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米国リバタリアン党「ワクチンパスポートはホロコースト時代の黄色い星なのか?」で大炎上・釈明

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ホロコースト時代に例えられやすいパンデミックでの規制

アメリカのケンタッキー州のリバタリアン党が新型コロナウィルスのワクチン接種をした証明となるワクチンパスポートの所有を、ホロコースト時代にユダヤ人が着用させられていたダビデの黄色い星に例えて、ネットで炎上している。

ワクチンパスポートは新型コロナウイルスのワクチンの接種歴やPCR検査結果を証明するもので、国内や海外への自由な渡航を促すことを目的に各国で導入や議論が進んでいる。

ケンタッキー州のリバタリアン党はツイッターで「ワクチンパスポートは黄色で星型をしていて、私たちの洋服の上につけなくてはいけないのか?」と投稿。アメリカでは新型コロナウィルスによるロックダウンやマスク着用、ワクチン接種に反対している人がとても多い。個人やタレントなどがパンデミックとホロコーストを比較するような発言をして炎上することはよくあるが、今回は政党が公式ツイッターで投稿したことから、いつも以上に炎上している。

▼ケンタッキー州のリバタリアン党はツイッターで「ワクチンパスポートは黄色で星型をしていて、私たちの洋服の上につけなくてはいけないのか?」

ホロコースト時代に差別標的のために黄色い星を着用させられたユダヤ人

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。黄色のダビデの星はナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に乗せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われており、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられている人が多い。そしてそのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。当時、ゲットーに閉じ込められたユダヤ人やアンネ・フランクのように隠れ家で息をひそめながら隠れていたユダヤ人に例えられやすい。

そして欧米では新型コロナウィルスでのパンデミックでの不自由な状況をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットが炎上している。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限され、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」というイメージを持つ人が多い。

米国最大のユダヤ団体の名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League)のCEOのジョナサン・グルーンブラット氏は「ホロコーストを何も理解していない恥ずべき比較だ」と非難していた。ケンタッキー州の民主党も「理解しがたいし、受け入れがたい」とコメントし、同州の共和党のスポークスマンのマイク・ロネルガン氏は「このような憎悪に満ちたコメントと極端な陰謀論、レトリックには絶対に許せません」と語っている。ケンタッキー州知事のアンディ・ベシア氏も「リバタリアン党は、ナチスと比較するような発言をすぐにすぐに撤回すべきだ。パンデミックを政治利用すべきではなく、ケンタッキー州には反ユダヤ主義はない。すぐ謝罪すべきだ」と語っている。

リバタリアン党「今回のツイートへの批判は理解しています。私たちはこれからも専制政治と戦っていきます」

リバタリアン系のシンクタンクのケイトー研究所のダイビッド・ボーズ氏は「映画館に行ったり、レストランに行ったするような市民の様々な活動において、政府はワクチン接種の証明書を強要すべきではない。ホロコーストとの比較は何の助けにもならないですが、この問題については議論すべき余地があります」と語っている。

ケンタッキー州のリバタリアン党はツイッターで、今回のワクチンパスポートとユダヤ人の黄色い星の比較についてコメントを投稿。「問題なのは政府が民間企業と一緒になって私たちの行動を把握しようとしていることです。政府は私たちをずっと家に閉じ込めようとしています。私たちの政党は反ユダヤ主義ではないです。ホロコーストは悪であり、そのような行為が二度とあってはいけません。そのことは理解しています。ホロコーストも一夜にして突然起きたわけではありません。何年にもわたるユダヤ人差別と迫害の積み重ねで、最終的にジェノサイド(民族虐殺)が起きました。今回のツイートへの批判は理解しています。私たちはこれからも専制政治と戦っていきます」とコメントしていた。

▼ケンタッキー州のリバタリアン党はツイッターでコメントを返している。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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