新型コロナの療養にそなえて「酸素缶」を持っておく意味はあるか?
ドラッグストアで「酸素缶」が品薄
新型コロナの自宅療養者が急増しています。その多くが、酸素投与を要さない軽症ですが、中には悪化して酸素療法を余儀なくされるケースもあります。
酸素療法が必要な中等症になると、新型コロナ病床が空いておれば、入院になります。しかしそれが叶わないとき、自宅や酸素ステーションなどで酸素を吸う必要があります。ただ、報道にある通り、この酸素濃縮器が現在不足しつつあります。
そのため、街のドラッグストアから「酸素缶」が品薄になりつつあります。何かあったときのために、お守りとして自宅に酸素をストックしておきたいからでしょう。
しかし、新型コロナで酸素吸入が必要になったとき、「酸素缶」を使っても医学的にはあまり意味がありません。
新型コロナの中等症では常時酸素が必要になる
運動直後に、息がしんどくて酸素飽和度が下がってしまう場合、効率的に酸素を回復させる手法として酸素缶を吸うアスリートがいます。確かに運動後において、酸素飽和度を回復させたり乳酸を除去したりする効果があるかもしれません(1)。
しかし、新型コロナのように、肺に病気があって酸素が必要な場合、酸素缶ではまったく追いつきません。その理由は、運動後のようにすぐに酸素飽和度が改善するわけではなく、肺炎がよくなるまでは酸素飽和度は低いままだからです。
ほんの少し酸素缶を吸ったからといって、その後何時間も酸素飽和度が保てるわけではありません。酸素を吸わないと、ものの1~2分で酸素飽和度が下がってくるでしょう。そのため、酸素缶で酸素飽和度を維持するためには、ずっと酸素缶を吸い続けないといけないのです。
酸素濃縮器や病院の酸素配管からは、絶え間なく酸素が流れてきます。そのため、新型コロナの中等症で酸素療法が必要な患者さんは、回復するまで持続的に酸素を吸うことができます。
ただし、労作時だけ酸素飽和度が低下する患者さんに限って言えば、たとえばトイレや廊下を歩いたりするときに酸素缶を吸うことに全く意味がない、というわけではありません。
酸素缶の中身
1分間に必要な濃縮酸素流量は、だいたい2~3リットルとイメージしてください。
酸素療法を受けている患者さんが外に持っていく酸素ボンベは、ガス内容量500リットル程度のものが一般的です。1分間に2~3リットルの酸素流量とすると、概算で3~4時間ほどもつ計算になります。そのため、呼吸器内科などで在宅酸素療法を長らく受けている患者さんは、ボンベが枯渇する時間と相談しながら外出しています。なお、登山家などが持っている大きな酸素ボンベは、1200Lと大きなものです。
では、市販の酸素缶はいったいどのくらいの酸素が入っているかご存知でしょうか。
平均的な製品は5L程度と言われています。とても少ないですね。1回2秒程度酸素缶を使用すると、わずか4~5分でガスが枯渇してしまいます(図)。なくなった後に次の酸素缶に交換したとしても、こんな作業を一晩中徹夜でやるわけにはいきません。
そのため、新型コロナの療養中では、ほとんどの場合、酸素缶はお守りにもならなければ実用的でもないということを理解しておく必要があります。
新型コロナの自宅療養に対する不安を煽り、酸素缶をたくさん売ろうとする企業もいるため、注意してください。
(参考)
(1) 関川清一, 他. 最大運動回復時の酸素吸入が呼吸循環および運動筋酸素動態に与える影響. 保健医療学雑誌. 2020;11(1):1-8.