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NTTコム、グレイグ・レイドロー獲得。大物補強は成功する?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
新たなファーストジャージィも似合う(筆者がスクリーンショット)

※一部改正があります。

 日本の記者からの質問を翻訳されるたび、必ず「質問ありがとう」と謝辞を述べてから話すのが印象的だった。

 昨秋のワールドカップ日本大会でスコットランド代表の主将として日本代表と戦ったグレイグ・レイドローが、国内トップリーグのNTTコムと2年契約を締結。秋には来日し、2021年1月開幕予定のレギュラーシーズン出場を目指すという。7月24日にはオンラインで会見し、その模様をファンにも公開した。

成功者との共通点は

「スコットランド、イングランド、フランスでプレーしてきました。大事にしてきたのは、行く先の文化、言語を熱心に勉強することです。それは、ラグビーのパフォーマンスに活かすことができる。日本に行く前にも言語、文化を学んでパフォーマンスを上げたい」

 

 通算76キャップ(テストマッチ=代表戦出場数)を誇り、母国の他にアイルランド、フランスのクラブでもプレーしてきた34歳のスクラムハーフは、異国でプレーする心得を明かす。続けて、企業としてのNTTコムについても言及した。

「日本ラグビー界のシステムは興味深い。会社がラグビーチームを保有しているユニークなスタイルです。NTTコムは世界中に100社以上の子会社を持つグローバル企業で、大規模なインフラを整えている。まずはラグビー選手として契約してもらっているので、まず選手として功績を残し、ビジネスへの理解も深めたいです」

 グラウンドでのパフォーマンスとグラウンド周辺の文化的背景への造詣を関連付ける発想は、楕円球史に名を残す多くの成功者と共通する。

 昨秋のワールドカップでスコットランド代表を倒して8強入りした日本代表では、リーチ マイケル主将が「潜在能力を高めたい」と選手へ日本史をレクチャー。この国がトンガなどの留学生選手を迎え入れるようになったラグビーに関する逸話のみならず、第二次世界大戦や東日本大震災についても話した。

 国内トップリーグでも、ディフェンディングチャンピオンの神戸製鋼が元ニュージーランドアシスタントコーチであるウェイン・スミス総監督の意図を受け会社の施設を定期的に見学。プレーオフ決勝では、出場選手が会場入りの際にジャージィと防寒着の間に作業服をつけていた。

活躍できる?

 NTTコムの内山浩文ゼネラルマネージャーは、レイドロー獲得のわけをこう明かす。

「ピッチ上でのゲームマネジメント、局面、局面で勝つためのチョイス、強力なリーダーシップやキャプテンシー、レフリーとのコミュニケーション強化などの課題を克服する必要性を感じ、適材として獲得を目指しました」

 比較的、南半球との交流が盛んだったトップリーグにあって、北半球のフランスはリヨンとの業務提携を開始。独自路線を打ち出す流れで獲得したレイドローには、様々な側面から「常にスペースを活用してアタックをし続けるラグビースタイル」の質を高めて欲しいとしている。

 トップリーグはこれまで、レイドローのような大物選手の宝庫だった。

 神戸製鋼には、ニュージーランド代表として2015年までワールドカップを2連覇(通算112キャップ)したスタンドオフのダン・カーターも在籍。サントリーはオーストラリア代表111キャップのフランカー、ジョージ・スミスや、同139キャップのスクラムハーフ、ジョージ・グレーガンら各国の名手を獲得。いずれも優勝候補の最右翼に挙げられるクラブを、期待通りの優勝に導いている。

 かたや、実績や知名度が日本での働きにリンクしづらかった選手も多い。今回のレイドローがどこまで活躍するかは未知数とも言えそうで、浮沈の鍵となる要素には本人の話す通り「言語」の習熟度、さらにはチーム文化とのマッチングが挙げられる。

 スミスらを擁して2011、12年度の国内タイトルを総なめにしたサントリーの当時のスタッフは、当時からトップリーグに複数いた大物選手がチーム内で機能する条件について興味深い見解を示している。その談話から個人名を省くと、このような形となる。

「(チームの)規律、ですね。たとえば、ニュージーランド代表経験のある選手がトップリーグのあるチームに入って、好き勝手しているという話を耳にした。彼がうちに来たら、そんなことはさせない」

 事実、サントリーでは、レジェンドとも称される実力者が同じポジションの選手の居残り練習に付き合うのが日常だった。自らが輝くと同時に、周りも輝かせられるタレントが超一流と謳われる。

そもそも「成功」の定義は?

 内山GMの言葉通り、もともと有形、無形、両方の力を期待されているレイドローは、果たして通算4か国目となる東アジアのクラブでも超一流の生き様を示せるか。

 

 目標を問われ「チーム最高の成績を。トップ4の壁をコンスタントに破れるようになり、その先に優勝を」と即答する。ただし、レイドロー獲得の成否はこのミッションの成否だけでは判定できまい。レイドローの教えを受けた選手が2023年のワールドカップフランス大会で活躍したら、それだけで獲得は成功に値する。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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