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オスカー授賞式:クリス・ロックの発言語録。「オスカーに黒人部門を」など衝撃コメントの数々

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
クリス・ロックは、アカデミー賞らしからぬブラックなジョークを連発した(写真:ロイター/アフロ)

“白すぎるオスカー”論議に注目が集まる今年のオスカー授賞式でホストを務めたクリス・ロックが恐れを知らない発言をしたことは、すでに述べた(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160301-00054923/)。だが、彼の10分間のモノローグには、それ以外にもショッキングでブラックなユーモアがたくさんあったので、それらのいくつかを、ここで紹介したいと思う。

“白すぎるオスカー”論議が起きたことについて:

なぜ今回のオスカーだったのか?それは第88回だからだ。これと同じことは、最低でも、あと71回は起こっている。50年代、60年代。シドニー・ポワチエが映画を作らなかった年には、黒人の候補者はいなかったはずだ。じゃあ、なぜ黒人は抗議しなかったのか?当時、僕らには、本当に抗議するべきことがあったからさ。レイプされたり、リンチされたりしている時、誰が撮影監督賞を取ったのかなんて、気にしていられないんだよ。

ボイコット問題について:

ジェイダ(・ピンケット=スミス)は怒って、オスカーに来ないと言った。でも彼女はテレビに出ている人じゃないか。彼女がオスカーをボイコットするのは、僕がリアーナのパンティをボイコットするようなものだ。呼ばれていないんだよ。呼ばれていたら、僕は断らないけど。まあ、ウィル(・スミス)は「Concussion」でノミネートされなかったよね。それはわかる。フェアじゃないよね。ウィルは、すごく良かったのに、ノミネートされなかったんだ。そのとおり。でもウィルが「ワイルド・ワイルド・ウエスト」で2,000万ドルもらったのも、フェアじゃないよ。

黒人が候補入りするための対策について:

毎年黒人が候補入りするようにしたいなら、黒人部門を作るべきだ。すでに男と女を分けているじゃないか。演技で男女を分けるべき本当の理由はないよね。走る競争じゃないんだし。ロバート・デ・ニーロが、「メリル・ストリープが着いてこられるように、僕はもうちょっとゆっくりペースでやるべきか」なんて思ったことはないと思うよ。たとえば「最高の黒人友達」部門とかを作ったらどうだ?

オバマ大統領出席のイベントに参加し、写真を撮ってもらう時に、大統領にこの問題を打ち明けた時のこと:

僕は、オバマに「ミスター・プレジデント。ここに、脚本家や、プロデューサーや、俳優がいっぱいいますよね。でも、彼らは黒人を雇わないんです。彼らは、地上で一番優しい白人たちなのに。リベラルな人たちですよ」と言って、僕らは「チーズ」をやった。

まじめなメッセージ:

僕らは、チャンスが欲しいんだ。黒人俳優にも、同じチャンスを与えてほしい。レオ(・ディカプリオ)は、すばらしい役を毎年もらう。でも、黒人はどうだ?ジェイミー・フォックスは、最高の俳優のひとり。彼は「Ray/レイ」であまりにすばらしかったから、病院が本物のレイ・チャールズのチューブを抜いたくらいだ。「ふたりはいらない」ってね。

女性差別について:

人種問題だけじゃない。今は、女優に、「そのドレスはどのブランドですか?」と聞くことも(性差別と思われて)許されないんだ。「もっとほかのことを聞いてください」と言われる。男に服のことを聞かないのは、男がみんな同じ服を着ているからなんだよ。もし、ジョージ・クルーニーが緑色でお尻から白鳥が出ているタキシードを着てきたら、みんな、「ジョージ、それはどのブランドですか?」って聞くよ。

これらロックの発言は、おおむね好意的に受け止められている、L.A.タイムズ紙に対するインタビューで、今年の授賞式のプロデューサー、デビッド・ヒルとレギー・ハドリンは、ロックがやりたがったのに反対したということは、ひとつもないと語った。アカデミーは、強烈ではあってもこれくらいやって誠意を見せようと思ったということだろう。ところで、ロックは、授賞式の最中に、「ここにいるミリオネアのみなさんに、僕の娘がやっているガールスカウトのためにクッキーを買ってもらいたいと思います。ティナ・フェイ、お金用意して。シャーリーズ・セロンもね。マット・デイモンもだ。レオ、君は3,000万ドル稼いだんだろう?」と言いつつ、黒人の少女たちを会場に送り込んでいる。ガールスカウトがクッキーを売って資金集めをするのは、アメリカでは昔からのならわしだ。通常なら、そこから集まるお金は微々たるものなのだが、そこはさすがオスカー。あの限られた時間と空間で、なんと6万5,243ドル(約738万円)が集まったという。しかも、ロックの娘の所属するニューヨークのガールスカウト、というのは真実ではなく、実際には、黒人の住人が多いL.A.周辺のイングルウッドのガールスカウトの少女たちだった。この収益は、学校の備品や、図工のクラスにかかるお金、また遠足などに使われるという。辛辣な言葉の裏には、ちょっとした温かなストーリーもあるのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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