阿佐ヶ谷の「街の書店」をめぐる劇的な展開!閉店する「書楽」を引き継いで新たな開店
当初の閉店日だった1月8日、書楽の店頭には
2024年1月8日、東京・阿佐ヶ谷の駅前にある書店「書楽」を訪れた。同店は店の前に大きく閉店のお知らせを掲げていたのだが、そこには「1月8日をもって閉店します」と書かれていた。その1月8日がこの日だった。
ただ、実は暮れの12月27日、突如「書楽閉店日『延長』のお知らせ」が掲げられた。閉店を1月31日まで延期するとの告知だった。そしてそこには、2月1日から「新しい書店様が書楽の場所で営業をなされます事が正式に決まりました」とも書かれていた。
今回訪れてみると、その告知の下に「八重洲ブックセンター開店のお知らせ」が掲げられていた。八重洲ブックセンターがその場所で2月中旬から営業を始めるという告知だった。
つまり書楽は閉店するが、経営譲渡によって、別の書店になる、引き続き同じ場所に書店が存続するというわけだ。その告知を見たお客は口々に「良かったねー」と語っていた。
「書楽」閉店の告知に波紋が広がったのは、これで阿佐ヶ谷には書店がなくなってしまう、本や雑誌をこれからどこで買えばよいの?という困惑の声だった。もちろんネットショップで本を買うことはできるわけだが、書店で雑誌のコーナーを眺めながら好きな雑誌を選ぶといったリアル書店ならではの楽しみは失われてしまう。近くに書店がなくなってしまうと知った時の多くの人の失望感は容易に想像がつく。
全国で街の書店が消えてゆく
12月26日まで掲示されていた閉店のお知らせにはこんな一節もあった。
「阿佐ヶ谷の地で40年以上、書店として存在できた事は大変な喜びです。阿佐ヶ谷から退く事は大変な悲しみですが、時代の趨勢として受け入れざるを得ません。長い間、本当にありがとうございました」
この何年か、全国各地で「街の書店」が次々と姿を消している。近くに書店のない街が全国に拡大しているのだ。書店界としてもそのことには危機感を持ち、秋には「BOOK MEETS NEXT」という大きなキャンペーンも東京と京都・大阪で展開した。しかし、街の書店が消えてゆく動きを止めることはできないでいる。
ここに掲げたのは2022年秋に出版文化産業振興財団が発表した「全国の無書店市町村」のデータだ。これがその後どうなっているかも遠くない時期に発表されると思うが、いずれにせよ深刻な事態だ。
そんな状況が続いていることは多くの人に知られており、だからこそ今回の阿佐ヶ谷の事態は、地元の人たちに安堵感をもたらしたことだろう。書楽の経営者も、自身は撤退するが書店の灯は絶やしたくないという思いがあったのだろう。
八重洲ブックセンターは荻窪や武蔵境にも店舗を持っており、阿佐ヶ谷に出店することで中央線沿線への新たな展開を考えたのだろう。八重洲ブックセンターの本店は、2023年3月まで東京駅八重洲口に大きな店舗を構えてきたが、東京駅再開発の影響で現在は一時営業を休止している。
実は月刊『創』(つくる)2月号(出版社特集)の巻頭カラーページで「街の書店が消えてゆく 阿佐ヶ谷『書楽』閉店」と写真入りで「書楽」閉店を伝えたのだが、そこで一緒に3月の八重洲ブックセンター一時休業の時の写真も並べておいた。そしたらその号の校了間もなく、その「書楽」に代わって八重洲ブックセンターの出店が発表されることになったというわけだ。
そこに掲げた八重洲ブックセンター本店の3月末の写真がこれだ。再開発に伴う一時休業で2028年には再開すると同店側は公表しているのだが、利用客が書いた店内のボードのメッセージや、1階中央の柱に作家たちが書いた寄せ書きにも「早く帰ってきて!」といったものが多かった。写真には作家の川上未映子さんが書いた「すぐ帰ってきてね!!」の寄せ書きの文字が見える。
街の書店が次々となくなっていく現実に、多くの人が不安を抱えているのだ。
そうした意味でも、今回の阿佐ヶ谷の書楽閉店と八重洲ブックセンター開店の話題は、久々の明るいニュースと言えよう。検索エンジンで書楽阿佐ヶ谷店を検索すると、いまだに閉店のニュースばかりが出てくるのだが、ぜひこのニュース、新聞などでも大きく報じてほしいと思う。