あのアメリカの竜巻は、結局何キロ移動したのか?
「いやはや、先日起きた竜巻は本当に観測史上最長の距離を移動したのだろうか?」と、頭を傾げている方々へ。アメリカ気象局が、ついにその答えを発表してくれました。
その答えは、「いいえ、違いました」とのことです。
一体何の話をしているのか捕足しますと、10日(金)アメリカで群発的に大発生した竜巻のうちのひとつが、もしかするとアメリカの観測史上もっとも長い400キロ(250マイル)近い距離を移動したかもしれないという疑いがかけられていたのです。
これまでの最長記録は、1925年の352キロで、3つの州を駆け抜けていったので「トライステート竜巻(3州竜巻)」などと呼ばれています。今回の竜巻は、最長距離であるとともに、記録に残る中では初めて、4州をまたがった「クワッドステート竜巻(4州竜巻)」になるかもとも騒がれてきました。
実は2本
ところが、10日間近い地道で詳細な気象局による検証の結果、1つの竜巻と思われていたものが、実は同じスーパーセルから発生した2つの竜巻であることが判明しました。
1本目は、ケンタッキー州を一直線に267キロ(165.7マイル)移動した竜巻、そしてもう1つが、アーカンソー州、ミズーリ州、そしてテネシー州にかけて129キロ(80.3マイル)動いていった竜巻だったということです。前者の竜巻は、テレビでもたびたび報道されたキャンドル工場を倒壊させた竜巻です。
実はEF4
また、竜巻の強さも、発表されました。アメリカで現在使用されている竜巻のスケールはEFスケール(改良藤田スケール)と呼ばれる、故・藤田哲也博士が考案した藤田スケールの現代版です。2つとも「EF4(上から2番目に強い)」ということです。ただ推定される最大瞬間風速は前者の方が強く、85m/s、後者は75m/sでした。
スケールに関しても、今回の竜巻は2013年以来初の「EF5」の竜巻かと囁かれてきましたが、EF5の発生は幸いにしてなかったようです。しかし被害地は、建物が粉砕された状況でがれきが散乱していましたから、EF5が発生していたら、それ以上の被害だったということですので恐ろしさを感じます。
EF5の竜巻が起きると、「あり得ないほど激甚な被害」が起きて、自動車サイズの物体がミサイルのように上空を100メートル飛んでいくと言われています。
1925年の竜巻の再検証
話を戻すと、今回の検証結果から、今月の竜巻の移動距離は観測史上最長ではなかったということになりました。ただ、今記録とされている1925年の竜巻の352キロというのは、どうも怪しいと、ある科学者が2013年に検証を試みています。
アメリカ人の気象学者である故Robert H. Johns博士らが、昔の記録や当時の目撃者にあたって調べなおしてみたところ、どうやら発生地点と消滅地点を通った竜巻は違うものである可能性があったといいます。そのうえで、1つの竜巻が移動した最長距離は、240キロ程度であったのではないかと書いています。
もしそれが本当であれば、先のケンタッキー州の竜巻は最長記録となっていたかもしれません。
いずれにせよ、1本の竜巻が東京=名古屋間の距離に相当する270キロもの距離を移動したなんて、想像を絶する話です。
(↑トライステート竜巻の経路図)