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人が人と離れるストレス:集会中止、休校、テレワーク、社会的距離ソーシャル・ディスタンスの心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
社会的距離をとる人々:新型コロナウイルスで安倍首相が緊急事態宣言の記者会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

<コロナストレス、コロナ疲れ、コロナうつ? 人が人と離れると様々な症状が表れる。アメリカ心理学会のアドバイスに沿って、何が起こるのか、ではどうすれば良いのかを紹介する。>

■社会的距離とは、ソーシャル・ディスタンスとは

社会的距離、ソーシャル・ディスタンス(社会的距戦略、社会的距離の確保:ソーシャル・ディスタンシング)とは、公衆衛生上の用語で、感染拡大を防ぐために意図的に人と人との距離を保つこと、人が近づく場を避けることです。

(社会学では、ある人々を排除して心理的にも遠ざけることを社会的距離と言いますが、公衆衛生上は単に物理的に離れることです。)

今、日本でも新型コロナウイルス感染が拡大する中で、両手を広げても触れ合わない距離、2メートルほどの距離を取ろうと言われています。

大きな会議は中止、イベントも中止。居酒屋も、カラオケも、スポーツジムも、宗教的集会も、繁華街に行くことも控えて、人が集まってギュウギュウ・ムンムン・ガヤガヤすることを避けようとしています。

学校も休み、仕事はリモートワーク。スポーツ観戦もコンサートもなくなり、趣味の集まりもなし。隣同士ぴったり座ることも、握手さえも、控える雰囲気です。

寂しい思いをしている人も、たくさんいることでしょう。子供も大人も、みんなで集まってワイワイ、ガヤガヤすることは、楽しいことですから。

気の合う仲間と集まることは、素晴らしいストレス発散であり、スキンシップは心を癒します。

ドラマで見る大金持ちの家の食卓は、大きなテーブルのあっちとこっちに座って食事ですが、それは冷たい家族の象徴として描かれてきました。

でも今、私たちは感染症を予防するために、距離をとること、ソーシャル・ディスタンスを求められています。楽しい集まりは、全てなくなりました。

社会的距離は、感染症予防にとっては、とても大切なことです。社会的距離を取ることは、生活の新しい基準にさえなっています。

けれどもそれは、大きなストレスとなって、私たちの心と体にダメージを与えるのです。

■社会的距離を保つことのストレスと症状(アメリカ心理学会)

新型コロナウイルスの感染者が世界中で増える中、アメリカ心理学会は、社会的な距離を保つことを求められたら私たちの心に何が起きるのかを警告しています。

この文書は、日本心理学会によって翻訳されて公開されています。

もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために:日本心理学会

今私たちは、人が人と離され、切り離された状態になっています。意義深い活動も、気楽な気晴らしも、楽しい集いも、消えています。

そんなときに、私たちの心と体、私たちの社会に何が起こるのか。アメリカ心理学会は、今までの心理学の研究から、次のような問題を示しています。

○恐怖と不安

病気の恐怖、仕事の不安、品不足。心配と不安はつきません。そんなことばかり考えていると、眠れなくなったり、本来やるべきことができなくなったりしてしまいます。

○抑うつと倦怠(けんたい)感

意味のある活動が奪われ、いつもの活動が奪われます。その結果、悲しい気持ちになり、心が落ち込み、日常生活に支障が出るよう疲れ、だるさを疲れを感じることもあります。

○怒り、フラストレーションやイライラ

新型コロナウイルスと、社会的距離のおかげで、思うようにならない日々が続いています。誰だって、イライラして、フラストレーション(欲求不満)がたまります。

普段は穏やかな人さえ、怒りっぽくなることもあるでしょう。

○スティグマ化

スティグマとは烙印(らくいん)のことです。悪いことの印としつけられるのが、烙印です。感染症にかかること、家族や社内から感染症患者が出ることが、スティグマになってしまうこともあるでしょう。

○社会的弱者

様々な社会的弱者は、ますます弱者になっていきます。感染症の流行以前から心や体の問題を抱えていた人、介護が必要な人などが、今まで以上に困った状況になります。

また研究によると、医療スタッフも、仲間との社会的距離を取らざるをえないことで、心の辛さを感じやすいとされています。

■社会的距離を保つことのストレスへの対策(アメリカ心理学会)

ではどうすれば良いでしょうか。アメリカ心理学会では、次のような対策を勧めています。

○信頼できる情報を獲得しよう:情報との正しい付き合い方

正しい情報を手に入れましょう。怪しげな情報に振り回されてはいけません。

WHOや厚労省が何と言っているのか、確認しましょう。

WHOも厚労省も信用できないと言う人もいますが、では何を信じるのでしょうか。

WHOの言葉を信じないのはなぜ?:「新型コロナ感染予防にマスク着用不要」:私たちとヤフコメ民と情報>

またアメリカ心理学会は、ウイルスや感染症に関する情報に触れすぎることも、恐怖や不安を増大させると指摘しています。

コロナだけに心を奪われることなく、その他の読書や音楽などを楽しみましょう。

「共感疲労」コロナ報道を見て苦しんでいるあなたへ:テレビを消してラジオをつけよう

○日々のルーティンを作り、それを守ろう

学校にも仕事にも行かなくても、生活のリズムを守りましょう。仕事、勉強、運動、娯楽、日常的な活動を続けましょう。

○他者とのバーチャルなつながりを保とう

日本でも、もうみんな始めていますね。オンライン飲み会など、ニュースでも紹介されています。

電話でも、SNSでも、いつも会っているのに会えない人とつながりましょう。懐かしい友人と連絡を取り合うのもいいですね。祖父母と孫がネットでおしゃべきも素敵です。

手作りマスクの楽しい作り方などを、SNSで交換し合っている人もいます。

また、アメリカ心理学会は、ペットも心の支えになると勧めています(ただし、手洗い消毒に気をつけましょう)。

○健康的なライフスタイルを維持しよう

十分な睡眠とバランスの良い食事は大切です。家の中でもできる運動もしましょう。コロナによるストレス発散で、お酒の飲み過ぎなどは控えましょう。

○ストレスを管理し、前向きでいるために心理的方略を使おう

アメリカ心理学会は勧めています。

自分のストレスや不安のもとは何なのか。現実的に考え、冷静になり、過剰に騒ぎすることとは控えましょう。

自分のできる努力はする、自分ではどうしようもないことは受け入れましょう。

今、我慢して社会的距離を取っていることは、みんなのためにとても大切なことだと、思い返しましょう。

ポジティブ心理学の研究によれば、毎日感謝日記をつけること、その日にあった良い出来事を思い出すことが、心の健康につながります。

ポジティブ心理学は、人が幸せになる方法など、人のポジティブな面を研究する心理学です。

■コロナ騒動の後に起こること(アメリカ心理学会)

新型コロナウイルスの流行が落ち着き、社会的距離を取る必要も薄くなっていったとき、何が起きるでしょうか。

もちろん良いことなのですが、アメリカ心理学会は次の注意も促しています。

騒動の後には、様々な感情が湧くでしょう。ほっとした安心感、欲求不満や怒り、自分が成長した感じ。騒動はおさまったのに、その後で不安になったり、眠れなくなったり、酒の量が増えたり、日常生活に支障が出ることもあります。

自然に治れば良いのですが、症状が続くときは、医療機関に行きましょう。

■今はみんながストレスがたまっている

人と離れていなければならない。やりがいのある活動も、心休まるリラックスできる集まりも、今はお休み。みんなにストレスがたまっています。

あなたも、あなたの周りの人もストレスがたまっています。

まずは、自分のストレスを自覚しましょう。自覚すれば、コントロールもしやすくなります。

自覚のないままイライラしていると、つい言動がキツくなります。自分をイラつかせる周囲が悪いと感じたりもします。こんな人が二人いて、お互いにイライラしてぶつかれば、人間関係のトラブル発生です。それがまたストレスになります。

こんなことが、家庭でも職場でも、起きているでしょう。

自分にもストレスがたまり、相手にもストレスがたまっています。責め合うのではなく、理解し合いましょう。ほんの少し、自分に優しく自分をいたわり、相手に優しく思いやりの心を持ちましょう。

ウイルスとの戦いは、長期戦になりそうです。それでも、いつかは終わります。

コロナ騒動が終わった後で、恨みつらみが残り、人間関係が壊されてしまうのではなく、協力して乗り切ったとさわやかに思えるようになることを目指しましょう。

4/13補足<社会的距離を保つように感じよくお願いする方法(心理学会からのアドバイス)

4/14補足<新型コロナウイルスによる偏見差別いじめ防ごう:心理学会

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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