少女時代ユナ初主演でキレキレ! 異色のサバイバル映画『EXIT』監督が明かす「共感度MAXの理由」
スーパーヒーローものかと思いきや、主人公はちょっとヘタレな無職青年。スリリングで、笑って泣けて、共鳴度MAX――。
「韓国版“スパイダーマン”דミッション・インポッシブル”」(韓国・日刊スポーツ)と絶賛され、観客動員数940万人突破の大ヒット。「千の顔を持つ男」ことチョ・ジョンソクと少女時代のユナ(本作が映画初主演!)が主役を務める異色のサバイバル映画、『EXIT』が日本公開中だ。
韓国上映時にはSNSで口コミがぐんぐん広まっていった本作。確かに、観ると誰かに語りたくなる。この共感の背景にあるものは何なのか。本作で監督デビューを果たしたイ・サングン監督に、独占取材で聞いた。
舞台は韓国のある都心部。無職の青年ヨンナム(チョ・ジョンソク)は、70歳になる母親の古希のお祝いをする会場で、大学時代に想いを寄せていた山岳部の後輩ウィジュ(ユナ)との久々の再会に心躍らせていた。その時、突然原因不明の有毒ガスが蔓延し始め、街はパニック状態になる。
――韓国映画では有毒ガスが蔓延するというのは新しい題材です。監督は、本作の脚本も手がけていらっしゃいますが、最初に構想を思いついた瞬間について教えてください。
アイデアはどこからともなく出てくる傾向があり、『EXIT』の始まりも同じでした。2012年にタクシーに乗っていた時に有毒ガスの話を無線で聞き、有毒ガスによって高い場所に閉じ込められた人々についての物語が浮かんだだのがきっかけです。元々の脚本は低予算映画向けでしたが、製作会社から、もっとメジャー路線に修正するよう提案されて脚本に修正をいくつか加え、最終版を仕上げました。
有毒ガスが古希のお祝い会場にも迫る中、ヨンナムの家族や親せきは救助のヘリコプターで運ばれるが、ヨンナムとウィジュは取り残されてしまう。2人の手もとにあるのは、ロープとチョークと山岳部で鍛えた知恵と体力。身近なものを駆使して、彼らは地上数百メートルの高層ビル群を命綱なしで登り、跳び、走る。
――本作では、ゴミ袋、ゴム手袋、チョークといった日用品がサバイバルの道具として使われていますが、これらはどこからひらめいたアイデアですか?
ヨンナムとウィジュのサバイバル技術については、脚本を書きながら何年もアイデアを練りました。YouTubeの動画などの情報をインターネットで見たり、本格的に登山をして詳しく調べたりしました。
主人公たちがひとつ困難を乗り越えると、また次に新しい困難が待ち受けています。彼らが“マクガイバー”(米国CBS放映のテレビドラマ「冒険野郎マクガイバー」、主人公は極秘任務の諜報員)のように、日用品を使ってピンチをしのぐ姿を見るのは、間違いなく楽しいのではと思います。私は、こうした日用品を想定外の方法で使う方がおもしろさが増すと感じました。
例えばゴミ袋の場合、登場人物たちはまるでスーパーヒーローのコスチュームを着ているように見えるように工夫しました。ゴミ袋に身を包んでいても、彼らはゴミとは程遠いですし、ちょっとした皮肉を表現しながら、わざとこのような場面を作りました。チョークは、登山用の滑り止め粉と近い原料でできているので、多くの曲芸師も実際に使っています。だから、主人公たちが手の滑り止めに使うのは自然の流れではないかと思い起用しました。
――チョ・ジョンソクとユナのキャスティングはどのように決められたのでしょうか?
幅広い演技ができる俳優を選びたいと思っていて、チョ・ジョンソクは一番の候補でした。コメディからシリアスなドラマまで、彼の演技の幅は広くて一流です。それに彼はアクションもできるのですから、チョ・ジョンソク以外は考えられませんでした。彼が脚本を受け取って数日後に、本作への参加を決めたと聞いて、心臓が高鳴ったことを今でも鮮明に覚えています。
また、ウィジュの役のキャスティングは、ユナはおおらかな性格だからぴったりだ、とある人に勧められました。私も、それはおもしろい挑戦になるなと思いました。彼女は『コンフィデンシャル/共助』(17)に出演してから、主役にも劣らない演技をする女優として知られるようになりました。そして、ユナはアイドルとして音楽シーンで長い経験があるから、この役にぴったりだと思いました。
――失業中で普段は自信がないヨンナムが活躍する姿がとても痛快でした。
多くのクリエイターはキャラクターに自分を投影していると思います。私もそうです。完璧な人が何かを達成するケースと、いわゆる敗者が同じことを達成するケースがありますが、私は後者の方がより劇的であると信じています。
実は、ヨンナムは私の性格と境遇を反映したキャラクターなんです。ヨンナムは職を得ることができず、口やかましくなり、周りを心配させますが、私も何年も映画監督になると言ってきたけれど何の成果も上げられなかった。家族は心配し、実際に成功すると期待する人はいなかったけれど、私はいつか自分の能力を発揮できるようになると信じて耐えてきました。
そんな中、私の家族や知人たちの関心や行動は映画を作るのに非常に役立ちました。母親がヨンナムの髪をいじってヘアスタイルを台無しにしたり、ヨンナムが姉にお小遣いをもらったりするシーンは、すべて私の実体験から生まれたものです。
――韓国では大卒の就職率が70%以下と厳しい状況だと聞いています。失業中のヨンナムが、ガスで視界が見えない中でサバイバルする姿は、不明瞭な韓国の経済・政治状況を生き延びる若者の姿にも重なり、共感を呼ぶように感じました。
予期せぬ危機に出くわし、出口のない真っ暗な状況に直面しているような状況に直面すると、韓国では「一歩先が見えない」といいます。『EXIT』はこのようなシチュエーションを描いた映画です。
白い霧に覆われてどこにも行けない、プラスチックのゴミ袋を体に被せて走っている若者、必死になって生き延びようとしている若者、息が切れるほど一生懸命走らなければならない状況。これらはすべて有毒ガスから逃れるためのものであるだけでなく、私たちの生活に見られる生存への苦闘を反映しているのです。
でも、このように見なくてももちろん間違っているわけではないですし、映画を理解するのに重要ではないので、この特定の解釈に固執する必要もありません。
――ホームドラマのような古希のお祝いの会場を舞台にしているのも、サバイバル作品としては珍しいのでは。
私は親戚が多い大家族なので、子供の頃はとても賑やかでした。家族の行事が多く、親戚に会う機会も多かったので、親戚の集いを映画の舞台にしたのは自然な流れでした。
結婚や葬式、誕生日パーティーなどのイベントは、韓国人だけでなく、誰もが一度は経験すると思います。出席者も多く、楽しいパーティーであると同時に、親戚の間での複雑で微妙な嫉妬の感情を経験することもあります。ヨンナムは、複雑な気持ちだったのではないかと。実際、多くの人がお祝いの場面をみて、自分の家族を思い出したと言っていました。
――『EXIT』は韓国で940万人突破の大ヒットとなり、韓国で権威ある映画賞のひとつ青龍賞で新人監督賞に輝きました。観た人の感想で、うれしかった言葉、意外だった言葉を教えてください。
姉が言ったことが一番記憶に残っています。「ついこの間までただのフリーターだったのに、どうしてチョ・ジョンソクとユナの隣で写真を撮っているの?信じられない!」と。私自身も面白い状況だと思ったので、「そのとおりだよ」と答えました(笑)。
本作で伝えたかったのは、「役に立たないように見える技術でも、十分に訓練されたものであれば、いつか役に立つことがありえる」ということ。誰も何かを期待していなかったヨンナムが家族を助けて生き延びたように、私も映画を作ることに成功して、本当にうれしいです。
『EXIT』新宿武蔵野館ほか公開中
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