映画興行をSNSが左右する時代?〜2018年興収上位作品のツイッターを分析した〜
2018年の日本の興収上位作品のツイッターを分析したら
1月末に日本映画製作者連盟から2018年版の「日本映画産業統計」が発表された。先週、その洋画の興行収入(以下、興収)から以下の記事を書いた。
「ディズニー帝国が世界を支配する?~2018年映画興行に見える恐るべきパワー~」
これとは別に昨年の映画興行で気になっていたのがSNSの影響だ。「カメラを止めるな!」をはじめ、「ボヘミアン・ラプソディ」「劇場版コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」などツイッターで盛り上がる作品が目についた。それが興収も押し上げたように思える。
そこで、興収上位の作品について、ツイッターの盛り上がりを知りたいと思った。こんな時、いつも頼りにするのが角川アスキー総研だ。映画やテレビ、音楽などエンタテイメント分野に限ってツイートを抽出し分析する、「エンタメツイート分析」のノウハウを持つ。お願いしたところ、興味深いデータが出てきた。それを紹介し、新しい傾向と感想を書いておきたい。(なおツイート数は公開前1ヶ月~公開後5カ月の半年間で集計している)
まず邦画の興行収入とツイート数を並べたのが冒頭のグラフだ。
驚いたのは、「コード・ブルー」「カメ止め」以外の映画も、ツイッターが十分に盛り上がっていたことだ。見てわかる通り、全体に興収とツイート数が相関している。また「名探偵コナン ゼロの執行人」「映画ドラえもん のび太の宝島」「銀魂2 掟は破るためにこそある」は興収に対してツイート数が異様に多い。
「DISTINY 鎌倉ものがたり」だけが例外で興収に対してツイート数が少ない。客層がツイッターの中心世代とズレているから、という理由が考えられる。
さてデータを個別に見ると、実はそれぞれパターンが違う。
「劇場版コード・ブルー」は公開前からもやもやと盛り上がり始め、公開日に極端に高い山ができている。そのあとはしばらく残り火のように盛り上がり続けた。ほとんどの映画はこのパターンだ。当たり前と言えば当たり前。公開と同時に溜まっていたマグマが地表で爆発するようにツイートが溢れ出る。「コード・ブルー」の場合は、ドラマ版でファンになった人びとが待ち構えていて大爆発を起こしたのだろう。
「名探偵コナン」のグラフは少し違う。公開日の爆発の後も、何回も爆発が続く。ツイート数が長期間盛り上がった分、興収も伸び続けたのだろう。SNSがもたらした新しい傾向がここに見える。ツイッターの盛り上がりが興収を”伸ばす”現象がいくつかの作品で見られるようになった。
「カメラを止めるな!」は「コナン」に似て何度も爆発が起きているが、公開日よりずいぶんあとに山ができているのが特徴だ。これについては昨年書いた記事があるので参考にしてほしい。
「『カメラを止めるな!』の感染経路をTwitter分析で追ってみた」
公開規模が拡大するたびにツイートが爆発している。これもSNSがもたらした現象で、上映館数を増やし自主映画が大ヒット作になった。
「映画ドラえもん」はまた違うパターンだ。公開したあとで「モンスターストライク」とのコラボ企画がスタートし、そこで圧倒的な山ができている。先のグラフで興収に対しツイート数が異様に多かったのはこのせいだ。イレギュラーなパターンと言えるだろう。
興収とツイート数には明らかに相関性が見えるが、個々の映画の話題の広がり方にはいくつかのパターンがある。盛り上がりが公開日の後も続くかどうかが、興収の伸びを左右するようだ。
シリーズ作品はツイッターが盛り上がらない?
洋画の方もベスト10を見てみると、また不思議なことがわかる。
「ボヘミアン・ラプソディ」は想像通り、興収とツイート数が比例しているが、他の作品は邦画ほど興収とツイート数の相関性が明らかではない。「ジュラシック・ワールド/炎の王国」や「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」そして「インクレディブル・ファミリー」「ミッション・インポッシブル/フォールアウト」「ボス・ベイビー」は興収のわりにツイート数が少ない。「グレイテスト・ショーマン」や「リメンバー・ミー」「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」「レディ・プレイヤー1」は興収に応じたツイート数があった。相関性があるものとないものが極端に分かれた。
これも「鎌倉ものがたり」同様、客層とツイッターユーザーの世代のズレが原因という仮説で説明できると思う。「ジュラシック・ワールド」「スター・ウォーズ」「ミッション・インポッシブル」は年齢層が高く、「インクレディブル・ファミリー」「ボス・ベイビー」はファミリー層が中心で、どちらもツイッターを活発に使う世代と外れているのではないか。ただ、個々の映画の客層データが手元にないので、仮説の真偽はわからないのだが。
ちなみに洋画も個々のツイート数のグラフは様々だ。「ボヘミアン・ラプソディ」は想像通り、いつまでも山が続く形になった。「コナン型」だが、公開後3ヶ月経っても山が続いているのが珍しい。
ツイート数/アカウント数はリピート率に関係?
もうひとつお見せしたいデータがある。角川アスキー総研からもらったデータには、個々の映画のツイート数とは別にアカウント数のデータもあった。アカウント数は人数と考えていいだろう。ツイート数とアカウント数を並べてツイート数の方が多いと、一人当たりのツイート数が多かった、つまり同じ人が何度もツイートしたことになる。
下のグラフは、ツイート数がアカウント数より明らかに多かった作品を取り出してみたものだ。
「カメラを止めるな!」「ボヘミアン・ラプソディ」はリピート率が高いと言われた。一度見て気に入った人が、二度三度と見て興収がふくらんだ。私も「カメ止め」は2回見ている。二度三度と見た人はツイートも二度三度発するので、そういう人が多い作品はアカウント数に対しツイート数が多くなるのだと思う。
ということは、「コード・ブルー」「コナン」などここに並ぶ他の作品もリピート率が高かったことが推測できる。映画の興行にとっていま、このリピート率の高さが鍵となっているのではないか。そしてリピート率を左右するのもツイッターの盛り上がりだと考えられる。
こうして見ていくと、2018年は映画興行全体がSNSに左右されていたと言えると思う。2016年の「シン・ゴジラ」「君の名は。」で顕著に見られたが、その後すっかり映画とSNSの密接な関係が定着したのだろう。とくに興収がどこまで伸びるかについて、SNSは大きな影響力を持っているのではないか。
ここには登場しなかったがアニメ映画「若おかみは小学生!」があまりの素晴らしさにSNSが盛り上がり、小規模だった公開館数が増えた、という出来事もあった。
ただしツイッターさえ盛り上がれば興収が上がる、という単純な話ではない。ツイート数は様々な話題の高まりの”結果”増えるものでもある。その複雑な要因をどう動かすかが、映画のプロモーションで策を巡らすポイントになるだろう。結局は、汗をかかなければいけない、ということだ。ただ必ずしも金にものを言わさなくても、SNSは盛り上がる。つまりは、熱意の問題なのだと思う。
SNSが映画興行を左右する。観客の側から見ると、あなたの熱いツイートが映画の命運を握っているということだ。気に入った映画について、積極的にツイートするといいと思う。