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【超絶ブラックバイト】しゃぶしゃぶ温野菜の元アルバイト学生、店長らを殺人未遂等で告訴

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

少し前ですが、「しゃぶしゃぶ温野菜」でアルバイトをしていた学生が、店長から「今からお前ん家行くぞ」「殺してやっから!」などと脅されたことが話題になっていました。

その脅されていた大学生が本日、「しゃぶしゃぶ温野菜」の元店長たちを殺人未遂等で刑事告訴したとのことです。

その内容を見て、一瞬、目を疑いました。

まず、「しゃぶしゃぶ温野菜」、これはフランチャイズ形式を取ったチェーン店です。

今回、被害者と加害者である店長がいたのはフランチャイズ加盟会社であるDWE JAPAN株式会社でした。

「しゃぶしゃぶ温野菜」のフランチャイズ本部に当たるのは株式会社レインズ・インターナショナルです。

牛角などでも有名ですね。

さて、この大学生(Aさん)が何をされたのか。

彼はブラックバイトユニオンに加入し、たたかっていたようですので、そこに情報が載っています。

ブラックバイトユニオンは、その名のとおり、ブラックバイトで苦しむ労働者のための労働組合です。

刑事告訴の内容

まず、刑事告訴の内容はというと・・・

包丁で刺し、首を絞め、殴りつけ、恐喝する

だそうです・・。

まじかよっ!

と声に出した人もいるのではないでしょうか?

ブラックバイトユニオンのブログによると具体的には以下の通りです。

(1)暴行:Aさんを殴打、絞首するなどの日常的暴行(録音多数)

(2)殺人未遂:店舗内において、本件店舗内に保管されている調理用包丁(刃渡り15センチメートル)を持ち出し、Aさんの左腕の付け根及び左胸あたりを突き刺す

(3)恐喝:Aさんへの制裁として行われた20万以上に及ぶ自腹購入

(4)脅迫行為;Aさんの些細な仕事上の失敗を取り上げて、本件店舗にて、「(そのミスのせいで)店が潰れたら責任をとってもらう、4000万円の損害賠償請求をしてやる」などと脅迫したこと

出典:ブラックバイトユニオンブログ

まぁ、なんていうか、ブラックバイトと呼ぶより、普通に犯罪ですね。

特に驚いたのは包丁で左胸を刺すって、それ、殺人行為じゃないですか。

他のもひどいのですが、労働トラブルでよく見られるのは3番目の制裁としての自腹購入や4番目の損害賠償するぞ!という脅迫ですね。

これは本当に多いです。

過去に記事を書いたことがあるので、ご参照ください。

従業員は仕事でミスをしたら会社に損害賠償をしなければならないのか?

【ブラックバイト】欠勤1回につき罰金3万円!~これは払わないといけないのか?

民事訴訟は?

さらに、民事訴訟も提起しているようです。

上記の行為に対する損害賠償請求はもちろんでしょう。

特徴的なのは、「学業に重大な支障を受けたことに対する損害賠償請求」です。

Aさんが受けた学業の支障はブログによると以下のようです。

Aさんは、温野菜の店長から直接の暴力を受け、「殺してやるからな」「(店がつぶれたら)お前に4千万円を賠償を請求する」といった趣旨の脅しを受けるなどして、不当にアルバイトに拘束され、昨年4月から8月の4か月間、休みなしで働かされていました(就労時間は昼前から深夜まで及びました)。また、日々のパワハラはAさんの精神を激しく傷めつけました。

そのため、大学2年生の前期の講義にほとんど出席することができず、出席が必須のテストや実習にも参加できず、単位はすべて落とすことになりました。そのためにAさんは自分が希望するゼミに入ることができませんでした。来年は留年の危険もある状態です。

出典:同前

この類型は今までになかったと思いますので、ここをどう判断されるか、今後のブラックバイト被害者の救済において、重要な請求だと思われます。

今流行り(?)の第三者調査もやったらしい

フランチャイズ本部のレインズ・インターナショナル社は、上記のことがフランチャイズ加盟店で起きて、話題となっていたことから、火消しをしようと思ったのか、第三者調査機関を立ち上げてで調査したようです。

結果はリンク先(PDF)

※なお、第三者調査機関は阿部・井窪・片山法律事務所に頼んだようです。

しかし、Aさんに聴き取りをしないなど、問題が多い調査だったようです。

被害者に聴かないで、何を調査したのか、謎としか言いようがありませんね。

第三者委員会を使えばいいってものじゃないことは、舛添都知事で図らずも有名になってしまいましたが、その先を行っていた会社があったとは、私も知りませんでした。(^_^;)

ブラックバイトをなくすためにフランチャイズ規制を

この「しゃぶしゃぶ温野菜」の例は、ブラックバイトとしては、かなりぶっ飛んだ事件かもしれません。

しかし、程度はどうあれ、似たような事例は多数報告されています。

暴力的な指導、自腹購入の事実上の強制(自爆営業)、損害賠償をちらつかせて脅す行為、そして、学校に行けないほどシフト入れるなど、ブラックバイトの闇は深いといえます。

ブラックバイトをなくすための1つの提案として、フランチャイズ本部の法的責任を明確化する法を整備するというのはどうでしょうか。

利益を得るならば、責任も伴うという当たり前のことを定めるだけです。

労働関係から生じる債務の責任、団体交渉の応諾義務、この2つをフランチャイズ本部に課すだけでも大きく変わると思います。

今は、加盟店のトラブルは加盟店が対応すればいいということでフランチャイズ本部への責任追及がしにくくなっています。

ここに風穴を空ける議論が今後必要になるのではないでしょうか。

<6月18日追記>

レインズインターナショナル社から声明がでたようですので追記しておきます。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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