『ボイスⅡ』で拉致のトラウマを抱えた少女を熱演する花岡すみれ。17歳の素顔と覚悟の演技に見えた将来性
声を手掛かりに制限時間内に人々を救い出すサスペンスドラマ『ボイスⅡ 110緊急指令室』(日本テレビ系)。昨日放送の2話で、幼い頃に拉致された過去がある女子高生が再び姿を消す事件が発生した。トラウマを持つこの少女を演じたのが花岡すみれだ。デビューから2年の17歳。その素顔を探り、3話へとまたがる難役への取り組みを聞いた。
小学校低学年から「女優は絶対楽しい!」と
現在17歳で高校3年生の花岡すみれは、長野県松本市で育った。
「お城(松本城)を横に見ながら学校に通ってました。冬は本当に寒くて、死ぬんじゃないかと思うくらいで(笑)。マフラーとかしてもスカートで脚が出ているから、友だちと『寒い寒い!』と言いながら、くっつき合って登校してました」
中学時代は演劇部に入っていた。
「お芝居よりも、みんなでおしゃべりしたり、意味のわからないゲームをするのが楽しかったです(笑)。帰り道でも通学路の途中で立ち止まって、ずーっとしゃべり続けていたので、親が心配して迎えに来たこともありました(笑)」
『ボイス2』の2話では、かつて自分を拉致した男が出所して、取り乱したり泣く場面が多かったが、彼女自身は落ち着きのあるたたずまい。高校進学を機に3年前に上京して「いまだに渋谷で人の多さにビックリします」と言い、都会に染まらない清廉さも感じさせる。
芸能界に入るきっかけは、小学5年生のときに地元でスカウトされたこと。皇女和宮の御下向行列を再現するイベントに友だちと参加し、和服を着て街を練り歩いていたところ、声を掛けられた。
「小学校の低学年くらいからずっと、将来の夢を聞かれたら女優さんと答えていたので、『チャンスだ!』と飛びつきました(笑)。最初は家でドラマを観ていて、『このおじさんはこの前は悪い人だったのに、こっちではやさしい人なんだ』みたいなところから役者さんが気になり始めて、そういう職業があると知って『絶対楽しい!』と興味を持ちました。好奇心で漠然と憧れていた感じです」
世界のどこかで起きていそうな話が好きです
中学1年生のとき、『黒髪ギター少女選手権』というオーディションがあり、ギターは小さい頃に習っていたことから応募して、現在の事務所・レプロエンタテインメントに所属。週末に東京までレッスンに通うようになった。
2019年にドラマ『カカフカカ』で森川葵が演じた主人公の中学時代の役でデビュー。以来、『俺の話は長い』、『アイカツプラネット』などに出演している。自分でもドラマはよく観るという。
「観るのはキラキラしたお話より、人間っぽい会話劇が多いです。『カルテット』とか大好きで、最近だと『大豆田とわ子と三人の元夫』や『コントが始まる』を毎週楽しみにしていました。この世界のどこかで本当に起きているような、リアルさを感じられるお話が好きなのかもしれません」
作品に対する感性は大人びているようだ。好きな女優には二階堂ふみを挙げる。
「映画の『ヒミズ』や『地獄でなぜ悪い』を観て、ずっと好きです。演技の振り幅がすごくて、どんな役もできるからカッコイイですね。ああいうパワフルさを、私も身につけていけたらと思っています」
軽々しく演じたらいけないと思いました
『ボイスⅡ』2話で演じた武田薫は、9歳のときに強制わいせつの被害に遭ってトラウマを抱えた役。出所した犯人に再び拉致されたと家族にメールを送って姿を消したが、彼を逮捕させるための狂言だったことが判明する。オーディションで選ばれた、難度の高い役どころだった。
「私はずっと平和に、好きなことをして生きてきたので、トラウマを抱えるような経験はなくて。だから、軽々しく演じたらいけない。責任感や覚悟が必要だと考えていました。想像だけでは補えないので、そういう経験をされた方がお話しされてるYouTubeを観たり、トラウマをどう克服していくのか知識として学びながら、とにかく軽くならないことを意識しました」
劇中では「苦しくて、苦しくて……。あのとき死んでいればよかった!」などと叫ぶ悲痛さに、胸が締め付けられた。
「笑顔のシーンはほぼなくて、ずっと泣いたり叫んだりしてましたけど、泣こうと思って泣いた感じではなかったです。『こういうことがあって、今はこうなって……』と自分の中に落とし込んで、出たものというか。お母さん役の長尾純子さんの姿を見て熱量に負けないようにしたり、周りの空気にも助けられましたけど、そのときの自分の気持ちはあまり覚えていません」
役に瞬時に入り込めるのは、女優としての資質の一端がうかがえる。
「撮影の前日は『台詞が飛んだらどうしよう? このままだとダメかもしれない……』とネガティブなことばかりウジウジ考えて、家族に『もう寝なさい』と言われました(笑)。現場でもずっと『大丈夫かな?』って不安でしたけど、カメラが回ったら集中します」
撮り終わってから、引きずることもないとか。
「次は事件が終わったあとのシーンだったりするので、『こういうことがあったんだ』と頭の中で整理して落ち着きます。切り替えはわりとできると思います」
恐怖心より一生できない経験をしたくて
普段は感情の起伏はあるほうなのだろうか?
「内弁慶なので、家では泣いたり怒ったり、激しいかもしれません。末っ子ということもあって、しょうもないことで何やかんや言ってます。食べようと思っていたアイスを姉に食べられてスネたり(笑)」
『ボイスⅡ』2話のラストでは、薫の幼い弟が拉致される事件が発生。3話にも引き続き出演し、ショッキングなシーンもある。
「当たり前ですけど経験なくて、スタッフさんも心配して、何回も『大丈夫?』と確認してくださいました。でも、これを逃したら、こんなことをする機会は一生ないだろうなと思って。そこまで恐怖心はなく、『ぜひやらせてください!』という感じでした。そんな経験をさせてもらえるのはうれしくて、刺激にもなりました」
主演の唐沢寿明や真木よう子と絡むシーンもあった。
「撮影の最終日にご一緒させてもらいました。前作の『ボイス』を観ていたので、『あの世界にいるんだ』とピリッとした緊張感が走って。お2人のドラマに懸ける熱さや真剣さも改めて伝わって、自分もそこに携われる喜びと共に『もっとちゃんとしなきゃ』とも感じました」
物語の世界に自分が入る想像をします
プライベートでの趣味は読書だという。
「本はずっと好きで、小・中・高とジャンルを問わず、いろいろ読んできました。『若草物語』とか定番を何回も読んだりもします。小さい頃はベスに憧れていたのが、大人になってくるにつれてジョーもいいなとか、読めば読むほど味わいが変わって。最近はファンタジーっぽい作品や海外のキラキラしたお話を読んで、出てくる世界を想像するのが楽しいです」
役と同様に、本の世界にも入り込むタイプ?
「そうですね。読んでいて、同世代の魅力的な登場人物がいると、『この人の役をやりたい!』と思ったりもします。もはや人間でなくても良くて(笑)。私はずっと『ムーミン』が好きで、小説のシリーズを全部読んでいて、『私がムーミン谷に行ったら、こんな感じかな?』とか、人間の世界でないところまで想像を働かせます」
ギターも最近でも弾いている。
「部屋で音がほしいときに、自分でジャカジャカ弾いて歌ったりします。両親の影響もあってか、スピッツや斉藤和義さんやクロマニヨンズがすごく好き。最近のアーティストの方も聴いたり歌ったりしますけど、結局原点に戻ってきます」
イマドキな役もできるように街に出てます
演技力の向上のために、日ごろからしていることもあるだろうか?
「私は人見知りで、東京の友だちが少ないんです。本を読んで想像するのもいいですけど、やっぱりリアルな世界で人に会わないと、吸収できないこともあるかなと。だから、最近はちょっとずつ東京の街へ繰り出して、散歩したり、友だちと遊んだり、人を見たり。そういう日常から、刺激をもらうようにしています」
女子高生としては、やっぱり原宿や渋谷に行ったり?
「はい。イマドキな文化を仕入れないといけないので(笑)。同じ世代の女の子を見て『楽しそうだな。羨ましいな』と思ったり、『こういう言葉を使うんだ』とか知らないこともたくさんあります(笑)」
自分はJK言葉に疎いと?
「疎いつもりはないですけど、そこまで詳しくもなくて(笑)。たとえば学園ドラマだと、いろいろなタイプの生徒が出てくるので、イマドキの子ならこうとか知らないと、オーディションでどう振る舞ったらいいか、わからなくなります。だから、勉強しておきたいんです」
そうした話からも思慮深さや聡明さを感じる花岡に、女優としての先々の展望も聞いてみた。
「演技をしているときが楽しいので、このお仕事は絶対手放したくない想いはあります。いただく役がだんだん大きくなる喜びもあって、ドラマのレギュラーから、いずれは主役もできるようになれたら。朝ドラのヒロインにはずっと憧れています。夢は大きく、どんどん叶えていけたらいいなと思っています」
撮影/Tokio Okada ヘア&メイク/Shiho Sakamoto スタイリング/Masumi Yakuzawa(レプロエンタテインメント提供)
Proflie
花岡すみれ(はなおか・すみれ)
2003年11月9日生まれ、長野県出身。
2019年にドラマ『カカフカカ-こじらせ大人のシェアハウス-』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『俺の話は長い』、『ハケンの品格』、『アイカツプラネット!』など。7月24日放送のドラマ『ボイスⅡ 110緊急指令室』(日本テレビ系)の第3話、9月23日公開の映画『マイ・ダディ』に出演。