裏金問題は「1票」でケリをつけたいが野党が多弱? 逆転も可能な野党の自力を数字で具体的に測定
自民党派閥の裏金問題における東京地検特捜部の捜査が事実上終結。「大山鳴動して」の思いを抱いている国民も多いと推測されます。「この上は主権者の『1票』でケリをつける」と意気込んでも「野党が多弱でバラバラだから無理であろう」とも。
今回は主に直近の21年総選挙の結果をベースにしつつ、「劇的な野党共闘は見込めない」「ただし21年程度は見込める」とみなし、主義主張が異なる同士の協力はできないものの単純な損得勘定で取引できる範囲を推測してみました。(※注)
現状は与党が圧倒
何といっても「自公過半数割れ」に持ち込みたければ何といっても衆院議席465中289(62%)を占める小選挙区で野党がいい勝負をするのが欠かせません。
21年総選挙は自民公認187人、公明公認9人の計196人(67.8%)が当選。また無所属当選12人のうち2人が選挙後に自民の追加公認を受けています。他の無所属10人中自民系とみなされるのが5人。計203人が与党系となるのです。
非自民勢力は残りの無所属5人を含めても86人。これでは話になりません。
維新vs公明対決の6議席
ただ内訳を詳細に検討すると与野党の差は議席数ほどではないとわかるのです。
立憲の小選挙区勝者は57人。うち近畿より東が45人と比較的善戦しているのに対して西日本が弱い。維新は勝者16人のうち15人が大阪(残り1人は兵庫)と偏っています。
ここで立憲が譲る余地が生じるのです。維新は次期総選挙で大阪・兵庫の公明6議席を奪取すべく候補者を選びました。21年に4選挙区で候補を出して落選(1人だけ復活当選)した立憲が擁立をあきらめたら維新の援護射撃となるのです。
維新は大阪万博への不評から「誰に頼らなくても大阪・兵庫は行けるぜ」的自信が少々揺らいでいるはず。できれば現維新16選挙区への対抗馬擁立(前回は10人。復活当選ゼロ)も立憲が止めれば相当に恩を着られます。これで維新6増・公明6減。
「立維共倒れ」選挙区の取引
実は21年に野党統一が果たされていたら自公を敗北に追い込めた選挙区は42もあるのです。うち「立維共倒れ」パターンが29選挙区。ここも取引したい場所。
取りあえず次点が維新の場合は立憲が、立憲次点ならば維新が、それぞれ候補者を立てないとしたら維新3(愛知10区と兵庫5・10区)で立憲26。どうしても維新側が「3対26では不公平だ」と不満であれば26のうち維新が3位以下ながら復活当選を果たした6選挙区を最大として立憲が譲歩したらどうでしょうか。維新にとって悪くない話のはず。ここで維新が9増で立憲は29-9=20増。
「立共共倒れ」「維共国共倒れ」+京都5区と東京12区
残りの野党共倒れ選挙区のうち「立共共倒れ」が3選挙区。次点がすべて立憲なので共産と話をつければ最大で立憲3増。プラス「立・れいわ共倒れ」1選挙区もれいわが引いてくれれば立憲1増。
さらに「維共国共倒れ」が2選挙区。維新が共産に「引いてくれ」は通じないにせよ国民民主となら何とかなりそう。2つとも維新が復活当選しているので実現すれば維新2増が見込めます。
京都5区は立共国共倒れ。次点の立憲が共国に協力を求めれば立憲1増。
水と油で共闘が難しい維共も公明議席の東京12区だけは何とか「維共共倒れ」を避けられないでしょうか。維新が復活当選していて共産党の「公明憎し」>「維新憎し」として例外的に公維対決となれば維新1増が望めます。
一騎打ちの復活当選組の3分の1が逆転すれば
21年総選挙区で与野党一騎打ちの構図になったのが128選挙区。うち自公勝利が88です。構図を維持しつつ野党が復活当選した(つまり接戦だった)24選挙区の半数が無理でも、せめて3分の1ぐらい逆転すれば半数で野党12議席増、3分の1で8議席増が見込めます。なお復活当選の大半が立憲となっています。
「10増10減」も非自民勢力には有利
次回総選挙の「10増10減」も非自民勢力には有利に働きましょう。消える「10減」の議席は自民9・立憲1。反対に増える「10増」は東京5、神奈川2、埼玉・千葉・愛知各1。すべて都市部だから野党で半分ぐらい取れたら±で野党5増ぐらいには計算上なるはずです。
比例区の自公獲得議席範囲は「77-95」
次に比例区。自公が大敗して野に下った09年総選挙の比例獲得議席は180分の79(約44%)で21年は176分の95(約54%)。いくら与党逆風でも09年よりは下回らないだろうから77議席ぐらいは獲得します。実質的に「77-95」の範囲で与野党票が競るでしょう。野党がその中間ぐらいまで伸びたら9議席ほど増えそうです。
立国統一名簿が作れないか
では比例で野党がどう増やすか。立憲と国民は同根で最大の支持母体はともに「連合」。国民は前回小選挙区当選者から離党や首長転出で2減して今や小選挙区勝者4人と厳しい環境です。
今さら合流はできなくとも、せめて比例で立国統一名簿が作れないものでしょうか。現行法で許されている戦術なので。
国民は「連合」傘下の4つの産業別労働組合が支えています。ドント式で議席が配分される仕組みだと名簿が一緒の方が当選しやすくなるのです。小選挙区で勝てないまでも惜敗率で上位に来れば国民単独の名簿より当選しやすいし、野党の議席自体少々は増えるはず。この「少々」が国民にとっては干天の慈雨となります。
民主主義の根幹たる国政選挙で無投票を防いでくれる共産党ありがとう
野党統一の障害となるのが日本共産党。立憲やれいわとは選挙協力まで行かずとも「出さない」で応援可能としても維国とは無理っぽい。
ただ維国でさえ共産に感謝すべき点が1つだけあります。小選挙区で自民があまりにも強くて共産以外は候補者すら立てない16選挙区で唯一対抗馬を出して「自共対決」に持ち込んでいるという構図。
言い換えると政権選択という重大選挙で野党候補不在の無投票当選という失態を防いでくれているともみなせるのです。
現状で「自共対決」は名ばかりの無風区になっていますが、ここに野党党首がこぞって「民主主義の根幹たる国政選挙で無投票を防いでくれる共産党ありがとう」という応援ぐらいしてもいい。やったところで共産は勝てないから維国も「安心」なはず。
結果として少しでも投票率が上がれば、その分は野党票であろうから2票制を敷く比例での獲得票も野党に上積み。何なら維国は「共産党ありがとう。選挙区は自民に入れないで(共産に入れろとは言いにくいから)比例は我が党へ」とアピールしたらいかがかと。
野党232議席vs自公233
以上を単純に足し合わせると小選挙区は維新6増+維新9増+立憲20増+立憲3増+立憲1増+維新2増+立憲1増+維新1増+野党8増+野党5増=56議席増。前回の86を加えて142議席獲得。自公は147議席。
比例で野党が9増したら前回の81を加えて90。自公は86。合計で野党232議席vs自公233。どうでしょうか。いい勝負になりそうな気がします。
※注:与党は自民と公明。野党は衆議院で議席を持つ(復活当選を含む)立憲民主、日本維新の会、国民民主党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党とした。