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早稲田大学・服部亮太がトップレベルで「困らない」ための指揮官の教え。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
帝京大学戦後の服部(筆者撮影)

 早稲田大学ラグビー部は11月4日、関東大学対抗戦Aの第4戦目で帝京大学に48-17で勝利。大学選手権3連覇中のタフな相手に接点、スクラムで伍し、新人ウイングの田中健想が5トライを決めたこともあって全勝をキープできた。

 殊勲者のひとりは服部亮太。司令塔のスタンドオフで、身長178センチ、体重80キロのルーキーだ。

 佐賀工業高校時代は高校日本代表にもなっており、かねて進学を希望していた早稲田大学でも1年時から主力入り。高校2年時から飛距離が出始めたというキックの技術、防御を振り切る走力で魅する。

 この日も、前半9分のロングタッチキック、15分頃のキックオフ後のエリア合戦から放った一本、20分頃の中盤から敵陣ゴール前まで届く一本など長距離砲を重ねた。ハーフタイム直前には相手防御の乱れを突き、チーム4本目となるトライを奪った。

試合後、報道陣に囲まれて話したのは、常に足元を見つめる意識だった。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——キックの飛距離が出ると自覚したのはいつ頃からですか。

「高校2年生の時から佐賀工業高校で毎日、ずっと練習していて、その時から『飛ぶなぁ』という風には思っていました」

——回転をかけて飛距離を出すスクリューキックと縦回転のキックを蹴り分けているような。

「自陣から思い切り蹴る時はスクリューを。タッチキックなどコントロールが必要な時は縦回転を蹴るようにしています」

——きょうは音の鳴るキックが放たれる度、スタンドからは歓声が沸きました。

「少しは聞こえていたんですけど、そこで調子に乗ったり、満足したりするんじゃなく、ひとつひとつのキックに集中しようとは思っていました」

——エリア管理、うまくいったのでは。

「自分のなかでは中途半端なキックが多かったイメージなので、そこは修正し、次の筑波大学戦(11月10日/埼玉・熊谷ラグビー場)ではもっと有効的なキックを蹴っていきたいです」

——「中途半端」。気になる点は。

「ワンバウンドもせずに相手に捕られてしまっては、それは本当に有効的なキックだったのかと思うところがある。(地面に)バウンドをさせるなり、高いキックを蹴るなど(工夫をしたい)」

 確かにキックがバウンドしたり、滞空時間が長かったりすることで捕球までの時間が長くなればなるほど、弾道を追う味方は相手にプレッシャーをかけやすくなる。

——早稲田大学入りの理由は。

「自分が行きたいと主張したら、早稲田大学側から声がかかった。伝統があり、強い大学ですし、展開ラグビーは自分がしたかったラグビーなので、行きたいなと。自分のパス、キックが得意な点は、速めに展開する点にフィットしていると思います」

——いまの個人目標とそこに至るためにしていることは。

「(冬に日本一を争う)大学選手権での優勝が第一の目標。ただ、そこを見据えるのではなくてひとつひとつのゲームからしっかりやっていく。負けてしまっては意味がないので、一戦一戦、丁寧にやっていきたいです」

——日本代表入りへの意欲は。

「ジャパンに行きたいとは思いますけど、早稲田大学でやっていくことに意味があると思っていて、そのために入学したところもある。まず、早稲田大学のラグビーから見ていこうかと思っています」

——フルバックの矢崎由高選手は日本代表でプレーしています。

「いつも一緒に練習する先輩が世界の舞台でやっている。一番近くで見られているのは僕たち。そこは周りの大学よりも有利な点だと思います」

 チームを率いる大田尾竜彦監督は、現役時代にスタンドオフとして活躍。服部と同じ佐賀工業高校、早稲田大学に在籍していた。

 自身と同じキャリアを歩む教え子を「恵まれた才能を持っていて、しっかり練習を大事にする人間。成長する余地はある」と評する。司令塔の年長者として助言について、こう語る。

「パスをする時の細かいところなどを(助言)。もっと上のステージに行っても困らないように、と言ったら変ですが、プレッシャーを背負いながらプレーする位置を覚えさせないといけないと思っています。その辺は、彼の高校時代の癖みたいなことを抜きつつ、教えている、という感じです」

 接点から最初に球をもらうことの多いスタンドオフが防御の「プレッシャー」を受けながらパス、キックを繰り出せれば、周りに立つ味方はよりストレスなく走ったり、球を追追いかけたりできるわけだ。指揮官は続ける。

「10番(スタンドオフ)は、ポジショニングで相手にプレッシャーをかけてなんぼです。またプレッシャーを背負った時、相手の近い間合いの時にミスをしないか…。その点では成長の余地があります。昔といまとではラグビーは変わりつつありますが、その辺(前述の内容)は大事です」

 その意図について、服部本人もこう頷く。

「9と10の距離(司令塔団の間隔)を長くするとか、動きながら(パスをキャッチすることで)相手にプレッシャーをかけるとか、細かい部分を言われています」

 今回のターゲットゲームを制したことには嬉しさを覚えながら、「もし大学選手権で(帝京大学と)戦う事があったら、その時にはきょうのことは忘れて、イチから…という気持ちでやっていきたいです」と気を引き締めた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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