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やっぱり“子育て”は、女の仕事? 育児ストレスに悩むパパ増加中!

河合薫健康社会学者(Ph.D)
by:Delgoff [still alive]

「子育て世代 働く女性最多」――。

日経新聞の一面をこんな文言が飾った(1月20日付朝刊)。

35~44歳の女性労働力率が、一年で1.6ポイント上昇し、子育て世代のため離職する女性が多いこの年齢層で初めて、70%を超えたそうだ。

喜ばしいことだ。素直にそう思う。だが、その一方で、イクメンを取り囲む環境や理解は、ちっとも進んでいない。

「育児と仕事の両立が、上手くできなくて……。自信喪失です」

こう涙目で話してくれたのは、38歳の女性、いやいや、男性である。

彼は、半年ほど前に、仕事中に倒れ、一週間ほど休暇を取ったのち復職。倒れた当時、彼は昇進したばかりで、どんなに早くても家には22時過ぎにしか帰れず、時計の針が翌日になっていることもあった。だが、彼によると彼を苦しめたのは、仕事だけではなかったそうだ。

「ウチの奥さんの会社では積極的に女性活用を進めているので、彼女は若い社員のロールモデルを期待されている。ホント、よくやってるなぁって感心します。なので、私も帰宅後は風呂掃除をし、朝は6時に起床。子どもを保育園に届け、猛ダッシュで出社するというハードな日々をこなしていた。彼女は保育園のお迎えと、買い物、食事の準備。あとは気がついたほうがやろうっていたんです」

「ところがある日、奥さんが切れた。突然、奥さんがきれちゃったんです。『あなたは私が、どれだけ大変なのかわかってない。もっとちゃんとやってよ!』って。なんかその一言で、育児と仕事を両立する自信がもてなくなってしまったんです」

「 育児休暇も時短勤務も、制度的には男性でも取れるようになっていますが、『育児があるので帰ります!』なんて、上司もも部下にも言えませんよ。奥さんはホントにがんばっているので自分もできる限り育児参加したい。でも、上手く両立できる自信がない。育児は大切です。でも、仕事も大切。奥さんにやりたい仕事があるように、私にもある。だから、何をどうしたらいいのかわからない。情けないですよね(苦笑)」

彼は苦笑いをしながらも涙目で、こう話した。泣きたいほど、不安なのだろう。

以前、ある企業のトップの方から、「ホント最近のヤツラは情けない。40の働き盛りの男が、『育児があるので』とかなんだとかと、会議にも出ないで早退する。訳が分からないね」と言われ、クサクサした気分になったことがあった。

世のイクメンたちは、こんなことを平気で口にするトップたちと、日々戦っているのだろうか。想像しただけで、滅入る。

おまけに、言い方がとても難しいのだけれども、誤解を恐れずにいうと、“ママ”の場合には、仕事をいったん中断して、子育てが落ち着いてから復職するという選択肢がある。

だが、“パパ”には、それがない。

いや、本当はそういう選択肢があっても、ちっとも構わないのだと思うのだが、現実的には難しい。なんせ、これだけ共働き夫婦が増えても、一家の大黒柱として家計を支えるのは“夫”という役割意識は、かなり深く刷り込まれている。

ちょっとばかり意地悪な見方かもしれないけれども、議論が巻き起こった、「三年間抱っこし放題」政策は、

「男性が “育児ごとき”で仕事が疎かにならないように、三歳になるまでは女性にしっかり育児をやってもらいましょ」

なんて意味なのか? などと疑いたくもなる。

だって、男性の育児休業取得率が低下しているにもかかわらず、政府は、

「男性も育児参加すべき!」

「女性が社会で活躍するには、男性の理解と最大限の協力が必要不可欠!」

などと“理想論”を掲げるばかりで、具体的な方法論に言及していないのだ。

2012年度の男性の育児休業取得率はわずか1.89%で、前年度の2.63%から0.74ポイントと、大幅に減少している(厚生労働省「雇用均等基本調査」より)。

おまけに、育休の取得日数も、極めて少ない。

最も多いのが、「1~5日」で4割。次いで、「5日~2週間」が2割。両者を合わせると、2週間未満が6割ということになる。

日経新聞の報道によれば、月に20日以上、育休を取得した人に支払われる「育児休業給付金」を受けた男性の実数は4067人(2011年)。この年の出生児数は107万人なので、男性で20日以上の育休を取得した人は、1000人に4人もいない計算となる(2013年8月5日付)。

これってどういうことなのだろう? 働く女性が増えたことのしわ寄せが、“パパ”にいっている。そう考えることはできないだろうか。

それに取得率の低下もさることながら、わずか2週間くらい育休をとったところで、子育て参加も何もあったもんじゃない。

安倍晋三首相は、成長戦略で「『女性が働き続けられる社会』を目指す」と打ち出し、女性の働き方、働きやすい職場、能力を発揮できる組織づくり、子どもを産んでも辞めなくていい社会制度などなど、“ママ”たちの支援には、一見積極的だ。そう。一見、積極的なのだ。

もし、ホントに女性たちを支援するのであれば、男性の育児取得率が低下したことや、期間が少なすぎることにもっと言及すべきではないか。

「社会のあらゆる分野で2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を30%以上にする目標を確実に達成する」というのであれば、「社会のあらゆる分野で2020年までに、育児休暇を最低でも半年取得する男性の割合を、30%以上にする目標を確実に達成する」とすべきだ。

実際、女性が活躍している国として上げられるノルウェーは1993年に世界に先駆けてパパ・クオータ制を導入した。所得補償率100%で42週間の育児休暇を保障し、その間、男性に最低4週間の休暇を義務付け、休暇を取らない場合にはその分の休暇は差し引かれる。その結果、取得率は5%から80%以上まで上昇したと報告されているのだ。

誰にとっても、どんな人生を送っている人であっても、仕事も、家庭も、どちらも大事。

もっと家族の価値を見いだし、育児にかかる労力を重視し、何が人生で大切なのかを問うた働き方を模索すべきなんじゃないだろうか。

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http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20140117/258410/

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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