北極星「ポラリス」に予想外の現象が発生!何が起きているのか?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「北極星とその新事実」というテーマで動画をお送りします。
北極星は、後述する特性もあって非常にメジャーな星であり、過去100年以上にわたって詳細に観測され続けています。
今回、北極星の過去の観測データを分析した結果、新たな事実が判明しました。
さらにその新事実は、宇宙論を揺るがす有名な大問題とも関連があるかもしれません。
●北極星とは?
北極星とは、地球の自転軸(地軸)の北側の延長上の付近に存在する星のことです。
そのため地表から北極星を見ると、時刻によらず常に北のほとんど同じ方角にあります。
現在の北極星は、二等星の「ポラリス」という恒星です。
「現在の」というくらいなので、ポラリスが常に北極星というわけではありません。
その理由は、地軸は「歳差運動」と呼ばれる現象により、傾きを保ったまま徐々に方向が変わっているためです。
約26000年かけてぐるりと一周し、元の方向に戻ります。
その時々の地軸の北側の延長上に近い恒星が北極星となります。
具体的にはこと座α星のベガや、はくちょう座α星デネブなどが北極星となる時期もあります。
このように北極星は交代制になっています。
●ポラリス系の構造
それでは、現在の北極星であるポラリスのより詳細な構造を見ていきましょう。
諸説ありますが、地球からポラリスまでの距離は約450光年であると考えられています。
ポラリスは肉眼では1つの恒星にしか見えないですが、拡大すると明るいポラリスAのほかに、遠く離れた位置にポラリスBという恒星も存在することがわかります。
さらにポラリスAは最も明るいポラリスAaと、ポラリスAbの二連星系となっています。
つまりポラリスは3つの恒星が公転し合う三連星系なのです。
こちらがポラリス系の全貌です。
一つ一つの星について、その性質を見ていきましょう。
まずはポラリスAaについて、その質量は太陽の5.4倍、半径は37.5倍、表面温度は5750度、放出するエネルギーは太陽の1260倍と、かなりエネルギッシュな恒星です。
他の2つの恒星が太陽の3倍程度の明るさしかないため、ポラリスの明るさのほとんどがこのAaの輝きによるものです。
ポラリスAbについて、質量は太陽の1.26倍、半径は太陽の1.04倍と、かなり太陽に似たスペックを持つ恒星です。
そしてAaとはお互いを約30年周期で公転し合っています。
公転軌道は楕円形なので、お互いの距離は時間ごとに変動しますが、その距離は平均で20天文単位程度です。
これは太陽と天王星間の距離と同程度なので、恒星間の距離としてはかなり近いです。
そしてポラリスBについて、質量は太陽の1.39倍、半径は太陽の1.38倍と、Ab同様こちらも太陽に近いスペックを持つ恒星です。
Aとは2400天文単位も離れており、公転周期は数万年であるとされています。
●ポラリスAaの脈動と新事実
最も明るいポラリスAaは、約4日の周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す、変光星であることが知られています。特にその変光の特徴から、「セファイド変光星」に分類されています。
○セファイド変光星とは?
セファイド変光星は、星内部の活動により、星全体が膨張と収縮(脈動)を繰り返しています。
膨張しているときには星表面が低温になり暗く、収縮しているときには星表面が高温になり明るくなります。
またセファイド変光星は、地球から遠方の天体までの距離を理解するために重要な「標準光源」でもあります。
宇宙は余りに広すぎるため、遠方にある天体との距離を測定することは、天文学の分野で特に難しいことであると言われることも少なくありません。
そんな中、遠方の天体との距離測定において重宝されるのが、距離によらない絶対的な明るさがわかる「標準光源」と呼ばれる天体や現象です。
標準光源は絶対的な明るさがわかるため、それが地球から明るく見えれば光源との距離が近いことが、暗く見えれば光源との距離が遠いことがわかります。
このように標準光源を利用すれば、その発生源との距離が計算できます。
セファイド変光星の場合、脈動による変光の周期と絶対光度の間に比例関係(周期-光度関係)があります。
具体的には変光の周期が長いほど、距離によらない絶対的な光度が高いです。
つまりセファイド変光星のように、周期-光度関係が成り立つ恒星は、その変光の周期から絶対光度が理解できるため、その天体との距離測定に役立つ「標準光源」として用いられています。
ポラリスAaは地球から最も近くにあるセファイド変光星です。
標準光源としても活用できるセファイド変光星をよく知るために、ポラリスは100年以上前から盛んに研究されており、当時からの変光の記録も残っています。
○脈動に関する最新の研究
そんな中、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者は、過去126年分の文献からポラリスの脈動の記録を分析し、2023年9月に研究成果を発表しています。
実はポラリスAaは1年間に約4.5秒ずつというペースで脈動の周期が長くなっていることがわかっています。
また、脈動の変動幅は20世紀の大部分で減少し、特に1990年代前半にはほとんど変光しなくなりました。
1990年代後半には脈動の幅が増大し始め、その傾向は2015年頃までは続いていました。
最新の観測データによると、脈動の変動幅はもはや増大しておらず、むしろ減少傾向にある可能性があるとのことです。
ではポラリスAaの脈動の長期的な変化をもたらす原因は、一体何なのでしょうか?
その有力な説明として、ポラリスAaと約30年周期で公転し合う「ポラリスAb」からの引力が原因という説があります。
ポラリスAbとの公転軌道は楕円形であると見られており、つまりは約30年周期でAbからの引力が変動します。
この引力の変化が、ポラリスAaの外層で起こる脈動の周期や変動幅に長期的な変動を起こしている可能性が指摘されています。
ただし、まだ決定的なことはわかっていないとのことです。
セファイド変光星はその脈動の周期から天体との距離を求められるため、標準光源として活用されているのでした。
しかしこの研究により、セファイド変光星はその付近に他の恒星が存在すると、脈動の周期が変動する可能性が示されました。
このことから、セファイド変光星によって遠方の天体との距離を推定する場合、本来は変光星の近くにある恒星の存在も考慮する必要があるのかもしれません。
そして、宇宙の姿を理解する上で極めて重要な「ハッブル定数(H0)」にまつわる大問題を解決するためにも、より厳密に天体との距離測定を可能にする今回のような発見が重要なのかもしれません。