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もうすぐアカデミー賞ノミネート発表。気になるのは「RRR」「トップガン」、そして日本映画は…?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『RRR』は、この画像のようにアカデミー賞で盛り上がるか?

アカデミー賞。昨年は『ドライブ・マイ・カー』が日本映画として初の作品賞ノミネートで国際長編映画賞を受賞。そして授賞式ではウィル・スミスの殴打事件が社会現象レベルの大騒ぎに。そんなわけで映画ファンの関心を超え、例年以上に盛り上がった。

間もなく1/24の夜(日本時間)に、今年(2022年度)のノミネートが発表される。

これまでのいくつかの前哨戦から大方の流れは作られているが、日本の映画ファンにとって今回のアカデミー賞ノミネートは、どんな作品や人に注目すべきだろうか。

『RRR』

現在、日本でもロングラン公開を続け、熱狂的なファンを増やしているインド映画『RRR』。アメリカでも予想外のヒットとなり、賞レースもにぎわせている。この『RRR』、アカデミー賞では作品賞ノミネートも期待されている。

昨年の『ドライブ・マイ・カー』に次いで、非英語作品での作品賞ノミネートなるか。作品賞ノミネートは10作品だが、現在、『RRR』は当落線上。しかも非英語作品では、ここへきてドイツ映画の『西部戦線異状なし』が、急激に評価を高めてきた。また、『ドライブ・マイ・カー』のように国際長編映画賞へのノミネート・受賞があるかといえば、こちらは『RRR』は不可能。インドの代表が別の作品(『エンドロールのつづき』)だからだ。

『RRR』は一時、監督賞ノミネートの可能性もささやかれたが難しそう。ただしノミネートはもちろん、受賞も至近距離につけているのが歌曲賞。『RRR』を観た人なら、あの超絶ダンスシーンの「Naatu Naatu(ナートゥ・ナートゥ)」で受賞を予感しているはず!? ゴールデン・グローブ賞や放送映画批評家協会賞などで同賞受賞を果たしているので、ここは確実だ。

ちなみに『RRR』は、『ドライブ・マイ・カー』と同じ会社がオスカーキャンペーンを展開している。

『犬王』

日本映画として唯一、ノミネートの可能性があるのが『犬王』。長編アニメ映画賞で、ゴールデン・グローブ賞など他のいくつかの賞でノミネートを果たしている。とはいえ、予想では5〜6番手。つまり当落線上。このカテゴリーには強力な作品(『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』)があるので受賞は、ほぼ不可能だが、ノミネートされれば『未来のミライ』以来、4年ぶり。日本でのアカデミー賞報道も大きくなり、授賞式まで盛り上がりが続くはず。

『犬王』の湯浅政明監督。アカデミー賞授賞式に参加なるか。写真はスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭でのタイムマシン賞受賞より
『犬王』の湯浅政明監督。アカデミー賞授賞式に参加なるか。写真はスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭でのタイムマシン賞受賞より写真:REX/アフロ

『トップガン マーヴェリック』

日本でも昨年、大ヒットして、みんな大好き! アカデミー賞でも複数の部門でノミネートされそう。やはり2022年を代表する一作だ。作品賞ノミネートは、ほぼ確定。撮影賞や音響賞、編集賞、視覚効果賞などもノミネート濃厚で、監督賞も望みがある。ちょっと期待していたのは主演男優賞だったが、当初の予想で「可能性あり」とされたトム・クルーズは、強力なライバルたちの出現で後塵を拝することになってしまった。ただサプライズもなくはない。『トップガン マーヴェリック』とトム様が昨年の映画界に果たした功績を考えれば、アカデミー会員の心を動かすかも。いずれにしてもトム・クルーズがノミネートされれば、授賞式も華やかになり、そこだけピンポイントで日本でも大きく取り上げられるだろう。

配信作品はやや静かめ

ここ数年、配信系の作品がアカデミー賞をにぎわせ、昨年は、ついにApple TV +の『コーダ あいのうた』が、配信会社の作品として初の作品賞に輝いた(日本は劇場公開)。これらの多くは、アカデミー賞ノミネートの時期に日本でも観られるのでありがたい。ただ今年は配信系の勢力がやや弱め。Netflixの『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』が長編アニメ映画賞などで有力も、作品賞に関してはノミネート有力の作品がないかもしれない状況だった。ここ数年、2〜3本は必ず配信系がノミネートされていたのに……。しかしようやく有力候補が現れた。Netflixの『西部戦線異状なし』だ。第一次世界大戦を描くレマルクの同名原作の再映画化で、かつて映画化された作品は、1930年の第3回アカデミー賞で作品賞を受賞している。先日発表された英国アカデミー賞でも最多ノミネートを果たしたこの作品は「台風の目」と言えそう。

『西部戦線異状なし』 Netflixにて独占配信中
『西部戦線異状なし』 Netflixにて独占配信中

1/22時点で業界紙Varietyが順位をつけて予想する、今年のアカデミー賞作品賞ノミネートは以下のとおり。()は日本での劇場公開日。

1)トップガン マーヴェリック

2)フェイブルマンズ S・スピルバーグ監督の自伝的ドラマ(3/3公開)

3)イニシェリン島の精霊 『スリー・ビルボード』のM・マクドナー監督作(1/27公開)

4)エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 人気スタジオA24作品。ミシェル・ヨーらアジア系がメインキャスト(3/3公開)

5)TAR/ター 女性指揮者のパワハラ・セクハラにも切り込む。主演女優賞最有力(5月公開)

6)エルヴィス

7)西部戦線異状なし Netflixで配信中

8)逆転のトライアングル 豪華客船が難破し、漂着した島でのサバイバルが展開(2/23公開)

9)ウーマン・トーキング 私たちの選択 外部から隔絶された村で女性たちが受けた性暴力を論議(初夏公開)

10)ザ・ホエール 恋人を亡くし、過食で死期も迫る教師の5日間の室内劇(4月公開)

そして続くのが……

11)RRR

12)アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

アカデミー賞授賞式は、3/13(日本時間)に開催される。

『RRR』現在公開中。画像:(c) 2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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