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「鉄道の町直江津」をどう盛り上げるか。地域イベント、「なおえつ うみまちアート2023」開催

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
えちごトキめき鉄道で大人気の国鉄形急行電車。  撮影 金船 裕 氏

今、新潟県上越市の直江津が熱く燃えています。

えちごトキめき鉄道が本拠地を置く新潟県上越市の直江津駅は、今から137年前の明治19年に日本海側で初めて鉄道が敷かれた町で、当時から現在まで大きな車両基地がおかれています。

その車両基地は、かつては蒸気機関車が配置され、国鉄最盛期には駅や車庫、保線などを合わせると800人もの職員が配置されていたという大きな駅で、今でも直江津には鉄道OBやそのご家族などが多く住まわれ、地元の皆さんは「直江津は鉄道の町だ」と言われています。

ところが、北陸新幹線の開業後、それまで多数走っていた特急列車が新幹線へ移行し、直江津は新幹線のルートからも外れてしまったため、何となく元気がなくなってきているのも事実で、かつての町の繁栄をどうしたら取り戻せるのか、地域の皆様方が真剣になって考えています。

なおえつ うみまちアート 2023 開催

そんな中、直江津の町中では明日19日から「なおえつ うみまちアート 2023」が開催されます。

これは、直江津の町中をアートで飾ろうという催しで、地域の商店街が中心となって企画している町ぐるみのイベントです。

でも、

「今どきアートで町を盛り上げるってどうなんだろう?」

そう思われる方も多くいらっしゃると思います。

筆者もその一人で、テーマを聞いて疑問に思っていましたが、実行委員会に参加している職員の一人が「いや、結構盛り上がっていますよ。」と言っており、地元のことでもあるので、このイベントの実行委員会の委員長を訪ねてお話を伺ってきました。

なおえつ うみまちアート2023 実行委員長の重原稔さんです。

重原さんは直江津で百年以上続く銘菓「継続だんご」を作る三野屋さんの代表で、ふだんから地域のリーダーとして活躍する若手です。

今回のイベントに関しての考えをお聞きすると、3つの目的をお話しされました。

【アートイベントの目的】

①:現代アートなどの創造性を用いて、直江津の海や路地などの景観、港町の歴史文化、祭りなど、地域の価値を見つめなおす機会を提供し、地域に対する愛着と誇りを醸成する。

②:地域住民と来訪者、作家、大学生や児童、生徒など、世代や地域を超えた多様な交流を生み出す。

③:水族博物館やD51レールパーク(※えちごトキめき鉄道の運営施設)、集客施設(ショッピングセンター)や商店街などの回遊を促進し、まちの賑わいを創出する。

太字で強調させていただいた部分がその主たる目的で、鉄道中心として成り立ってきた町の賑わいを、駅を中心として水族館や商店街、レールパーク(直江津駅構内施設)などを回遊してもらうことで、賑わいを取り戻すきっかけにしたい。

そうすることで市民の皆様方が自分の住んでいる町に愛着と誇りを持ってもらえるのではないかという、単なる賑やかしではなく、しっかりとした目的を持っているのです。

直江津駅の通路からスタートして、町中いたるところに子供たちの作品が飾られています。

これは直江津地区にある5つの幼稚園、保育園と2つの小学校の子供たちの合計770枚の海をテーマとした作品です。

これをアートと呼ぶかどうかは別としても、地域の子供たちのこういう作品は、ご両親やおじいちゃんおばあちゃんなどが見て回りますから、イベントそのものが地域に密着しているスタイルを作ることができます。

本格的なアート作品としては、町中数か所に会場を設け30名(組)以上のアーティストたちがオリジナルの作品を展開しています。

                                    
                                    

屋外展示アートの一つ、駅から10分ほどの船見公園にある「水平線の記憶」。

ペットボトルと空き缶を使用したアート。  写真提供 実行委員会
ペットボトルと空き缶を使用したアート。  写真提供 実行委員会

このような屋外アートだけでなく、通常のアート作品は町中に数か所ある会場内に展示されていて、それを回るスタンプラリーをコンプリートすると先着順に地元で使用できる商品券がもらえるなど、商店街の活気づくりにも貢献できる仕組みが作られています。

                                       
                                       

展示会場の一つ、ライオン像のある館。

旧直江津銀行の建物を利用した上越市の観光資料館になっていますが、そもそも百年以上前にこのような建物が建てられていたことを考えると、船の文化で栄えた当時の直江津の町がどれだけ活気があったかがわかります。

予算がないけどどうする?

このイベントのもう一つの特徴が「予算がない」こと。

通常、こういう地域イベントは予算ありきで、このイベントも当初はそうでしたが、コロナのごたごたで予算がつかなくなったにもかかわらず、地域の皆様方が自分たちで継続させるという市役所頼み、行政頼みではないところで動かしています。

駅の通路や屋内会場でアート作品を展示準備する実行委員会の皆様。  写真提供:実行委員会
駅の通路や屋内会場でアート作品を展示準備する実行委員会の皆様。  写真提供:実行委員会

屋外展示アートは実行委員会メンバーの地元建設業者が重機を提供  写真提供:実行委員会
屋外展示アートは実行委員会メンバーの地元建設業者が重機を提供  写真提供:実行委員会

このような形で、町全体を会場にした手作り感満載のイベントで、そこにちびっ子たちの作品もちりばめられているというのが、「なおえつ うみまちアート 2023」です。

田舎ですから「そんなことやってどうするの?」という意見もたくさんあると聞きます。

でも、限られた予算の中で町全体を巻き込んだ手作りイベントは、結果云々以前に、停滞した地域の中でとりあえず一歩前に進むという点では大きな意義があるのではないでしょうか。

「なおえつ うみまちアート 2023」は明日から9月10日まで、土日を中心に開催しています。

町中に掲げられているフラッグもいろいろなデザインがあって楽しみの一つです。
町中に掲げられているフラッグもいろいろなデザインがあって楽しみの一つです。

この町歩きは所要約2時間ほどで回ることができます。

これから暑さも和らぐ季節となります。新潟県上越市のお近くにお越しの際は、ぜひ直江津駅で途中下車して、直江津の町のアート散策をお楽しみください。

町を歩いて、食事をして、お土産を買って、あるいは宿泊して、地域貢献ができる仕組みを、住民たちが手作りで一生懸命考えて実施しているイベント。

それは「なおえつ うみまちアート 2023」です。

直江津D51レールパークで転車台に乗る動態保存のD51     
直江津D51レールパークで転車台に乗る動態保存のD51     

D51(デゴイチ)が走る昭和の鉄道の町、直江津が今、熱く燃えています。

※本文中に使用した写真は特にお断りがあるものを除き、筆者撮影です。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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