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大相撲名古屋場所は“奇跡”の15日間 岩友親方が語った当たり前の「感謝」とは

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
大盛況の名古屋場所初日(写真:筆者撮影)

名古屋の地に大相撲が戻ってきた。

「2年ぶりだね」

「うれしいね」

そんな声があちこちから聞こえてくる。それまで降り続いていた雨が、13時の開場目前にして止んだ。まるで、名古屋の空もこの日を祝福しているようだ。

コロナ禍での地方開催は、無観客で行われた昨年大阪場所を除いて初めてのこと。例年、暑さとの戦いにもなる名古屋では、新型コロナウイルス感染症対策と、熱中症対策の両輪が必要とされていた。その渦中で場所の運営に携わる、名古屋場所担当親方の一人、岩友親方(元幕内・木村山)に話を聞いた。

話を聞いた岩友親方(写真:筆者撮影)
話を聞いた岩友親方(写真:筆者撮影)

徹底したコロナ対策と熱中症対策

「純粋に相撲を楽しんでいただくことと、安心安全を守ることの両方を実現するのが難しい部分ですが、これまで国技館で感染対策に取り組んできた協会から、具体的なアドバイスをもらいながら試行錯誤しています」と話す岩友親方。初日を迎え、改善点も見えてきた。ここからさらに15日間、臨機応変に対応していく。

これまでは、窓を閉め切っていたドルフィンズアリーナ。今回は、換気のために窓を開けている。熱中症対策では、とにかくこまめな水分補給を促す。

また、熱中症患者とコロナの疑いがある患者とを分けられるように、通常1か所しかない救護室を3か所に増やした。民間の救急車は2台待機。さらに、中日病院の看護師が2名常駐し、日本医師会からも医師が来ている。

コロナ禍で初めての地方場所。声援が送れないなど、いままで通りに楽しめない部分がある一方で、「力士がぶつかる音や、行司・呼出しの声といった、いつも聞こえない音をより鮮明に聞くなど、新しい楽しみを見出してほしいですね」と、岩友親方は語る。

おなじみの力士像も「マスク姿」に(写真:筆者撮影)
おなじみの力士像も「マスク姿」に(写真:筆者撮影)

岩友親方の注目3力士とは?

土俵に目を向けると、今場所は話題が豊富だ。進退をかけて出場している横綱・白鵬。綱取りに挑む大関・照ノ富士と貴景勝。幕内に復帰した人気力士・宇良など、見どころは多い。

数々の話題があるなかで、「唯一、愛知県出身の明瀬山が休場してしまったのは残念」としつつも、岩友親方が注目するのは、「新三役の若隆景・明生、そして御嶽海」だという。

「若隆景は、東洋大学の後輩なので、期待していますね。新三役の2人は、若いし体が大きくないからこそ、面白い相撲を取ってくれると思います。御嶽海も、名古屋場所で優勝経験があるだけでなく、名古屋担当部長の出羽海親方の力士なので、気合が入っていると思いますよ」

初日は、残念ながら3人とも黒星を喫してしまったが、まだ初日が終わったばかり。ここからの活躍に期待しよう。

土俵に上がる前に感謝しなくてはいけないこと

運営に携わる岩友親方は、「とにかく開催できることがありがたい」と話す。

「場所開催に携わる人や企業・団体って、すごくたくさんあるんです。体育館の窓を開けて行うために網戸をつけていただいたり、熱中症対策で扇風機を貸してくださったりと、打ち合わせ段階から本当にたくさんの方の協力があって成り立っています。現役の頃は、そこに当たり前のように土俵があって、当たり前のように相撲を取っていたけど、決してそれは当たり前じゃない。そのことに、この立場になって気がつきました。礼に始まり礼に終わる大相撲だからこそ、土俵に上がる前に感謝しなきゃいけないことがたくさんある。それを、現役の力士たちにも伝えていきたいなと思っています」

日本相撲協会だけでなく、目に見えない多くの支えによって、開催が実現している大相撲の本場所。コロナ禍での地方開催によって、より多くの人がそのありがたみを享受できることになった。“奇跡”ともいえるこの15日間を、心からかみしめ、楽しませていただきたいと思う。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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