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映画もネットに「流出」させてはどうか

山口浩駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

ソニー・ピクチャーズが映画「ザ・インタビュー」の公開を見送った、と報じられた。

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)は17日、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「ザ・インタビュー」について、25日に予定されていた公開を中止すると発表した。

出典:ソニー、北朝鮮映画「ザ・インタビュー」の公開中止を決定」(Reuters2014年12月18日)

劇場がネット上でのテロ予告を受けて相次いで上映中止を決めたことを受けてのものだそうが、それ以前にソニー・ピクチャーズが受けたサイバー攻撃との関連もある。本当にやりかねん、という心配なのであろう。制作費に4200万ドル、P&Aでさらに数千万ドルかけた作品をお蔵入りにするのはソニー・ピクチャーズとしても断腸の思いだったろう。

そこであくまでネタとしての提案だが、お蔵入りした映画、ネットに「流出」させてみてはどうだろう。

このサイバー攻撃、やはり北朝鮮が関与したものだったらしい。劇場への脅迫も同じグループ、ということになるのだろうか。

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)に対する大規模なサイバー攻撃で、米当局が北朝鮮の関与を断定したことが分かった。米政府関係筋が明らかにした。

出典:「ソニー映画公開中止、サイバー攻撃は「北朝鮮関与」と米当局断定」(Reuters2014年12月18日)

この映画は北朝鮮の金正恩第一書記の暗殺計画を扱ったものであるという。表現行為をテロで封じ込めるのはけしからんという意見もあるだろうし、国の指導者ともなれば多少荒っぽい批判も受忍すべしというのは私たちの文化圏ではある程度のコンセンサスだろうが、かの国ではそういう理屈は通じないということだろう(とはいえ大統領の悪口を書いただけで記者の刑事責任を問う国もあるし、程度問題だといえば程度問題なのかもしれない)。

ソニー側はこの作品について、DVDやブルーレイなどのディスク媒体での販売やオンデマンド配信なども含め、公開の予定はないとしている。完全なお蔵入りというわけだ。将来状況が変わる可能性もなくはないだろうが、そういう考えも今のところはないという。まあ仮にあったとしても今そうはいわないだろうが、ややもったいないという気はする。

そこでだが、どうせ公開の予定がないなら、この作品、ネットに「流出」させてみてはどうか。ソニーが流出した情報のダウンロードを妨害するため逆にサイバー攻撃をしかけたという報道もあったが、真偽はともかく、そんなことをしてもたいした効果はなかろう。いったん出てしまった情報の回復は難しい。だからこそ、それを逆手にとってみてはどうかということだ。

先日明らかになったハッカー攻撃では機密情報を含む100TBものデータが流出したそうだが、100TBというのは容量の大きさからみて動画がかなりの部分を占めるのであろう。当然、件の映画も流出データの中に含まれていたとみていいのではないか。

ならば、その流出した当該映画が「たまたま」外部に漏れたとしてもおかしくはなかろう。別にわざわざ「流出させた」と言明する必要もない。ハッカー集団の中に「裏切り者」がいた可能性だってあるではないか。ともあれいったん流出した映画は、またたく間に無数のコピーが作られ、世界中のネットに拡散し、なまじ劇場公開(どうせ公開されてもR指定だ)するよりはるかに多くの人々の目に触れることになるのではないか。ハッカー集団が何人ぐらいいるのかわからないが、世界中にテロ予告して回るのも事実上不可能なわけで、そうなれば彼らの目論見は根底から崩壊する。

別にかの国と戦え!と煽るつもりはないが、情報流出を武器や脅しの道具として使ったりする行為がまかり通る状況はあまり気持ちのいいものではない。とはいえ、情報の流出と戦う際に、「隠す」「消す」で対抗するのはかなり困難であるのは事実で、だったら「流出」には「流出」で対抗するのがいいのでは、という話だ。もちろんネタだし、ソニー・ピクチャーズが本当にこれをやるとは思えないが、「たまたま」「なぜか」件の映画があちこちのファイル共有サイトとかに流れついたとしても驚かないよ?ぐらいはいっておこう。

とにかく、自社の企画ゆえとはいえ、ご災難なことであった。とばっちりを食った方も少なからずいよう。謹んでお見舞い申し上げたい。サイバーセキュリティ大事。関係の皆様のさらなるご健闘を伏してお願いする。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

専門は経営学。研究テーマは「お金・法・情報の技術の新たな融合」。趣味は「おもしろがる」。

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