中年フリーターは「パラサイト」ではない データと事例から考える
近年、「中年フリーター」が問題となっている。
かつて、就職氷河期に就職に失敗し、非正規雇用となったフリーターが年齢を重ねていき、ついには「中年フリーター」となってしまった。彼らの将来が危ぶまれているのである。
しかし、「中年フリーター」に対しては、「バッシング」ともとれる言説も見受けられる。それは、90年代に流行した「パラサイト・シングル」と混同した見方である。
「パラサイト・シングル」とは、若者がいつまでも親元を離れず、親の援助を受けて「リッチ」な生活を送っており、それが少子化や不況の原因だとする議論だ。
あるいは、「親に依存しているために、まじめに正社員として働こうとしない若者」というニュアンスも含まれている。
この「パラサイト・シングル」の見方の延長で近年の「中年フリーター」問題をとらえると、次のようになってしまう。
'''「中年フリーター」は親に「パラサイト」しており(あるいはしてきた結果であり)、将来、親世帯もろとも「下流老人」化して生活保護予備軍となるリスクを抱えている。したがって、若者の親世代への「パラサイト」は戒めなければならない。
'''
私はこのように「パラサイト・シングル」論を出発点として、「中年フリーター」を見てしまう社会的な「フィルター」が存在することを、危惧している。
果たして「中年フリーター」は本当に「パラサイト」しているのだろうか? 今回はデータと実例から検討していきたい。
中年フリーターは「パラサイト」していない
まず、そもそもどれくらいの「中年フリーター」が親と同居しているのかを見てみよう。
総務省統計研究研修所の調査によれば、壮年未婚者(35〜44歳)のうち親と同居している世帯は、80年代から一貫して増加し、現在は高止まりしている。
ここ数年で約300万人、同年齢人口に占める割合は16〜17%を占めている。6〜7人に一人は親と同居する未婚者であるということだ。
では、彼らは本当に「パラサイト」しているのだろうか。
ベストセラー『アンダークラス』(ちくま新書)において、橋本健二氏はこの問題の解答に直結するデータを紹介している。
2015年に行われた社会調査(SSM調査)から、親と同居している59歳以下の、非正規雇用で働く独身女性の家計貢献度を測っている(管理職・専門職を除く)。
このうち、家計貢献度が4分の1以下の人は全体の21.9%に過ぎず、家計貢献度が2分の1以上は50%、4分の3以上が18.8%となっている。なお、彼女たちの平均の個人収入は157万円に過ぎない。
親と同居する「パラサイト」のイメージとはすでに状況がまったく異なっていることがご理解いただけるだろう。
確かに、中年フリーターは非正規雇用であるために完全に経済的自立することの困難や、あるいは親世代の貧困化などの事情によって、親と同居してはいる。
しかし、その多くは親に「依存」しているとは言えず(まして「パラサイト」などといえるはずもない)、むしろ低収入ながら親を経済的に支えているのが実情なのである。
「中年フリーター」が親を支える構図
それでは、POSSEに寄せられた相談から、「中年フリーター」が親を支えている構図を具体的に例示していこう。
病気の両親を支えている例
関東地方の30代後半の男性は両親と兄との4人世帯。本人は月17万の収入があるが、兄は派遣社員で月収は5万、両親の年金は父7万円、母1万7千円。父が認知症、母が去年心臓の手術を受けた後遺症による下半身まひで両親とも入院中。医療費がかさんで税金と家賃を滞納している。特に家賃を二か月分滞納していて、保証会社から2月中に支払わなければ退去するように言われている。
親の借金を返済している例
関東地方の38歳男性は、70代の両親と同居している。父親は電気工事の自営業をしているが、収入が不安定で今年の収入はゼロ。母親は脳卒中の後遺症で体に麻痺が残っており、施設に入所している。本人の収入も20万円台で、母親の施設費用は支払いきれず、消費者金融から100万円を借りている。これ以上経済的に支えきれないので、両親には生活保護を受けてほしい。
障碍者の家族を支えている例
関東地方の38歳女性は、66歳の母親と40歳の姉と同居している。母親は年金が月7万円で、リウマチのために働くことができない。加えて喘息持ちだが、お金がなく治療ができていない。姉はパーキンソン病を患っており、一般就労が困難なため、障害者向けの就労支援施設に通所している。本人も躁鬱病を患いながら派遣で働き、月10万円の収入を得て家族を支えている。自動車ローンが残っているが、返済が厳しい。
これらの事例では、共通して高齢となった親を、中年の子どもが経済的に支えている。彼らは非正規雇用などで働きながら、必死に家族を支えているのである。
それと同時に、親の医療費や介護費がかさみ、実際には借金を負ったり、家賃を滞納するなど、もはや「支えきれない」状況にも陥っている。
実際に、いずれも「生活保護を受けたい」という生活困窮の相談である。
しかし、生活保護は世帯を単位としており、子どもに一定の収入があり、保護基準を上回っている限り、保護は受けられない。
このまま親の医療費や介護費の負担が続けば、親子で共倒れになるところまでいってしまうだろう。
「パラサイト・シングル」とされている人たちの多くは、生活が破綻するまで親を支え、耐えているのが実情なのである。
(尚、「共倒れ」になる前に保護に移行するためには世帯分離などの手続きが必要になるが、不可能ではない)。
問題は非正規雇用の低すぎる賃金と脆弱な福祉にある
ここまで、「中年フリーター」が親に「パラサイト」するどころか、経済的に支えている構図を見てきた。
こうした彼らの苦境は、確かに将来的な社会保障負担を増やす「リスク」になると言えるかもしれない。
しかし、重要なのは何が「リスク」を増大させているのか、ということではないだろうか。当然、「中年フリーター」の個人的要因ではない。
第一に、中年層が経済的に自立できないほど低い非正規雇用の賃金水準である。これが「中年フリーター」が親と同居しなければならない大きな要因の一つである。
第二に、子どもの経済的な支えを必要とせざるを得ないほど脆弱な高齢者福祉である。老後の年金が低過ぎること、医療や介護にあまりにお金がかかり過ぎること、である。
しかも、近年は医療や介護の自己負担を増やすような制度改革が推進されている。ますます「パラサイト」どころではなくなっていくのが現実だ。
では、これらの問題に対してどのように対処したら良いだろうか。一つは、労働条件の改善によって生活を向上させることだ。
ユニオンを通じた団体交渉を行い、ブラック企業の未払い賃金を取り戻したり、違法行為に対する損害賠償を請求することは必須だろう。
また、低すぎる労働条件に対しては、賃上げを交渉することで生活を立て直すことができる可能性がある。
最近では、非正規雇用に対しても各種の手当てをつけるように裁判例が相次いでいる。家族手当や退職金などが確保できれば、一定の改善に結びつくだろう。
さらに、政策のレベルでは、最低賃金の引き上げや、医療費や住居費など、生活保護の「単給化」を幅広く認めることで、貧困化を食い止める政策が重要であろう。
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