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日本代表にはもっと「パッション」必要。姫野和樹の実感【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
身長187センチ、体重112キロの突破役(スクリーンショットは筆者制作)

 2019年のラグビーワールドカップで初の8強入りした日本代表は、パンデミックの影響で2020年の代表活動をしていない。他の強豪国と比べテストマッチ(代表戦)の経験は少ないが、当事者はそれをエクスキューズにしたがらない。

「僕自身、ニュージーランド(スーパーラグビー)で10数試合に出て成長を感じ取れて、確固たる自信をつけられた。それはチームも同じ。試合のなかでできた、できなかったということを実感しながら成長していくものだと思っています。試合のなかで成長していくという意味では、試合数は必要かなと考えています。

ただ、それができなかったからと(勝てない)…という言い訳にはしたくない。自分たちができること、最大限できることにまずフォーカスしなくてはいけない。そのなかでもできること、できなかったこと(収穫と課題)が出てくる。いまはそこを言い訳にせずにやりたいと、個人的には思っています」

 こう語るのは姫野和樹。日本大会で好ジャッカルと突進で時の人となり、2020年にはニュージーランドのハイランダーズに入ってスーパーラグビーに挑戦した。今秋の代表ツアーでも、3戦連続で先発出場中だ。

自身がプレーするフォワード第3列でのチーム内競争については、こう述べている。

「若い選手もたくさんいて、試合に出られない分、僕たちに食ってかかるんだと背中を追われている感覚が日々あります。その感覚にさせてもらえているのは、エナジーを持って練習してくれている。その分、『ONE TEAM』として準備ができている。若い選手に負けずにパフォーマンスを出したいですし、そこに覚悟を持ってやっていきたいと思っています」

 現地時間11月20日、エディンバラのマレーフィールドでスコットランド代表とツアー最終戦をおこなう。

 日本代表はここまで、苦戦を強いられている。10月23日のオーストラリア代表戦こそ23―32と応戦も(昭和電工ドーム大分)、続く11月6日のアイルランド代表線は5―60で大敗(ダブリン・アビバスタジアム)。14日には世界ランクで下回るポルトガル代表に若手を交えて臨み、38―25と打ち合いを演じている。

 今度の一戦は「真価が問われる試合」だと、姫野は言う。

 現地時間18日にオンライン会見に応じ、思いを語る。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「マレーフィールド。歴史のあるスタジアムです。夏にやってみて(6月26日のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦でプレー)、凄く大きくて、緊張したイメージがあります。ただ、今回、自分たちが置かれている状況としては、アイルランド代表戦の大敗を意味あるものにするために真価が問われる試合だと感じています。しっかり(アイルランド代表戦を)意味のある負けになるように、必ずいい状態で勝って日本に帰れるようにしたいです」

——スコットランド代表はボールを回してきそうだが。

「アイルランド代表の試合では自分たちが準備してきたことと相手がしてきたことが違った(アイルランド代表が予想に反した動きをしていた)。そこでの対応力が大事だと思います。(今回は)色んなことを想定して準備してきた。スコットランドが回してきても、FWでプレッシャーをかけてきても、色んなことに対応できるよう準備してきた。そこはグラウンド上で柔軟に、リーダーたちとコミュニケーションを取って、対応できればと思います」

——相手のフランカーは強力です。

「ハミッシュ(・ワトソン)はシックスネーションズ(欧州6か国対抗)でいいプレーをしていましたし、ジェイミー(・リッチー)もワールドカップから一貫していいパフォーマンスをしている。ただ、そうした選手たちより、自分が上に行かなきゃいけないと思っている。ハミッシュとは初めての対戦ですが、凄く楽しみ。そのフランカーたちと試合のなかでやり合えるというのは凄くいい経験だし、その中でどんどんバトルに勝っていくのが、明日の僕の仕事だとも思っています」

——姫野選手自身は好調に映るが。

「ニュージーランドでの経験が自分のなかで活きている。試合に出ずっぱりだったので身体的にも精神的にもきつい部分はありましたけど、いまは、逆に充実している感じはあります。いままでできなかったプレーができているなど、自分の成長をさらに実感している最中だと思っています。チームとしてよくないゲームが続いているので、そこはすごく残念ですが…。

いままでブレイクダウンではいい仕事ができていると思いますし、そこは引き続き自分の強みを出したい。ただ明日は、よりボールを持って前に出る。推進力を作る。自分が前に出なきゃチームでいいアタックができないと感じているので、(スコットランド代表戦では)そこの部分にフォーカスを置いてやりたい」

 2016年秋から続くジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制の日本代表はいま、2023年のワールドカップフランス大会へ再構築を図っている。今秋のツアーでは試合内容に課題を抱え、松島幸太朗は「いまは経験している途中という風に捉えて、ピークはワールドカップに持って行く」としながら「最低限、自分たちのベストを尽くす。自分たちのいまあるレベルを試合で出したい」と決意している。

 松島と並んで中軸と見られる27歳の姫野は、この季節に何を感じているのだろうか。強調したのは、「パッション」の重要性だった。

——苦しいゲームが続いているツアー。あなたにとってどんなことを学ぶ時間になべていますか。

「そうですね…。まぁ、やっぱり自分自身のパフォーマンスがよかったとしてもチームとしてできないことの方が多いと、すごく、ショックというか、残念な気持ちになると感じています。自分のプレーがチームのプレーに繋がらないと意味ないと思うし、自分自身、そこまで大きなインパクトを与えられていないので、そこは反省点だと思います。

あとは、グラウンドのなかでパッション、エナジーが足りないなと感じる。それは新しい選手が入ってきて、自分に余裕がない選手もたくさんいるし、そこでは自分がいいプレーをしてチームを鼓舞するのは得意な部分なので、そこはまだまだ見せられていないと感じる。もっともっとグラウンドのなかでパッションを出して、チームを盛り上げて、いい雰囲気でやれるようにできるんじゃないかと思っています」

——「グラウンドのなかでパッション、エナジーが足りないなと感じる」のはどんな時か。

「自分がジャッカルをした時も、皆で褒めたりというのがなかったですし。それは、自分に精いっぱいで自分のプレーに集中している選手が多いのかもしれません。ただ、いいチームの時はいいプレーがあれば皆のエネルギーがあって、『じゃあ、次にどうするか』というエネルギーを感じられるのですが、いまはなかなか感じられないのが現状で。そこは、もっと出せるところかなと感じます」

 好調時は、いいプレーが生まれた時の盛り上がりがあった。当事者のみが語れる皮膚感覚だろう。

 日本大会のアイルランド代表戦では、姫野が自陣ゴール前でジャッカルを決めるやフィフティーンが、スタンドが興奮した。

 ちなみに、当時アウトサイドセンターで先発したラファエレ ティモシーは、大会最大のハイライトにアイルランド代表戦の前半35分頃の相手ボールスクラムを挙げている。フォワードが一枚岩となって相手を押し返し、右プロップで出ていた具智元が叫んだ。スクラムを組んでいない選手も、歓喜の輪に入った。

 今度のマレーフィールドでは、当時さながらのグルーブが生まれるだろうか。日本代表の今季最終戦は日本時間で20日22時、キックオフ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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