なぜ「自己肯定感」よりも「自己効力感」のほうが大事なのか?
■ 日本の若者は「自己肯定感」も低いし「意欲」も低い
日本の若者の「自己肯定感」が低い。
内閣府の調査によると、アメリカやイギリスなど欧州の若者の80%以上、韓国の若者の70%以上が自己を肯定的にとらえているのに対し、自己肯定感が高い日本の若者は、わずか40%台にとどまっている。実に、半分にも満たない結果だ。
意欲・やる気という項目が諸外国と比べて著しく低いことはわかっていた。しかし、自己肯定感がここまで低いとは驚きである。かなり残念な印象だ。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。だから、なぜそうなるのかを要因分析するつもりはない。クライアント企業に要求されるのは、そんな若者でも結果を出せるようにすることだからだ。
結果を出すことによって意欲が高まり、自己肯定感もアップすることはよくある。その手伝いができれば、我々もコンサルタント冥利に尽きるというもの。
■「自己肯定感」とは何か?
さて、今回取り上げる「自己肯定感」だが、そもそもこの言葉の意味を正しく捉えないと、高めたくても高めようがない。
「自己肯定感」とは読んで字のごとく、自分を肯定する感情だ。「自尊感情」とも呼ぶらしい。反意語は「自己否定感」で、いろいろな自分を認め、ポジティブに捉えられる人を「自己肯定感が高い」と表現する。
似た言葉で「自己効力感」というのがある。違いがわかる人はいるだろうか。実は「自己肯定感」を高めるうえで大事な概念なので、ここでしっかりと押さえておきたい。
■「自己効力感」とは何か?
「自己効力感」も読んで字のごとく、自分が行うことは効力があると信じられる感情のことだ。カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した。
ビジネスで言えば、「自分はこの仕事を正しく遂行することができる」「自分はきっとこの目標を達成させることができる」と思えること。自己効力感が低ければ、「どうせ失敗する」「他の人はともかく、自分がやっても成果は出ない」と常に受け止めているだろう。
我々コンサルタントは「自己肯定感」よりも「自己効力感」のほうに着目する。理由は、事実をもって検証できるからだ。
自己を肯定できるかどうかは、その人の気持ち次第だ。性格にもよるところが大きいだろうし、置かれた環境によっても左右される。しかし、自分の力が効き目があったかどうかは、客観的データをもって立証できる。
「もっと自信を持て」
とだけ言っても、自己効力感が低い人は「私にはムリです」と言い返すかもしれない。しかし、
「もっと自信を持て。入社1年目の実績に対し、3年目の実績をこれほど伸ばしたのは過去に君しかいない。実に180%も成績がアップしている。伸びしろが大きい証拠だ。先輩社員を抜くのも時間の問題だよ」
このように論理的に言えば反論しづらい。よほどひねくれていない限り、「たしかに失敗は相変わらず多いが、でも成功体験も増えている気がする」と思いなおすだろう。
■「自己肯定感」と「自己効力感」の組合せ4パターン
「自己肯定感」と「自己効力感」は、もともとの性格によって左右されることも多い。現場で支援をさせていただいていると、「自己肯定感」が低くても結果を出す人、ガンガン出世する人もいる。
この2つの概念は4つの組合せがあり、その4パターンを知ることで、その人の性向を知る手掛かりになる。
以下に4パターンを記し、言いがちなセリフも付記した。ぜひ確認してほしい。
1)自己肯定感【×】& 自己効力感【×】
「自分は営業のセンスがない、だから新しくお客様を任されてもどうせうまくいかない」
2)自己肯定感【×】& 自己効力感【○】
「自分は営業のセンスがないのに、いつもなぜかうまくいく。今期の目標は昨年よりさらに高くなったが、なんだかんだいって達成するだろう」
3)自己肯定感【○】& 自己効力感【×】
「自分は能力がある。営業のセンスもある。にもかかわらず、何をやってもうまくいかない。自分はいつも不運だ」
4)自己肯定感【○】& 自己効力感【○】
「自分は営業のセンスが高い。だから今期の高い目標も、達成できるに違いない」
どうだろうか。4パターンの違いを、何となく理解してもらえただろうか。
ベストはもちろん自己肯定感も自己効力感も高いことだ。自分の力を肯定しているからこそ、新しい目標も達成できるだろう、新しいことをチャレンジしても、自分ならできるに違いないと受け止める。
健全な考え方だ。しかし、こういった若者は滅多にいない。
自己肯定感が低く、自己効力感が低い若者は、ある一定数いる。こういう若者は、なかなか這い上がれないだろう。
自己肯定感が高いのに、自己効力感が低い若者は「他責」にしがちだ。こういう若者も少なくない。
見逃してはならないのが、自己肯定感が低く、自己効力感が高い若者だ。意外に多いので、上司は注意する必要がある。
■ Aさんの例
私の支援先で、Aさんという若手の営業がそうだった。Aさんは、どんなに結果を出しても、
「たまたまお客様に恵まれただけです」
と主張する。どうやら本気で思い込んでいるようだ。社長に、「3期連続目標達成しているが、その秘訣は?」と尋ねられても、
「先輩が支援してくれたおかげです。私はほとんど何もしていません」
と言ってしまう。自己肯定感が低いので、たとえ結果が出ても自分ではない、他の何かのおかげ(たとえば、商品のおかげ、上司のおかげ、環境のおかげ)などと捉える。「他勲(たくん)」のクセがあるのだ。
うまくいかないのは他の何かの責任だと「他責」にしがちな若者とは真逆な思考だ。
しかし「他責」も「他勲」も根本は一緒。このような思考のクセがある若者の言い分を、周囲は真に受けてはならない。誰のおかげでもない。3年も4年も結果が出ているなら、本人の手柄なのだ。
実際にAさんの行動履歴を追ってみたところ、いろいろなことがわかった。お客様の選定基準や、プロセスごとの行動スピード、そしてタイミングなど、見える化しづらい部分で、かなり同僚と異なるポイントを発見できた。
ちょっとした行動の「微差」だが、その「微差」の積み重ねで、お客様の信頼を勝ち取り、結果に結びつけてきた事実が垣間見えた。
■「自己効力感」の高め方
若者の自己肯定感が低いことを嘆いていても、はじまらない。
現場体験からも、「自己肯定感」よりも「自己効力感」のほうがコントロールしやすいのは明らかだ。よって、まずはこちらを高めることに力を入れることを勧める。
先述したアルバート・バンデューラは、「自己効力感」の先行要因として以下の5つを挙げている。
1)達成経験……(自分自身で目標を達成した経験)
2)代理経験……(自分以外の誰かの目標達成を観察した経験)
3)言語的説得……(自分にスキルや能力があることを言語的に説明・説得されること)
4)生理的情緒的高揚……(モチベーションがアップする生理現象)
5)想像的体験……(自分自身で目標達成することを想像すること)
これら5つをすべて意識するのは現実的ではないからポイントを絞ると、(1)「達成経験」と(3)「言語的説得」。この2つだ。現場に入っていると経営者やマネジャーが(4)生理的情緒的高揚にばかり意識を向けているのが気になる。なぜなら、そこではないからだ。
「やればできるのにモチベーションが低い社員がいる。どうすればモチベーションを高められるのか?」
と相談されることが多い。そんなことより「達成経験」を積ませることだ。そしてその達成した要因を言語的に紐解き、ロジカルに「言語的説得」をすればいい。
これらの要素がうまく関連することで(5)想像的体験も増えて、「自己効力感」は高まっていく。「自己効力感」が高まることで、自分に対する意識も変わってくるだろう。