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ネズミ、社長のスーツをかじる

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
国境の壁用資金募集" トランプ仮面の物乞い登場 (にしゃんた)(写真:Splash/アフロ)

 トランプ米大統領新年早々に派手な振る舞いを見せ世界中が緊張状態に陥った。政権浮揚による再選のための手段との見方も強い。

 2016年の米大統領選において、当初ありえないと目されたトランプ大統領の誕生が世界を驚かせた。彼を支えた隠れトランプの存在を通して、日米文化の対比の中で頻繁に用いていた日本らしさとしての「本音と建前」は、「なんだ?アメリカにもあるのか」と気づかされた。

「1ドルくれなきゃトランプに投票する」 米NYの物乞いがアピール(写真:ロイター/アフロ)
「1ドルくれなきゃトランプに投票する」 米NYの物乞いがアピール(写真:ロイター/アフロ)

 容赦なく社会の分断や差別を煽るヘイトスピーチを繰り返しながらの大統領選に向けて活動を行ったトランプの姿が記憶に新しい。言動の過激さが増すにつれカウンターアクションに出る者が増える最中、逆に、いわば大統領選挙便乗ビジネスに打って出る者も現れた。路上で「メキシコとの間の国境の壁用資金募集」や「1ドルをくれ。さもなければトランプに投票するぞ」などのプラカードを持ってトランプ仮面の物乞いが登場した。彼らの言動からは、自らも潤い、社会には警鐘を鳴らすという両面を同時に叶えている高度な仕掛けのようなものを垣間見た。

 猪年の年末、私は南の島スリランカにいて、ここでも偶然にも同じような人々の姿に遭遇した。ターミナルでバスに乗り出発時を待っていた時のことである。歌声が聞こえると思い目をやると、当の歌い手が車両の前方の扉から姿を現した。彼は、物乞いを生業にしている片腕なき若者である。

 歌が途中で終わったと思いきや、お邪魔しますとのお断りの言葉があり、続けて自己紹介がはじまる。かいつまんで言うと、目の前の乗客が身体的な点一つとっても恵まれていること、そしてそれは前世において徳を積んだことの賜物であること、つまり因果関係として説明する。最後に、現世も来世も今以上に恵まれるようにお祈りし、徳を積むために自分に恵むよう提案するのである。この国は多宗教国でありながら、多数派は仏教徒で、日本と違い輪廻転生が強く信じられている。その時、その時の行いによって来世が決まると信じている宗教によってもたらされた下地がこの社会にある。そのことがあるから成立するいわばビジネスモデルである。

 完璧なまでの宗教に基づいた因果関係の説明が終わると新たな曲を歌い、手を差し出しお金を乞いながら車内を後方に向かって進む。乗客全員と言って良いほど進んでお金を恵む。私もポケットを漁り1ルピーを手渡した。その次の瞬間である。彼はお金を私に返してきたのである。一瞬なんのことか良く分からなかったのですが、彼が下車した後に、隣の乗客に理由を教えてもらい腑に落ちた。

 1ルピーでは足りない。もっとくれと言う意味で、つまり、来世への先行投資として、来世の条件との交換条件としての1ルピーは安くはないかと言葉を使わずして私に伝えたかったようである。むろん、これは彼に限ったことなのか他の同業者も同じなのかを確認しようはない。しかし、結果として恵まれない者を助けると言う好循環がこの社会において存在していることに改めて感動したのである。

 新年は子年である。多産のため、子孫繁栄などの象徴であり、この国は少子化にあって特に肖りたい一年でもある。さらには昔噺「鼠浄土」なども有名だが、鼠は異界や地縁を繋げてくれる存在で、大事にすると福を授けたり、命を守ってくれるなど人間との良好な関係の言い伝えもある。その逆もあり、私の場合、鼠と言うとどうしても綾小路きみまろのネタが頭をよぎる。

 「社長が専務をいじめると、専務は部下をいじめ、部下は平社員をいじめ、平社員は社内にいじめる者がいないから、家に帰って妻をいじめ、妻は子に当たり、子供は犬を、犬は猫を、猫は鼠をいじめ、鼠は社長の背広をかじる。」と言うネタである。負の連鎖で、弱者いじめは必ずしっぺ返しが訪れると言う教訓が込められている。

 最近流行りの持続可能な開発目標(SDGs)などにも通ずる部分もあろうが、各々として、そして国家としてなど、あらゆる立場で常に世の中の悪循環に加担することなく、好循環を意識して丁寧に生きていく一年にする必要があるのではなかろうか。

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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