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鎌田大地、久保建英の実力はこんなものではない。森保ジャパンの最適解

小宮良之スポーツライター・小説家
アメリカ戦の鎌田、久保(写真:REX/アフロ)

ようやく4-2-3-1で、鎌田、久保を抜擢も…

 カタールW杯に向けた欧州遠征、日本代表はアメリカ代表を2-0と下している。筆者がずっと推奨してきた4-2-3-1を用い、同じく要求してきた鎌田大地や久保建英の先発起用で、本大会へ弾みが付く勝利となった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20220914-00310719

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20220521-00296937

 勝利に結びつくプレーとして解剖した場合、アメリカ戦の出来は申し分ない。

 まず、冨安健洋を中心にソリッドなバックラインを構築。ダブルボランチの遠藤航、守田英正は高度なフィルターとなっていた(二度ほど背後を取られた時、実は最後のシュートまで持ち込まれているが)。何より、前線の前田大然を中心に献身的なプレッシングでビルドアップを許さず、何度もカウンターを発動させていた。

「いい守りがいい攻めを作る」

 森保一監督の理念を実践した格好だ。

 前半25分の先制点もプレスではめ込み、バックパスさせたところ、敵陣で伊東純也がパスカット。そのままカウンター攻撃に転じ、最後は左でフリーになった鎌田が右足で流し込んでいる。効率的なショートカウンターでのフィニッシュだった。

 後半には、途中出場した三笘薫が「個人戦術」で単独ドリブルから4人を引き連れ、ゴールをぶち抜いた。最後は5-4-1で試合をクローズ。相手に反撃の余地を与えなかった。

 監督としては会心の試合だったはずだ。

 鎌田、久保に対しても称賛の声が飛んでいる。彼らの躍動はそれに値した。しかし、欧州チャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)で堂々とプレーする二人が、これだけの仕事ができることはずっと前から分かっていたはずで、それをチームとして引き出せていなかったことの方が問題である。

 そして、鎌田、久保はアメリカ戦で真価を発揮したのか?

鎌田、久保の実力はこんなものではない

 単刀直入に言って、鎌田、久保の実力はこんなものではない。それは二人が所属するフランクフルト、レアル・ソシエダでのプレーを見たら一目瞭然だろう。二人とも、もっと楽しそうにボールを蹴っている。

 一つは距離感がある。

 所属クラブでは、味方同士がもっと近い距離、いいポジション関係を作り、しかも高い技術をお互い信頼しあえていることで、プレーが限定されない。ワンツーは戻ってくるし、もう一人はその間に絶好のポジションに入っている。たとえその攻撃がうまくいかなくとも、それだけ押し込んでいることで再攻撃が可能になり、攻撃の選択肢が増え、ゴールの確率が上がるのだ。

 コンビネーションを使うことで、敵がどれだけ人を配置しても、スペースを作り、動かし、使える。その瞬間、ボールプレーヤーは”痺れ”を感じる。相手が中を絞るなら、外を使えばいいし、知恵勝負はサッカーにおける最高のスペクタクルだ。

 その点、アメリカ戦では鎌田、久保のコンビネーションはあったが、他は散発だった。攻撃の火が広がらない。チャンスシーンはカウンターに限定され、押し込んで波状攻撃という場面はほとんどなかった。アメリカはエースや主力を数人欠き、動きも鈍かっただけに、もっと攻勢を仕掛けられたはずで…。

森保監督のプレー構造における矛盾

 結局、森保監督の意向が強いチームと言える。

「守りありきで受動型」

 それが森保ジャパンの基本条件で、そのために守備の献身性、パワー、スピードが絶対的に要求される。例えば前田、伊東のような組み合わせは必然だろう。鎌田、久保の抜擢も、あくまで「その条件を満たせる」と判断した結果だ。

「ボールありきで能動型」

 一方で、それが久保所属のレアル・ソシエダのコンセプトである。つまり、コンセプトからして正反対。そこに違和感が出るのは当然だ。

 もちろん、森保監督が掲げる戦い方が「悪」や「不正解」なわけではない。一つの「正義」で「正解」である。事実、得点シーンはカウンターで決めたし、90分間を通じ、攻守で試合を制し、アメリカを下した。

 しかし問われるべきは、目の前の試合の勝ち負けではない。W杯でドイツ、コスタリカ、スペインのグループリーグを勝ち上がり、日本サッカーに輝かしい未来を与えられるか。不調なアメリカとの結果は、3カ月後にはほとんどの人が忘れているだろう。

 では、今の陣容とコンセプトで大志を遂げられるのか?

日本サッカーに希望を

 これは日本サッカーの特徴だが、ボールプレーヤーが多く生まれる。鎌田、久保だけでなく、三笘、堂安律、あるいは旗手怜央のような選手は技術が高く、俊敏で、コンビネーションに優れ、ヨーロッパの第一線で活躍を見せている。守勢になることを前提としながら、彼らに守備をやり抜かせることで、十分に勝機は見えるはずだ。

 事実、昨シーズンのEL、鎌田はFCバルセロナ戦でスペイン代表ペドリを封じ込め、決定的な仕事もやってのけ、金星をもたらした。今シーズンのEL、久保はマンチェスター・ユナイテッド戦で攻守ともに大車輪で勝利に貢献している。また、今シーズンのCL、旗手は王者レアル・マドリードを相手にボランチで堂々とクロアチア代表ルカ・モドリッチに対抗し、敗れはしたが、称賛を浴びた。

 日本代表はいかに戦うべきか?

「今さら、そんなことを問うている時間はない」

 そんな声も聞こえるが、多くの代表選手はともにプレーした経験があるだけに、それぞれの特徴を知らないことはない。お互いがやりたいプレーは認識しているだろう。直前での戦い方の変更は不可能でも恥でもない。そもそも、代表はチーム戦術が100%反映されることはないのだ。

 実際、ベスト16に進出した過去2大会は大会直前に戦い方の根本を変えている。

 必ず最適解はある。次のエクアドル戦は、一つの試金石になるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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