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パブリック・イメージを覆す、荒々しい山の猛者役に。「本来の僕は都会派ではないんです(苦笑)」

水上賢治映画ライター
「リング・ワンダリング」に出演した長谷川初範  筆者撮影

 おそらくあまりイメージにはない役柄で観た方はびっくりするかもしれない。

 それぐらい、いわゆるパブリック・イメージと違う姿を見せてくれるのが、金子雅和監督作品「リング・ワンダリング」に出演する長谷川初範だ。

 デビューから40年を優に超える彼は、都会の洗練された男性を演じてきた俳優のひとりといっていい。

 愛称の「ショパン」を象徴するピアニストをはじめ、スマートな役柄がやはり思い浮かぶのではないだろうか?

 だが、「リング・ワンダリング」では、猛者といえる荒々しい猟師役でまったく別の顔を見せる。

 しかも、本人は「これが本来の自分かもしれない」と明かす。その真意とは?

 出演の経緯からこの役についてまでを長谷川に訊く。(全三回)

オリジナルな作家性と芸術性があってすばらしい

僕の方から金子監督に声をかけました

 本作「リング・ワンダリング」の話に入る前に、その前段として触れないといけないことがある。

 金子監督の作品に長谷川が出演するのは、2016年の「アルビノの木」に続いてのこと。

 金子監督の初長編となった同作は、海外映画祭で20以上の受賞をする快挙を達成している。

 「白鹿様」と呼ばれる、山の主ともいうべき鹿を駆除することになった男の苦悩を描いた本作で、長谷川は武骨な猟師を演じている。

 つまり、金子監督作品において続けて猟師という役を任されているのだ。

 金子監督との出会いを長谷川はこう明かす。

「2013年の<ゆうばり国際ファンタスティック映画祭>ではじめてお会いしたんですよ。

 金子監督は『水の足跡』が短編部門のコンペティションに選ばれていて、僕は出演している作品があって映画祭に参加していました。

 作品(『水の足跡』)を拝見したら、オリジナルな作家性と芸術性があってすばらしい。

 海外の作品をみているようで、『日本にこんな監督がいるのか』と驚きました。

 それで、監督が会場にいらっしゃっていたので僕の方から話しかけたんです。『とても美しい映画で感動しました』と。

 もともと、僕は今村昌平監督の映画学校の(※横浜映画放送専門学院、現在の日本映画大学)演劇科卒で。

 当時は、助監督をやったりしていたんです。その流れで、短編映画や自主映画にも出演してきました。

 僕自身もチャンスがあったらインディーズで映画を撮りたいとも思っていたときがありました。

 ということもあって、金子監督にも声をかけてしまったんです。

 とりわけ僕がすばらしいと思ったのはカメラ、つまり撮影でだったのですが、監督自身が撮影もしているときいて、驚きました。

 よく『構図を切る』というんですけど、撮影において重要で、そして難しい。

 簡単に言うと、最適なポジションから、その画を切り取るということなんですけど。

 僕は学生時代に、浦山桐郎監督(※『キューポラのある街』や『青春の門』などで知られる巨匠監督)の助監督を一度だけやったことがあるんですよ。

 そのときのカメラマンさんがこんなことをおっしゃっていました。

 『カメラマンは絵画を見に行かないとダメなんだ。

 カメラという機械を回すことは誰でもできる。

 でも、画を決めるのは、その人の感性が試される。

 だから、ふだんから絵画をはじめとした芸術作品に触れて、その感性を磨いておかないといけない』と。

 金子監督は、それができている。一枚の絵のようにその場面が収められていて美しい。

 いろいろと撮影ポイントに制約が出てきてしまう森の中や川などを、すばらしい構図で撮ってしまう。

 それに大いに驚いたんです。

 そして、『次回作がありましたら、ぜひ出演させていただけませんか』とお願いしてしまいました(笑)」

「リング・ワンダリング」より
「リング・ワンダリング」より

実際の僕は、都会派ではないんです(苦笑)

 こうして「アルビノの木」に出演。同作で罠猟師を演じることになる。

 これには「正直驚きました」と明かす。

「山で暮らすベテランの猟師役というのは、驚きましたね。

 自分で言うのはなんですけど、僕はこれまで都会的な男性を多く演じてきたことは間違いない。

 そうした役柄で多く声をかけていただいてきたことは光栄で感謝しています。

 ただ、自分自身の性格はちょっと違うといいますか。都会派ではないんですよ(苦笑)。

 自ら設計し、大工さんを集めていっしょに山の中に山荘を作って、ふだんはそこで過ごしていたりする。

 山荘では、薪ストーブで暖をとっているんですけど、そのために薪割りをしていたりする。

 なので、金子監督から猟師役のオファーをいただいたときは、ちょっと普段の自分を見透かされたのかなと思って。

 そういう意味で、驚きました」

(※第二回に続く)

「リング・ワンダリング」ポスタービジュアル
「リング・ワンダリング」ポスタービジュアル

「リング・ワンダリング」

監督・脚本:金子雅和

出演:笠松将 阿部純子

安田顕 片岡礼子 品川徹 長谷川初範 田中要次

公式サイト:https://ringwandering.com/

渋谷 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

ポスタービジュアルおよび場面写真(C)2021 リング・ワンダリング製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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