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今夜、最終回! 石原さとみ主演「アンナチュラル」は今期最大の収穫か!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

今期のドラマも、それぞれゴールが迫ってきました。途中で息切れした作品も少なくないのですが、今夜、最終回を迎える石原さとみ主演「アンナチュラル」(TBS系)は、その逆と言えるでしょう。ここまで、終わってしまうのが惜しいくらい、充実度が高まってきています。開始後に一度取り上げましたが、あらためて総括しておきたいと思います。

物語の舞台は「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。警察や自治体が持ち込む、死因のわからない遺体を解剖し、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」の正体を探ることを目的とした研究所で、メスを握るのは三澄ミコト(石原)や中堂系(井浦新)たち法医解剖医です。

このドラマ、まず「不自然な死」というテーマと「UDIラボ」という設定自体が新機軸でした。架空の組織ですが、見ていると妙なリアリティがあります。また沢口靖子さんが活躍する科捜研は警察組織の一部ですが、こちらはあくまでも民間の組織。ミコトたちに捜査権はありません。その代わり、検査や調査を徹底的に行っていくのです。

これまでに、集団自殺に見せかけた事件の真相や、雑居ビルの火災で亡くなった人物の本当の死因などを究明してきましたが、物語展開はいつも重層的で、簡単には先が読めません。

中でも出色だったのが、2月23日に放送された第7話です。顔を隠した高校生Sがネットで「殺人実況生中継」と称するライブ配信を行います。そこには彼が殺したという同級生Yの遺体も映っていて、ミコトに「死因はなんだ?」と問いかけるのです。

しかもミコトが間違えた場合は、人質Xの命も奪うと迫ります。背後にあったのは学校でのいじめ問題ですが、当事者たちの切実な心情を、トリックを含む巧緻なストーリーで描いており、見事でした。

「不自然な死」は当初、非日常的、非現実的なものに見えます。しかしミコトたちの取り組みによって、それが日常や現実と密接な関係にあることが徐々に分かってくるのです。物語には高度な医学的専門性が織り込まれているのですが、説明不足で理解できなかったり、逆に説明過多で鬱陶しくなったりもしません。

この<新感覚サスペンス>ともいうべきドラマを支えているのが、野木亜紀子さんの脚本です。一昨年の「重版出来!」(TBS系)や「逃げるは恥だが役に立つ」(同)とは全く異なる世界を対象としながら、綿密なリサーチと取材をベースに「科捜研の女」ならぬ「UDIラボの女」をしっかりと造形しています。

特にミステリー性(謎解き)とヒューマン(人間ドラマ)のバランスが絶妙で、快調なテンポなのに急ぎ過ぎない語り口にも好感がもてました。

ミコトたちが仕事の合間に、おやつなどを食べながら雑談するシーンがよく出てきます。まるで女子カーリングの“もぐもぐタイム”ですが、こうした話の筋を一瞬忘れる時間が、実はドラマをよりドラマチックなものにしているのです。

というわけで「アンナチュラル」は、できればシリーズ化をと願わずにいられない、今期最大の収穫だと思います。最終回での、あれやこれやの謎に対する決着、落とし前のつけ方も見ものでしょう。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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