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家系ラーメンブームの次に来るラーメンはズバリ「背脂」だ!

山路力也フードジャーナリスト
次に来るラーメンは何ラーメンなのか。

再びブームとなっている横浜家系ラーメン

家系ラーメンが誕生して今年で50年。
家系ラーメンが誕生して今年で50年。

 ラーメンの世界では常に新たなトレンドやブームが生まれては消えてきた。1970年代には「札幌味噌ラーメン」が、1990年代には「豚骨ラーメン」「環七ラーメン」「ご当地ラーメン」などのブームが生まれ、1990年代後半から2000年代初めには、インターネットの普及と共に空前の「ラーメンブーム」へと突入していく。

 その後も「鶏白湯ラーメン」や「つけ麺」「まぜそば」「激辛」「ガッツリ系」「ベジポタ」など、まるでファッション業界のように次々と新たなムーブメントを生み出してきたラーメン業界。そしてここ数年は豚骨醤油味の「横浜家系ラーメン」が全国的なブームになっている。

流行やブームは繰り返していくもの

進化したオリジナルの家系ラーメンを出す店も増えている。
進化したオリジナルの家系ラーメンを出す店も増えている。

 家系ラーメンが誕生したのは今からちょうど50年前のこと。1974年に創業した『吉村家』から独立した店や派生の店が増えて、1990年代後半には様々な家系が横浜以外にも出来て「第一次家系ラーメンブーム」とも呼ぶべき状況となっていた。それから四半世紀の時を経て、海外に進出する家系ラーメンや進化したオリジナルの家系ラーメン店が出来るなど、今家系ラーメンは再び注目を集めているのだ。

 流行やブームは繰り返していくのが世の常。80年代のJ-POPが流れる街を、ルーズソックスを履く女性が闊歩する今の時代。25年も経てばかつてのブームを知らない世代が大人になる。かつて一世を風靡したラーメンがまた今の時代に再注目されているのは自然なことで、今の20代にとっては過去に流行したモノや文化が懐かしさの対象ではなく、シンプルに新しいものとして受け止められているからだ。

背脂ラーメンの存在を忘れてはいないか

スープ一面にびっしりと浮いた背脂の美しさ。
スープ一面にびっしりと浮いた背脂の美しさ。

 家系ラーメンの次にブームとなるラーメンは何なのか。期待も込めて挙げるとすればズバリ「背脂ラーメン」だと断言してしまおう。背脂ラーメンとは豚の背脂が浮いたラーメンのこと。1970年代後半から東京では「背脂チャッチャ系」と呼ばれるラーメンが増え、背脂ラーメンは東京を代表するラーメンの一つとなった。

 背脂ラーメンがなぜ一世を風靡したか。そしてなぜまたブームになり得ると考えるのか。それは他のラーメンにはない「背脂」の存在にあると考えて良い。ラーメンで使われる油は基本的に「液体」である。しかしながら背脂ラーメンの場合、浮いている油は「固体」というところがポイントで、この固体の背脂が他のラーメンの油とは違う働きをする。

「背徳感」「下品さ」が背脂ラーメンの魅力

この背脂の粒がラーメンに新たな機能性を与えた。
この背脂の粒がラーメンに新たな機能性を与えた。

 麺を啜れば背脂がまとわりつき、スープを飲めば食感のアクセントにもなる機能性。さらに客の好みに応じて、あっさりからこってりまで脂の量を増減出来る柔軟性。そして何よりも「脂を食べる」という背徳感。これほどまでに魅力的でラーメンらしいラーメンが他にあるだろうか。

 太い存在感のある麺にたっぷりのモヤシとネギ、そして大判のバラロールチャーシューというパーツも実にラーメンらしくて良い。「ラーメンらしさ」という曖昧な表現で語るのはいささか雑な気もするが、高級料理のような上品さのない、庶民的でラーメンらしい良い意味での「下品さ」を持っているのが、屋台から生まれた背脂ラーメンの持つ最大の魅力ではないだろうか。

家系や二郎と背脂ラーメンの類似性

『ラーメン二郎」を祖とする「ガッツリ系」も背脂ラーメンの一種だ。
『ラーメン二郎」を祖とする「ガッツリ系」も背脂ラーメンの一種だ。

 さらに背脂ラーメンは今人気のあるラーメンとの親和性も高い。『ラーメン二郎』を祖とする「ガッツリ系」と呼ばれるラーメンも、構成要素そのものはほぼ背脂チャッチャ系のラーメンと同じだ。「アブラマシマシ」と振りかける脂の量を増やせるのも、背脂チャッチャ系の「ギタギタ」「ギトギト」と同じことだ。

 油やタレの量を増減出来るシステムはガッツリ系のみならず、家系ラーメンでも同様。油の量で自分の好みの味わいをカスタマイズする文化が定着している中で、背脂ラーメンのシステムが受け入れられないはずがない。さらに存在感とボリューム感のある麺の立ち位置も類似している。背脂ラーメンは味こそ違えど、家系ラーメンやガッツリ系ラーメンと近い構造のラーメンなのだ。

 また背脂ラーメンは東京だけの専売特許ではない。新潟燕の「背脂煮干ラーメン」や京都の「背脂醤油ラーメン」など、東京の背脂ラーメンと同様に長いあいだ受け継がれているラーメン文化がある。また九州では豚骨ラーメンの上に背脂を振りかける店もある。全国的にみても背脂ラーメンが広がる素地は確実にあると考えて良い。

新たな背脂ラーメンの登場と概念の可視化が急務

新潟や京都にも古くから背脂ラーメンの文化が根付いている。
新潟や京都にも古くから背脂ラーメンの文化が根付いている。

 背脂ラーメンが今後ブームになっていくために必要なことは、やはりエポックメイキングな存在になり得る、新たな背脂ラーメン店の登場だろう。東京の背脂ラーメンの人気店は、かつての背脂チャッチャ系ブームを牽引した老舗やその流れを汲む店がほとんどだ。今の時代にマッチすべくアップデートされた、革新的な背脂ラーメンの登場を期待したいところだ。

 そして「背脂ラーメン」「背脂チャッチャ系」という言葉を可視化して浸透させていくことも不可欠だ。言葉は文化を創り、そして牽引する力となる。家系ラーメン店の多くは看板に家系ラーメンと掲げ、ガッツリ系ラーメンの多くは黄色い看板を掲げる。背脂ラーメンという文化や概念をいかに可視化していくかも重要だ。

 幸にして東京には背脂ラーメンブームを牽引してきた名店の多くが、今も愛されて営業を続けている。ぜひ背脂ラーメン店に足を運んで、背脂の魅力をあらためて感じて欲しい。そしてこれからラーメン店を営もうとする人には、ぜひ新たな背脂ラーメン作りに挑んで欲しいと切に願う。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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