3.11を迎え防災を考える 日本の食品ロスにカウントされない備蓄食品の廃棄、5年で176万食、3億円
176万食を廃棄 かかった費用は3億円 5年間で17自治体
東日本大震災から6年が経った。自然災害の多い日本において、備蓄は不可避である。毎日新聞社は、2016年、全国47都道府県と20政令都市にアンケートを行った。その結果、62自治体のうち、3割近い17自治体が、2010年から2014年までの5年間で176万食にのぼる備蓄食料を廃棄していたということがわかった。2016年3月24日付の毎日新聞で報じられている。
災害備蓄食料 176万食を廃棄…5年間・17自治体(毎日新聞 2016.3.24付
毎日新聞の記事によれば、廃棄していたのは、東京・滋賀・京都などの10都府県と、川崎・相模原・大阪などの7政令市。最も多かったのは、東京都の88万6000食、次いで神奈川県川崎市の18万5,550 食、神奈川県相模原市の14万8,000食。購入と廃棄にかかった費用は、少なくとも総額3億円にのぼるという。
日本の食品ロスの数字に備蓄食料の廃棄はカウントされていない
日本の食品ロスは年間632万トン(農林水産省による)。世界の食料援助量320万トンのおよそ2倍であり、日本の年間魚介類消費量とほぼ同じ量である。東京都民が1年間に食べる量とする説もある。だが、そもそも、この数字の中に、全国で備蓄されている防災備蓄食料が捨てられた量はカウントされていない。また、農産物などの農地での廃棄も含まれていない。「日本の食品ロスは年間632万トン」と言われているが、実際には、もっと多くのロスが発生しているのだ。
一世帯4人あたり、一年間に廃棄している食品は60,000円。これを処理するのに5,000円がかかる(出典:京都市)。これを全国にならすと、家庭からだけでも11.1兆円の食べ物を棄てている。事業者からのロスはこれ以上である。
東京都は2017年1月に備蓄クラッカーを配付
毎日新聞の調査では、全国で最多の備蓄食料廃棄を出していた東京都だが、2017年1月5日「本年2月末賞味期限の防災備蓄食品(クラッカー10万食)を配付する」と発表した。
防災と一緒に考えよう 〜備蓄食品の「もったいない」(東京都 2017.1.5 報道発表資料)
東京都が2013年(平成25年)4月1日付で施行した「帰宅困難者対策条例」は、都内の事業者に対し、従業員が3日間過ごせるだけの水と食料を備蓄するよう、努力義務が示されている。
備蓄するのはいいが、賞味期限が接近してきた際の入れ替え時に、保管していたものを活用する仕組みについて触れていないのが気になっていた。全国での講演の機会に、備蓄食品の入れ替え時の活用について提言を続けてきた。私の講演を聴いてくださった議員の方が都に呼びかけ、今回、備蓄食料の配付が実現したことは一歩前進で、評価すべきことと喜ばしく思っている。
また、東京都は、平成28年度のモデル事業として、事業所などの防災備蓄食品について、入れ替えのときに廃棄されることを防ぐため、これまで保管していたものを、販売会社を通して回収・活用する仕組みを作っている。
防災備蓄食品から食品ロス削減に寄与する事業(東京都 H28モデル事業)
愛知県や埼玉県などの行政は備蓄食品を配付
前述の毎日新聞の調査では、愛知県は、処分対象となった備蓄食料の9割以上にあたる約5万3,000食のビスケットやアルファ米をフードバンクに寄付し、粉ミルクは県の施設の給食で活用していた。また、埼玉県も同様の取り組みをおこない、廃棄処分を回避した。他の自治体でも、防災訓練時に賞味期限が近い食品を住民に配付したり、民間団体によるフードバンク活動を通して福祉施設に提供したり、といった取り組みにより、廃棄せずに活用していた。
自然災害は世界の各地で毎年のように発生し、被害を未然に最小限にする努力はできても、完璧に避けることはできない。
となれば、備蓄と同時に、それを定期的なサイクルで活用することを考えておく必要がある。
東京メトロや日本郵政などの事業者も備蓄食品を寄贈
東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、備蓄食料の入れ替え時、食品ロスを引き取り福祉団体などへ届ける活動をおこなうフードバンク団体へ寄付している。当社の公式サイトで公開している「社会環境報告書」では、「各職場で備蓄している非常用食品更新の際に、賞味期限が1年以上残っている食品を廃棄せずに、福祉施設などへの食品提供を行うフードバンクへ寄贈しています。具体的には、2015年に、アルファ米 約2,700食、クラッカー 約700缶などの非常用食品、合計 約8,000食 及び非常用飲料水(500ml)98,000本を各職場から回収し、順次セカンドハーベスト・ジャパンに寄贈しました」と報告している。(出典:社会環境報告書2016 「地域貢献活動」 p28)
東京地下鉄株式会社 社会環境報告書2016 「地域貢献活動」
また、日本郵政グループでも、2016年3月28日付のニュースリリースで、缶入りパンやビスケットなど約750缶をフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」に寄贈したことを発表している。
日本郵政グループ ニュースリリース 2016年3月28日 非常用食料をフードバンクのNPO法人へ寄贈
備蓄食品を製造する企業、パン・アキモトの、商品と寄付をセットにした仕組み
賞味期限3年間のパンの缶詰を製造している株式会社パン・アキモト(栃木県那須塩原市)は、2年間の備蓄後に義援物資として海外に寄贈する「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」を続けている。
自治体や事業者、学校、マンションなどの集合住宅や家庭などで備蓄されたパンの缶詰は、賞味期限3年間のうち、2年が経った時点で、海外支援へと寄贈することが可能となる(義務ではない)。回収された「救缶鳥」は、NGOなどの日本国際飢餓対策機構などを通してコンテナで輸送され、内戦・紛争などで治安が悪い国々へ送られる。パンを食べ終わった後の空き缶は、その国々で食器として使われるという。
パン・アキモトでは、備蓄している食品の賞味期限が、知らない間に切れてしまった、というミスを防ぐため、アキモト・リマインダーサービスを、公式サイトを通して展開している。ここに備蓄食品の賞味期限を登録しておけば、あらかじめ、賞味期限が来る前に、通知してくれる。食品ロスを防ぐためのサービスである。
アキモト・リマインダーサービス(賞味期限切れを防ぐための通知サービス)
備蓄食品の確実な消費 食べ物のいのちを全うさせるということ
防災備蓄食品を、捨てないで活用するために、われわれは何をすべきだろうか。3つの提言をまとめてみた。
提言その1
行政・事業者は、備蓄食品の購入と、入れ替え時の保管食品の活用とをセットで考えるべきである。どんな分野でも、インプットとアウトプットはセットである。
提言その2
われわれ生活者は、ローリングストック法(サイクル保存)で備蓄をおこない、少しずつ使っては買い足していく、無駄のない備蓄を。たとえば、今日が大雨で夕飯の買い物に行けない、仕事の都合で買う余裕もない。となれば、家にあるレトルトご飯とレトルトカレーでカレーライスにしよう。2つずつ使ったのであれば、次の買い物のとき、また買い足そう。そうすれば、家にどんな種類でいつ賞味期限を迎える食品がどれだけあるか、意識にのぼりやすい。私も経験があるが、非常袋に入れっぱなしにしていたレトルト粥が、気がついたときには、賞味期限が、かなり過ぎてしまっていたことがあった。
提言その3
賞味期限は、品質の切れる期限ではない。「美味しく食べるための目安」(の期限)である。国もその旨を明言している。消費者庁の公式サイトには、賞味期限の説明として「おいしく食べることができる期限。この期限を過ぎても、すぐに食べられない(食べられなくなる)というわけではない」としている。
かつて厚生労働省(医薬食品局食品安全部基準審査課)と農林水産省(消費・安全局 表示規格課)が合同で作成した「知っていますか?食品の期限表示」には次のような文言が書いてある。
「もったいない!ゴミを減らそう 食品を無駄にせず、環境に配慮した食生活が大切です」
「賞味期限が切れた食品がすぐに食べられなくなる訳ではありません。廃棄による社会的なコストも考慮しながら、買い物や保存を行っていただくことは、環境配慮の観点などからも望ましいことです」
「期限表示の意味を正しく理解して、これからも食品の無駄を減らしましょう!」
(食品表示は2015年に一元化し、現在、表示に関わる分野はすべて消費者庁が管理しているため、このパンフレットは消費者庁公式サイトに移行)
国として、国民にこのように呼びかけている。にも関わらず、賞味期限どころか、賞味期限のかなり前に廃棄するのは、矛盾してはいないだろうか。拙著『賞味期限のウソ』にも書いたが、加工食品の賞味期限の多くは、本来の日持ち期間の2割程度、短めに設定されている。ましてや、備蓄食品の多くは、賞味期限が3年から5年と長いものである。
フードバンク先進国の米国や、2016年2月3日に「食料廃棄禁止法」を成立させたフランス、同年3月に同様の法律が成立したイタリアなどでは、たとえ賞味期限が過ぎてもフードバンクなどの余剰食品の活用で使うことができるルールを定めている。
たとえば米国では、菓子・冷凍食品・缶詰・ソーダなどの食品に限定し、賞味期限が切れても使うことができるとしている(出典:三菱総合研究所 平成21年度フードバンク活動実態調査報告)。サンフランシスコのフードバンクでは、賞味期限を過ぎたシリアルはその後1年間、パスタは2年間、保存ができるとされている。
すべての食品に適用せずとも、たとえば生ものや日持ちのしないものなど留意すべき食品は除き、「味が濃ければ長期間保存できる」と食品保存の専門家が述べる缶詰や、乾麺・シリアルなどの超乾燥食品に限定すれば、再利用できる食品の幅は大きく広がると予想される。
管理する側からすれば、すべてを一律管理する方がラクである。その方が“効率的”ではある。ただ、“効率”を追い求めてきた結果、多くの“ムダ”が生まれてきているのも事実である。2015年秋の国連サミットでは、持続可能な開発目標(SDGs)として17の目標が決まり、食品ロスに関しては「2030年までに世界の食料廃棄を半減させる」という数値目標が定まった。すべての人にとって、食品を無駄に捨てることをやめることは、他人ごとではなく、自分ごととしなければならなくなった。今のままの生活を世界中で続けていこうとするならばと、地球は2個、3個、必要なのだ。それは無理な話である。どこかで何かを減らさなければならない。いまある資源を使っていかなければならない。
6年前の誕生日(3.11)の震災で外資系企業の管理職を辞め
6年前の2011年には外資系食品企業の広報室長だった私が同じ年に会社を辞めたのは、誕生日(3.11)に起きた東日本大震災がきっかけだった。それまでも、キャリアについていろいろ考え、思い悩むことはあったが、自分の誕生日に未曾有の大震災が起きたことは、運命的なものを感じさせた。
会社で一人の広報の責任者として、震災直後には自社商品のプレスリリースの発信を自粛したが、震災の翌月、社名や商品名を入れず「震災時における食品のメリット」を限られたメディアに伝えたところ、全国経済紙の記者が「これは伝えるべきだ」と大きく取りあげてくれた。記事は、結果的に社名や私の名前まで大きく取りあげられ、「自分も会社も社会も三方良し」となった。その出来事は「本当に伝えるべきことを、はたして自分は伝えているだろうか」という自問自答のきっかけになった。社の代表として、自社商品を支援物資として手配し、トラックに乗って現地へ行く中で、「避難所の人数に少し足りないから配らない(で置いておく)」「同じ食品だけどメーカーが違うと平等じゃないから配らない」など、理解し難い食品の無駄を見てきた。
4年前の2013年3月11日に書いたことを、改めてここで書きのこしておきたい。
「2年前のこの日、大勢の人が命を失った。生き残った私は、自分の使命を探しながら、命をむだにしない生き方をする。理想論を言うのではなく、具体的に行動する。権力に寄りかかるのではなく、マイノリティのために生きる。現場力と専門性を同時に持つ人材になる。生きたくても生きられずに亡くなった命に恥じない生き方をしたい」
記事中の仏英渡航の写真に関して:筆者撮影