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日本舞踊の三代目藤間紫を襲名し『ボイスⅡ』に出演中の藤間爽子。女優と二足のわらじに秘めた使命感

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『ボイスⅡ』に出演している藤間爽子(日本テレビ提供)

日本舞踊家として今年2月に祖母から連なる三代目藤間紫を襲名した一方、女優としても活動する藤間爽子。現在、『ボイスⅡ 110緊急指令室』(日本テレビ系)に新人室員役で出演している。地上波の連続ドラマで初レギュラー。今夜放送の3話の終わりには、元恋人に暴力をふるわれて連れ去られ、自らが事件の当事者となった。二足のわらじを履く彼女が見据えているものは?

6歳から伸び伸びと日本舞踊の稽古をしていて

――由緒ある紫派藤間流の家元となると、お屋敷みたいな家に住んでいて、板張りの広い稽古場があったりもするんですか?

藤間 全然違います(笑)。実家は洋風の一般的な家で、和室もないんですよ。

――そうなんですか? 旅館のような広間で和食のごはんを食べているのかと思ってました(笑)。おばあさんの初代藤間紫さんに師事して日本舞踊を学んだのは、物心ついた頃からですか?

藤間 最初は流派の先生に手ほどきを受けて、ある程度踊れるようになってから、祖母に見てもらってました。習いごとの一環で、皆さんがピアノ教室や塾に通うのと同じ感覚です。先生がとびきり厳しいようなこともなく、伸び伸び楽しく稽古していました。

――自分からやりたいと?

藤間 親が自然にやらせてくれた感じですね。日本の芸ごとって6歳の6月6日から始めるといいと言うので、私も6歳でお稽古を始めて、7歳のときに初舞台を踏みました。

学芸会で誉められたのが演技を始めた原点です

――学校ではどんな生徒だったんですか?

藤間 普段は目立ちたがりではなかったんですけど、学芸会では率先して手を挙げて、主役をやるタイプでした(笑)。小学2年生のとき、『フレデリック』というねずみのお話で、クラスのオーディションに受かって、主役の1人をやったのを覚えています。

――それで演技も面白いと思うように?

藤間 みんなから「演技がうまいね」と誉められたのが、うれしかったです。中学では演劇部に入りました。日本舞踊を続けていたので、本格的に打ち込んでいたわけでなくて、女優をやってみようと思ったのは、大学生になってからです。でも、小学校の学芸会で誉められた経験が、もともとのきっかけだった気がします。

――ドラマや映画は観ていたんですか?

藤間 舞台は小さい頃から、ミュージカルの『アニー』が大好きでしたね。劇団四季を観に行ったりもしていました。あと、父がスーパー歌舞伎のプロデュースをしていたので、稽古場を見に行ったりもして、舞台は身近にありました。

計算外を楽しむことが今の課題です

――日本舞踊と演技で通じるところはありますか?

藤間 日本舞踊は身体表現、演技では台詞があって、そういうところは全然違います。でも、芯の部分は同じかなと思います。舞踊をやっているからこそ、演技の所作も板に付いて、助かったことがありました。

――では、『ひよっこ』で女優デビューしてから、スムーズに馴染めました?

藤間 いえ、日々壁にぶつかってます。個人的な感覚では、日本舞踊は個人戦、お芝居は団体戦というイメージがあって。相手の出方次第でこちらも変えるのがお芝居。舞踊では相手の出方が変わることはありません。だから、本番でも稽古通りにやることが大切ですけど、演劇だと初日から楽日にかけて、どんどん変化していく。それがやってみてわかって、今はその変化を楽しめるようになりました。

――長塚圭史さんが主宰する阿佐ヶ谷スパイダースに所属されてますが、最初の頃は、掛け合いも決め込んでやっていたり?

藤間 それは演出家さんによく指摘されました。自分で作り込みすぎて、ゴールに向かっていくのが見えてしまう。計算外のことが面白いのに、計算内で終らせてしまう。それは演劇では良くないと。私が日本舞踊をやっていたからなのか、自分の性格のせいかはわかりません。何にしても、常に新鮮で柔軟に演技をするのは、今の私の課題です。

――性格的には、きっちり決めておきたいほうなんですか?

藤間 というより、心配性なんです。昔よりはだいぶ、計算外のことに柔軟に対応できるようになってきたと思いますけどね。

自分の弱さを見せられないのが役と似てます

制限時間内に人々を救うタイムリミットサスペンス『ボイスⅡ 110緊急指令室』。2年前のヒットドラマの続編で、凄腕刑事・樋口彰吾(唐沢寿明)とボイスプロファイラー・橘ひかり(真木よう子)を中心にしたチーム「ECU」の捜査官たちが、様々な事件に立ち向かう。藤間が演じる小松千里はECU緊急指令室の新人だ。

――『ボイスⅡ』のようなサスペンスに、馴染みはありました?

藤間 実際にあった世界の未解決事件をまとめたYouTubeとかが大好きなんです。『警察24時』みたいなドキュメンタリー番組もよく観ていました。

――リアルもの派だったんですね。ドラマの撮影に入る前に、通報を受けたりする役の準備として、していたことはありますか?

藤間 毎回事件が起きる中で、私たちの緊急指令室では、現場の状況を声だけで判断しなければいけないんです。何が起きているのか、ひとつひとつ想像して対応することは準備しておきました。あとは、指令室での受け答えは普通に会話するのとは違う話し方で、言葉でしっかり伝えることを意識しています。

――演じている小松千里のキャラクターについては、どう考えました? 「立場の弱い人を助けたいという正義感から警察官を志した」という設定ですが。

藤間 緊急指令室の新人で、私もドラマの現場で新人なのは同じだし、役としても自分と共通するところが結構あります。

――どういうところが共通していると?

藤間 千里は正義感が強くて、お仕事を一生懸命頑張ってますけど、自分の弱い部分を人に見せられないんです。“警察官はどうあるべきか”という考えがあるからこそ、プライベートのことを自分で解決しようとして、事件に巻き込まれてしまって。私も自分の弱さを人に見せられなくて、大丈夫な振りをしがちなタイプで、そこは千里とリンクします。

ボコボコにされる演技が楽しかったです(笑)

――3話の終わりで恋人に暴力をふるわれて、拉致されました。

藤間 ボコボコにされましたけど、撮影はすごく楽しかったです。アクション指導の方がいて、本当に殴られているようなお芝居をして、初めての血のりをいっぱいつけて、必死に逃げる。そんな経験、普通しないじゃないですか。

――したくもないでしょうけど(笑)。そういう演技も初めてだったんですよね?

藤間 そうですね。実際に痛いわけではなくて、殴られた経験もないから、想像するしかなくて。そういう演技の映像をたくさん観て、どういう声が出るのかとか、調べたりしました。

――普段ECUにいるときも、当然ながら緊迫した場面の連続ですよね。

藤間 あのセットにいると、自然に緊迫した雰囲気になります。110番がかかってきて、「ウーン、ウーン」みたいなすごい音が鳴って、あれが怖いんです。来るとわかっていても、ドキッとしちゃって。でも、たまにホッコリする場面があって、そこも見どころかなと思います。

――オンエアで制服姿の自分はどう映りますか?

藤間 コスプレに見えないか不安でしたけど(笑)、皆さんが「似合ってる」と言ってくださるので良かったです。私は体が小さくて、衣装合わせのときはぎこちなさもありました。でも、新人なので、ちょっと着慣れてない感じもいいんじゃないかと。

――初レギュラーのこのドラマの前半では、特に難航したことはなかったわけですね?

藤間 私は事件に巻き込まれて、緊急指令室だけでなく、ロケで唐沢さんや増田(貴久)さんが犯人に立ち向かう現場にも立ち会えて、良い経験になりました。5話以降で、ちょっと成長した千里をお届けできると思います。

自分だけにできることを日々考えてます

――今後も日本舞踊に女優と活動していく中で、藤間さんにしかできないことも出てくるでしょうね。

藤間 今までは自由気ままにやりたいことに挑戦して、今ふたつのお仕事をさせていただいてますけど、藤間紫を襲名してから、「自分だけにできることは何だろう?」と日ごろから考えています。答えは出ていませんけど、自分のためだけにお仕事をするのではない責任は感じていて。舞踊、女優と別々に考えていたものを、何かしら結びつける作業は、私に託された使命だと思っています。だからこそ、ふたつやる意味があるので。

――演技をやることで、日本舞踊にフィードバックできていることもありますか?

藤間 ドラマとかメディアに出させていただいて、日本舞踊とは何ぞやと知っていただく入口になるのはうれしいですね。もちろん、そのためにお芝居をやっているわけではないですけど、結果的にそうなったら素敵です。

夏は毎日氷を噛んでいるような庶民です(笑)

――この夏は『ボイスⅡ』の撮影でお忙しいかと思いますが、日常でこの時期のお楽しみはありますか?

藤間 私、暑いのは苦手なんですよね。海やプールも行かないし、家の涼しい部屋でのんびりしてます。

――かき氷を食べて涼んだりは?

藤間 そういうのは大好きです。一度、板チョコアイスにどハマりして、冷蔵庫にストックが大量にあります。ポキッとしてチューチューするアイスとか、凍らせたあんず飴とか、シンプルでレトロなのが好きです。

――へーっ……。

藤間 あと、私、氷が大好きです! 毎日、朝起きたら冷凍庫を開けて、氷をシャリシャリ噛んでます。引いてますか(笑)?

――引きはしませんけど、名家のお育ちなのに、意外と庶民的なんだなと(笑)。

 いえもう、全然庶民です(笑)。

撮影/Kuribayashi Ryo、Kurokami Sho(レプロエンタテインメント提供)

Profile

藤間爽子(ふじま・さわこ)

1994年8月3日生まれ、東京都出身。

幼少より日本舞踊家の祖母・初世家元藤間紫に師事し、2021年2月に三代目藤間紫を襲名し家元に。一方、2017年に連続テレビ小説『ひよっこ』で女優デビューし、劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」に所属。主な出演作はドラマ『精霊の守り人Ⅲ 最終章』、『あんのリリック―桜木杏、俳句はじめました―』、舞台『桜姫』、『いとしの儚』など。阿佐ヶ谷スパイダースの新作公演『老いと建築』(11月/吉祥寺シアター、12月/まつもと市民芸術館)に出演。

『ボイスⅡ 110緊急指令室』

日本テレビ系/土曜22:00~

公式HP

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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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