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問題作『君たちはどう生きるか』を解読する、太い「補助線」としての『スタジオジブリ物語』

碓井広義メディア文化評論家
鈴木敏夫さんの新著『スタジオジブリ物語』(筆者撮影)

問題の新作『君たちはどう生きるか』

先月14日、宮﨑駿監督の新作『君たちはどう生きるか』が公開されました。

時代背景は戦時中。

東京から地方に疎開してきた少年が体験する、一種の「冒険ファンタジー」と言えるでしょう。

空襲で失ってしまった母。

鬱屈を抱えたままの自分。

そんな現実世界と、もう一つ別の世界とが交錯していきます。

先が読めない展開。

村上春樹さんの小説にも負けない、暗喩の数々。

見る側は、困惑と陶酔の中で、ひたすら画面を追っていくしかありません。

いろんな意味で、「問題作」ではないでしょうか。

宮﨑駿監督作品の「通史」

宮﨑監督の拠点であるスタジオジブリが設立されたのは1985年。

『風の谷のナウシカ』が公開された翌年のことです。

この時から現在まで、鈴木敏夫さんはジブリのプロデューサーとして活動してきました。

「巨匠・宮﨑駿」を世界でただ一人、「宮さん」と呼べる稀有な人物かもしれません。

そんな鈴木さんの責任編集で出来上がったのが、ジブリの通史であり、宮﨑監督作品の通史でもある『スタジオジブリ物語』(集英社新書)です。

鈴木敏夫の「記憶」と「証言」

最も興味を引くのは、全作品についての鈴木さんの「記憶」と「証言」です。

何しろ、宮﨑監督は「終わったことはどうでもいい」という人なんですね。

「大事なことは、鈴木さんが覚えておいて!」が口癖であり、鈴木さんはまさに「生き証人」です。

たとえば、『もののけ姫』(97年公開)の映画化を、宮﨑監督に提案したのは、鈴木さんでした。

監督の年齢などを踏まえ、「時代劇を制作できるタイミングは今しかない」と感じたのです。

しかし、24億円にまで膨らんだ制作費を回収して利益を上げるには、配給収入60億円が必要でした。

プロデューサーとして、鈴木さんは前例のない宣伝計画を練っていきます。

「現代との格闘」

また、『千と千尋の神隠し』(2001年公開)は、「宮﨑が当初考えていたストーリーと大幅に違う形で完成している」そうです。

中でも、「カオナシ」というキャラクターの存在が大きい。

「人間の心の底にある闇、(中略)“無意識”を象徴」するカオナシが、あらゆる欲望を飲み込みながら暴走する。

そこには、鈴木さんが考える、「現代との格闘」がありました。

では、問題作『君たちはどう生きるか』が描いている、格闘の意味とは何なのか。

ぜひ、劇場で確かめていただきたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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