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ヒトパピローマウイルスってなに? 3月4日は「国際HPV啓発デー」、正しい知識を

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

ヒトパピローマウイルス(HPV)ってなに?

HPVとはウイルスの一種で、身の回りに存在している代表的なウイルスです。実は成人男女の8割が、生涯に一度は感染していると考えられており、誰にでも関係のあるウイルスなんです。

HPVの主な感染経路は性行為であり、感染しても風邪のような症状は引き起こしません。代わりに、尖圭コンジローマと呼ばれる性感染症や、長期間かけて感染部位の細胞を変化させ悪性腫瘍(がん)の原因となることがあります。日本で最も多いHPV関連がんは子宮頸がんです。子宮頸がんの原因の95%はHPV感染によるものと考えられています。

日本では年間約1万人の女性が子宮頸がんと診断され、約2900人が死亡しています(文献1)。これは、1日当たり約8名が子宮頸がんで命を落としていることになります。亡くならずに済んだ場合でも、治療のために多くの女性が子宮摘出や化学療法(抗がん剤など)を余儀なくされています。

最近では20~30代の子宮頸がんが増えており、このため妊娠や出産ができなくなる方も少なくありません。産婦人科医として、このような患者さんとそのご家族を見るのは大変辛いものです。

HPV感染を予防するワクチン

子宮頸がんを含むHPV感染症を予防する方法があります。それが、HPVワクチンです。このワクチンはがんを予防できるワクチンという意味で画期的であり、世界各国でその研究成果などが賞賛されています。

日本では2013年4月に小学6年生~高校1年生の女の子を対象に定期接種(国が費用を全て負担し、無料で接種できるワクチン)となりました。しかしワクチン接種後の症状への懸念から同年6月に接種勧奨が一時差し控えとなりました。その後、現在も接種勧奨再開に向けた審議が続いていますが、当初70%あった接種率は現在1%未満に激減しています。そのような状況が既に7年も続いているのです。

ところが、HPVワクチンの有効性(子宮頸がん予防効果)や安全性は、ここ数年間に報告された多くの国際的な研究により明らかになってきています。

有効性(子宮頸がん予防効果)について

有効性については、2020年10月に発表されたスウェーデンの研究で、ワクチン接種により子宮頸がんのリスクが63%低下する(かかるリスクが約1/3になる)ことが報告されました(文献2)。特に17歳以下で接種を完了できた場合には発症リスクが88%低下(かかるリスクが約1/10になる)と、非常に効果が高いことも分かりました。

つまり、性活動を開始するとHPVに感染する可能性が誰にでもありますので、初めての性交渉を持つ前にHPVワクチンを接種することが理想的です。

ただ、性交渉の経験があっても、HPVワクチンによる感染予防効果はある程度期待できます。

今までの研究の結果から、HPVワクチンは26歳以下のすべての女性に勧められているのです(文献3)。27-45歳の女性では、メリットの大きさが人によって変わるため、医師に相談の上で接種をするかを決めましょう。

安全性について

次は安全性(副反応など)についてです。ワクチン接種後のよくある副反応として、接種部位の腫れや痛みなどの局所反応があります。これらは数日以内によくなります。

まれな副反応としてアナフィラキシーというものがあります。これは接種後に蕁麻疹や咳などのアレルギー反応がおこるもので、血圧が下がって具合が悪くなることもあります。接種後30分以内に起こることが多いため、接種後は十分注意して観察を行います。ただ、頻度はまれで約96万接種に1回とされています(文献4)。

一時期、接種後の多彩な全身の症状が報道されたこともありました。確かに、ワクチンの種類によっては、接種後に神経系の病気が起こることもあります。したがって非常にまれであっても見過ごすことはできません。この点について海外や日本で多くの研究が行われ、「重篤な症状がHPVワクチン接種によって明らかに増えるわけではなく、十分に安全だ」と世界各国の専門機関、公的機関(世界保健機関[WHO]、米国CDC、英国NHS、日本産科婦人科学会など)が明言しています。(文献5-9)

「国際HPV啓発デー」としてのイベント紹介

2018年から毎年実施されてきたこのイベントでは、全世界80以上の団体・組織がHPVについて広く知ってもらうためのキャンペーンを世界中で行っています。

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクトは、本イベントを主催している国際パピローマウイルス学会の公式パートナーとして、日本におけるキャンペーンを主導しています。

以下に、本日実施されるイベント内容を紹介します。

【1】3団体合同SNSキャンペーン:#ワクチンについて知ろう

「みんパピ!」「こびナビ」「コロワくん」の3つの団体が、TwitterやInstagramでみなさんの疑問に回答してくれます。

#ワクチンについて知ろう というタグをつけて質問を投稿すると、3つの団体のアカウントからHPVワクチンを題材にしながら回答が返ってきます。

この機会にぜひ、専門家にご自身の不安や疑問を聞いてみるのもいいかもしれませんね。

【2】HPVワクチンの解説マンガ第1段が公開

マンガ家の青鹿ユウさん(https://twitter.com/buruban)とみんパピ!のコラボ作品が公開されます。

第1段は、みんパピ!代表の稲葉医師(産婦人科医)がHPVと子宮頸がん、HPVワクチンについて解説する内容になっています。

本日以降、続きの話も随時公開されるとのことです。

【3】コウノドリ無料公開

人気マンガ「コウノドリ」作者の鈴ノ木ユウ先生のご厚意で、講談社「FRaU」にコウノドリ「子宮頸がん編」が無料公開されます。

私自身も読んだことがありますが、実際の診療でも経験したことが思い出され、「1人でも多くの方の子宮頸がんを減らしたい」と改めて強く実感しました。

ぜひ、ご覧ください。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80777?media=frau

【4】国際パピローマウイルス学会制作の動画・ポスター公開

国際パピローマウイルス学会が制作した動画やポスターの日本語版が公開されます。

ポスターはダウンロード可能なので、職場等での啓発にご活用いただけるかと思います。

みんパピ!ウェブサイトからご覧いただけます。

【5】Clubhouseの特別トーク企画(18時〜19時半)

音声SNS「Clubhouse」でライブ配信が行われます。

子宮頸部異形成(前がん病変)になったらどのような検査や治療が必要か、男性の尖圭コンジローマの大変さ、など大変参考になる話が聞けるかと思います。

「Clubhouse」をご利用できる方はお楽しみに。

【6】特別YouTube Liveを開催(20時~22時)

イベントデーの最後には、「みんパピ!」「こびナビ」「コロワくん」の3団体合同で特別YouTube Liveが開催されます。

Twitter/Instagramで #ワクチンについて知ろう キャンペーンで未回答だった質問や、ライブ中の質問などに、出演者が直接回答してくれるようです。

各専門家の真面目で楽しいYouTube Liveを通して、HPVやワクチンに関する正しい情報が広まることを期待しています。

視聴はこちらから。

参考文献:

(1)国立がん研究センター. 最新がん統計.

(2)N Engl J Med 2020; 383:1340-1348.

(3)Cochrane Database Syst Rev. 2018;5(5):CD009069.

(4)厚生労働省:HPVワクチンQ&A.

(5)Papillomavirus Res 5:96-103,2018.

(6)World Health Organization. HPV Vaccines and Safety.

(7)Centers for Disease Control and Prevention. Safety Information for HPV Vaccine.

(8)National Health Service. HPV vaccine safety.

(9)日本産科婦人科学会.子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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