選択した行動によって、応援してくれる人がいていただけるなら、すごくありがたいなと思っています」

大相撲秋場所12日目 立ち合いで変化し、北勝富士をはたき込みで破る貴景勝(写真:日刊スポーツ/アフロ)
大相撲秋場所12日目 立ち合いで変化し、北勝富士をはたき込みで破る貴景勝(写真:日刊スポーツ/アフロ)

――私はあの日、以前照ノ富士関がおっしゃった「力士はみんな、目の前の一番を必死に戦っている。だからこそ、どんな力士のどんな相撲にも敬意をもっていたい」という言葉を思い出していました。

「まさに本当にその通りで、特に上位の人は、いちいち自分がケガしているって言わないですよね。相手に弱みを見せることは、対人競技においてできない。その上で自分ができることは何か、勝つために何が最善なのかも考えなきゃいけない。もちろん、難しいところではあるんです。お客さんに喜んでもらえる相撲を取りつつ、目の前の一番に勝たないといけないので。お客さんの思うところと、僕ら競技者側の思うところがマッチしてくれればいいんですが、うまくいかないときもあります。でもやっぱり、相撲って人生そのものなので、自分の思い描いている理想としては、勝っていかないといけないんですよね」

――貴景勝関の思う、大関の責任とはなんでしょうか。

「一生懸命やり切ることじゃないですか。横綱もそうですが、大関は勝たないといけない地位。優勝したかしなかったかというだけで、三賞も何もないっていうのがそれを物語っています。一生懸命考えてやり切ったなら、人に何を言われても仕方ない。自分自身が、今日はやり切った、集中し切った、妥協はなかったと思えれば、それで負けたなら弱いだけですから、そう思えるようにしたいです。そう思えた上で、最低でも10番勝って優勝争いにも絡まないといけません。ただ、10番を目指したら10番勝てないので、とにかく優勝を目指すしかないんですよ。平幕までは、勝ち越せば次の番付が見えて、10番勝てば三賞も見えますが、僕たちは優勝した場合だけ綱取りという次のステージに進めるので、とにかく優勝したかしなかったかの二択。だからこそ優勝を目指してやっています」

相撲が楽しかった頃の気持ちを取り戻す

――一方で、今月は17年ぶりとなる「大相撲ファン感謝祭」や、各地巡業でファンとの交流が戻ってきました。参加していかがでしたか。

「自分は本当に楽しかったですよ。コロナ禍でファンの皆さんとの交流はほとんどなく、相撲を取って拍手だけもらって終わる毎日だったので。巡業は先場所から始まりましたが、いざ面と向かって『応援しています』と言ってもらえると、やっぱりうれしいですよね。本場所で、タオルを持って応援していただいているのもすごくありがたいけど、直接言ってもらえるのは本当にうれしいです」

今月行われたファン感謝祭は「楽しかった」という(写真:筆者撮影)
今月行われたファン感謝祭は「楽しかった」という(写真:筆者撮影)

――本当によかったですよね。最後に、今後の目標も教えてください。

「僕は“もう”26歳。そう捉える『いい焦り』っていうのが大事です。空回りしなければ、すごくいい考え方だと思います。若いとは言えない年齢に来たので、若いときの勢いを忘れずにいきたいですね。20~21歳の頃って、相撲を取ることが楽しかったんです。場所が楽しみで、横綱・大関と当たれることがうれしくて、テレビで見ていた上位常連の人に勝てば、自分にも勝てるんだと思えて。そういう楽しさをもう一度味わえるように、もっと勢いをもって頑張っていきたいです。大関に上がったら楽しくなくなるよって、いろんな先輩の大関から聞いていて、本当にその通りでした。命がけの勝負をしているのに“楽しむ”って言うのはおかしいと思うんですけど、でももう一度、相撲をやっていてよかったと思えるようにしたいですね。家族と話し合って相撲を始めて、小学3年生から相撲のプロになることしか考えていなくて、その選択が本当に正しかったなって、この世界に身を置いてよかったなって思えるような相撲人生にしたい。だからこそ、変に老け込まず、若いときの勢いをもって、はつらつと元気にいきたいですね」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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