10代で殺人犯となったヒロインを演じて。求めていた「きれいごとではない負の感情を表現」すること
17歳のとき、クラスメイトを殺めてしまった女性と、彼女に大切なひとり娘の命を奪われた元夫婦が7年の時を経て、向かい合う。
殺人の加害者と被害者という相容れない立場にいる3人は、果たして冷静に現状を踏まえて分かり合うことなどできるのだろうか?
こんな永遠に答えなど出るはずのないテーマに果敢に向き合うのが、日本在住のインド人監督、アンシュル・チョウハンの映画「赦し」だ。
その中で、10代で殺人の罪を犯した福田夏奈という難役を演じることになったのが新進女優の松浦りょう。
取り返しようのない大きな罪を犯した人物を演じる中で、彼女は何を考え、何を感じ、何を思ったのか?
想像もできない状況にいる夏奈という人物を監督から託され、ひとつの覚悟をもって挑んだ松浦に訊く。全四回。
チョウハン監督の「東京不穏詩」をみたときに、大きな衝撃を受けました
今回演じた福田夏奈役の話に入る前に、少しだけ別の話から入りたい。
本作は、日本在住のインド人新鋭映画作家として注目を集めるアンシュル・チョウハンの作品。
実のところ松浦は、チョウハン監督の作品の大ファンだったという。
そして、いつか「作品に出演できたら」と願っていたとのこと。
つまり、本作への出演はひとつ夢が叶ったことになる。
「そうなんです。
監督の長編デビュー作『東京不穏詩』をみたときに、大きな衝撃を受けました。
なにより主人公のジュンに共鳴するところがありました。
ジュンは30歳で女優を目指しながら、いまは東京のクラブで働いている。
ところが一瞬にして夢もお金も信じていた愛も奪われてしまう。
なにもかもを失ったとき、彼女の中でなにかが崩壊してしまい、一気に心がネガティブな方向へと傾いて、負の感情が爆発してしまう。
ジュンほど激しく自暴自棄になったわけではないですけど、自分も思春期のころネガティブな感情をずっと心の中に抱えていたことがあって、そのときの記憶が甦ってシンパシーを覚えました。
また、ひとりの俳優として、ジュンのような役をやってみたいといいますか。
なにかキャラクターというよりも、もうそこにいそうな生身の人間と感じられるような人物を演じてみたい、彼女が抱くようなきれいごとではないリアルな感情を表現したい気持ちもありました。
それから、この作品は、ジュンの負の感情というのをグロテスクにではなく、ある意味、美しくきれいな映像で描き出している。
この映像を前にしたときに、『こんな負の感情をこれほどにも怖いくらいに美しく撮ってしまう監督ってどんな人なの?』と、ものすごく興味を持ちました。
作品をみるときに、監督の存在は気になるんですけど、パーソナルな点まで知りたくなることはあまりない。
でも、アンシュル・チョウハン監督に関しては、どのようなキャリアを積んで、どんな人生を歩んできた人なのかをとても知りたくなりました。
興味がわいたので、すぐに監督のインタビューの記事などを見あさりました」
声をかけてくださったことはすごくうれしかったです
のちに「コントラ」の舞台挨拶があったとき、劇場を訪れ、挨拶する機会を得たという。
「ふつうにお客さんとして劇場に『コントラ』を見に行っていたんですけど、そこで運よく挨拶をさせていただくことができました。
といってもわたしは英語がしゃべれなかったので、監督の作品のプロデューサーを務められている茂木美那さんに通訳していただいて、ご挨拶させて頂きました。
ただ、そのときはほんの一瞬で、ほんとうに挨拶をしただけ。
いろいろとお話したい気持ちはあったんですけど、会話をもつまではいかなかったんです」
ただ、ここでの出会いが今回の作品出演へとつながることになる。
チョウハン監督はこのときの出会いが強烈な印象として残っていたことを明言している。
そのことで、今回の夏奈役のオーディションに声がかかることになる。
「さきほど言ったように挨拶をした程度だったので、監督の中にそんな自分の印象が残っていたなんで夢にも思っていませんでした。
顔を覚えていてくれただけでもびっくりです。
ですから、オーディションの連絡をいただいたのも驚きでした。
『まさか』とはじめは信じられない感じでした。
ただ、やはり声をかけてくださったことはすごくうれしかったです。
その時点で、出演できるかはわからなかったですけど、まず出演できるかもしれないチャンスをいただくことができた。
すぐに前をみて、気持ちはオーディションに向かっていました」
(※第二回に続く)
「赦し」
監督:アンシュル・チョウハン
出演:尚玄 MEGUMI 松浦りょう 生津徹 成海花音 藤森慎吾 真矢ミキ
公式サイト:https://yurushi-movie.com/
全国順次公開中
場面写真及びポスタービジュアルは(C)2022 December Production Committee. All rights reserved