エボラで国際的に懸念される緊急事態宣言 地元への支援を最大に
世界保健機関(WHO)は7月17日、専門家からなる緊急会合で、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で続くエボラウイルス病(以下、エボラ)の流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC:Public Health Emergency of International Concern)を宣言した。
PHEICの宣言は、2009年の新型インフルエンザ、2014年のポリオ、同年のエボラ、2016年のジカ熱に次ぐ5度目となる。今回のエボラの流行では、これまで3度の専門家会合が開催されたが、いずれの回でも宣言には至らなかった。WHOは現在も、世界規模での感染拡大が差し迫っているとはしないものの、200万人都市のゴマで感染者と感染疑いが確認され、リスクの高まりに予断を許さないこと、国際社会からの協力が進んでいないことなどから、宣言に踏み切った。
同時に、西アフリカでのエボラ流行時の反省から、コンゴを孤立させないために移動や物資の流通に規制を掛けないことも呼びかけられた。対策側は人・モノの流れと感染制御両方を確保するため、周辺国と連携しつつ、主要交通網や国境でのスクリーニングをさらに強化する。
「心から恐怖を感じたよ」
対策を困難にしているのは、エボラという病気そのものよりも、現地の治安確保、現地住民の対策受け入れ、接触者の特定と追跡、地域の診療所などでの院内感染防止、安全な埋葬など、地域と対策の関係性に関わる課題だ。地域住民が、対策と従事するスタッフを信頼し、耳を傾けてくれなければ、対策は功を奏しない。
エボラ対策で、水・衛生、安全な埋葬を担当するコンゴ赤十字のJさんは、長年エボラ対策に関わってきた専門家だ。現地からキンシャサに戻ってきていた彼は一つ一つの質問に丁寧に答えてくれたが、疲労と複雑な思いがこちらにも伝わってきた。
4月19日、ブテンボで病院が武装グループの襲撃を受け、WHOから派遣された医師が死亡したとき、彼は同病院の別の階でスタッフに研修を行っていたのだという。「心から恐怖を感じたよ」。
病院という命を救うための場所が襲撃を受け、患者さんや医療・非医療従事者が命の危険にさらされる。あるいは、命を落とす事態が起きている。
悲しみに寄り添いながらも、接触を防ぐ埋葬を
Jさんが担当する安全な埋葬にあたっては、まずコミュニケーションと警護の担当者が地域に入り、訪問の目的、続く専門スタッフによる埋葬・警護の目的を、地域の長と住民に説明する。ここで理解が得られて、やっと安全な埋葬が実現する。
しかし、Jさんは「うまくいかないこともある」と肩を落とした。「説明しようとしても、聞いてもらえないこともある。スタッフの恐怖心とモチベーションをどうケアするかも大切だ」。大きなストレスを抱えながらの業務には、ローテーションを組めるスタッフの数も必要になる。
対策への信頼を獲得するためには、現地の人々と同じ言葉を話し、彼らの風習や文化を知る現地スタッフの参加が欠かせない。しかし、彼らに活動を担ってもらうことは、彼らにリスクを負わせることにもなると、関係者は話す。
外部からのスタッフは活動中は警護に守られ、業務が終われば安全が確保された宿泊先に戻る。しかし、現地スタッフはその地域が生活の場だ。彼らに不信の目が向いたとしたら、彼らが憎悪や攻撃の対象となりかねない。ジレンマを理解しつつ、こうしたリスクへの対処も必須だ。
エボラの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言されることは、現地に暮らす人々自身が深刻なリスクにさらされ続けていることを意味する。外部への脅威に目が行きがちになる中、緊急事態の収束は、いかに現場を支え続けるかに掛かっている。
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